少し変わった恋愛小説です。最後に鳥肌立つような結末になると思いますので、最後までどうぞお付き合いくださいませ。評価、感想など、是非よろしくお願いします。
プロローグ
何も、怖がることなどないのに。
何も、不安なんてないのに。
心に湧き起こるこの不安な気持ちはなんなのだろう。
時々眩暈のように、思い出したように襲ってくる感覚。
俺が、本当は『ここにはいない』
俺という存在が曖昧で。
本当は、この世界までも何もないような気がしてきて。
俺の存在が、全て嘘で。
景色も見えない。音も聞こえない。香りも、感覚も、何もない世界に、ひとり。
怖くて。
淋しくて。
哀しくて……。
そんな感覚を憶えたとき。
この腕の中にいる、優しくて、暖かい感覚に、甘えたくなって、たまらない。
「ああっ……はぁっ……」
野原に咲く花を集めた花束のような甘くて優しい香りを含んだ粉雪のような、白くて、儚くて、柔らかく暖かい、彼女の身体。
優しく、甘えてくる、心に響く声。
彼女の中へと俺の全てがとけてゆく――。
愛している。
そんな簡単な言葉では言い表すことができないほど。
俺の、大切な女の子を、優しく抱きしめる。
彼女は優しく、力強く、俺に抱き返してくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。大好き……」
愛しい女の子が俺を包みこんでくれる。
優しい声で、優しい言葉をかけてくれる。
心が落ち着いてゆく。
そうさ……。
ここにいる女の子が、現実でないなんて、そんなことあるはずないんだ。
俺は、ここにいるんだ。
「俺も、愛している……。心から」
そのまま、彼女の唇を俺の唇でふさいでいた。
――――
「もう……。そんな不安な顔。そんな顔をしないの」
彼女が俺を優しい瞳で見下ろしている。
いたずらをした子供をしかっているような、優しい口調で。
「俺、そんな顔をしていたか?」
「そうね……。まるで、迷子になった子供みたい。不安になって、今にも泣き出しそうな」
「また、子供扱いか?」
俺は左手を伸ばして彼女の頬に触れ、首へと撫でる。
「あはは。でも、あなたは、ここにいるよ。ほら、今私、あなたを私の中で感じてる。あなたを包み込んでいるのがわかるよ。だから、不安になることなんて、なにもないんだよ」
彼女の頬にある俺の左手をとって。そっと俺の指輪をつまんで。指を絡めてくれた。
「それはわかってる。俺は君を愛しているし、こうしていると、俺の心まで、君と一つになれていて。俺は幸せだよ」
「うん……。私も、幸せ」
彼女の長い髪が、俺の胸に擦れて。そのまま、顔をうずめた。
「ただ、俺……。昔から、よく……変な感覚に襲われることがあるんだ」
「変な感覚?」
「ああ。なんだか、俺……。本当はここにいないんじゃないかって」
「ここにいない?」
「わからないけど、とても不安になって、怖くなる。遠い、知らない、何も無いところに、独りでいるような……」
「大丈夫だよ。安心して。あなたはここにいる。それは、私が一番よくわかるよ」
彼女は起き上がり、俺を優しい瞳で見て。繋がっていた手をぎゅっと握り締めてくれた。
「ありがとう。俺も、一緒にいるってほんとよく感じる。愛している女の子がここにいるって」
起き上がり、彼女を引き寄せて、抱きしめる。
彼女の柔らかな胸に顔をうずめる。とくん、とくんと、鼓動が聞こえていた。
彼女は俺の頭を優しくなでてくれていた。
……愛しい。焦がれるほどに。
「……ねえ。あなたの昔のことを、話して」
「俺の、昔のこと?」
「うん。あなたのこと、もっともっと知りたいから。それに……。あなたの昔の話があれば、そんな不安って、きっとなくなると思う」
「不安が、無くなる、か。そうだな。少し、話してみる」
「うん。訊かせて。あの人のことも。もっと訊きたい」
「ああ。それじゃ、どこから話せばいいかな……」
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