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15.浜田さんとディズニーランドへ行きました

 僕が浦安の駅に着いたのは、約束の7時30分ぎりぎりでした。
改札を出たところで、浜田さんは既に来てきょろきょろしながら待っていました。
僕はこんな格好をしているのが恥ずかしかったので、そーと浜田さんに近づいて、隣に行きましたが、
浜田さんは僕を見ても、未だあたりを見渡しているのです。僕だと気付かないんです。
僕はますます恥ずかしくなり、下を向いてしまったのです。そこでやっと気付いてくれて、
「まさか、あなた純」
僕は、声を出さずにこっくりと頷いたのです。
「可愛い、すごく可愛い。どこから見ても女の子だわ」
そんなことを言う浜田さんは、まるっきり男の格好でした。元々スカートなんか履いた姿を見たことはなかったのですが、
今日はGパンにトレーナー姿で、髪が短い浜田さんは男にしか見えなかったのです。
「朝から、そんなおめかしして、時間掛ったでしょ」
「はい、1時間半以上掛りました」
「それは大変だったわね」
こんな早い時間にしたのは、誰なんだと言ってやりたかったけれど。

「あなた、こうして見ると、色が白いわね。女優の綾瀬はるかに似てるわね。言われたことない?」
「そんなこと、言われるわけが無いじゃないですか。いつもは男の姿なんですから」
僕は、綺麗だとか、女のように見えるとか言われても素直に喜べませんでした。
「そうか、それはそうだわね。でも、綺麗ね。それにその脚もきれいね。まるっきり女の脚ね。
 ミニスカートが良く似合ってるわよ。 私の脚なんか、痣だれけよ。
 そんなミニスカートなんかとても履けないわ」
「僕も同じようなもんです。パンティーストッキング履いてるからきれいに見えるだけです」
「あなたを見てると、健太があなたに女装すすめるのわかるような気がするわ。
 今のあなたすごく魅力的よ。私なんか足元にも及ばないわ。
 私の脚なんて、筋肉もりもりだもん」
「僕なんか、そんな脚の方が魅力的だと思いますけど」
その言葉が浜田さんにとっては面白かったのか、「ハッハッハッ」と笑い飛ばされました。

浜田さんは、小さなリュックを肩に掛けているだけでした。
一方僕は、お弁当の入った大きなバッグに、これも姉に借りたポシェットを肩から掛けていました。
その大きな荷物を見て、
「えらい荷物を持ってるわね。私が持ってあげるわ」
「いいです。僕が持ちます。僕は男ですから」
「今のあなたって、どう見ても可愛い女の子よ。私が持ってあげるって」
確かにと思い、僕より大きい浜田さんへ荷物を手渡しました。
「重いわね。何が入ってるの」
「お弁当、作ってきたんです」
「へー、でも、少し多くない」
「そうかな?」

僕等がディズニーランドの入り口に付いた頃には、もう既に沢山の人が並んでいました。
開門と同時に荷物をコインロッカーに預け、浜田さんはスペースマウンテンへ一目散に駆けていきました。
僕は、あまりスピードのある乗り物は苦手でしたが、浜田さんは逆に好きみたいです。
僕はこんな格好していても、一応は男だし、浜田さんの前で怖がっているところは見せられません。
しかし、平気な顔をしてられたのは乗るまででした。僕は恐怖のあまり、浜田さんにしがみついてしまったのです。
そんな僕を浜田さんは、
「ほんと、純って可愛いね」と言われる始末でした。
僕は、もうこんな乗り物はこりごりと思いましたが。自分から怖いなんて言えません。だって男ですから。
だから、理由をこじつけて、
「折角セットした髪が乱れてしまうから、もうこんなの乗るの嫌だからね」
と女が言うようなせりふを言ってしまったのです。すると、
「もう、女になりきってるわね」とまた言われてしまいました。

しかし、浜田さんは僕の意見など無視して、次から次へとスリルのある乗り物を選んでは、
一緒に乗らされました。僕はもう遠慮なく、浜田さんにしがみついて怖がっていました。
浜田さんは、そんな僕を面白がっているように思えます。
周りからは、間違いなく浜田さんが男で、僕が女と映るでしょう。
それでも、僕は幸せでした。彼女と一緒にいることが。
そして、彼女と同じ空気を吸っていることが、
そして、彼女と同じ話題で笑っていることが。
もう、僕はどう見られていようが、気にならなかったのです。
僕は女の格好してようが、彼女を好きなことに変わりはなかったし、
彼女も僕を気持ち悪がらないで接してくれている事が、嬉しくて、幸せな気持ちにしてくれています。

僕等は二人で、僕が作ってきたお弁当を食べました。
「これって、すごい量ね。それに種類もすごいわね。
 これ全てあなた一人で作ったの」
「はい、昨日の夜から仕込んで、今朝作ってきました」
浜田さんは、どれもこれも美味しい、美味しい、と言って食べてくれました。
大きいおにぎりと小さいおにぎりを用意していたのですが、当然のごとく大きいおにぎりを頬張っています。
僕は、小さい方を食べています。
あまりに美味しそうに食べてくれるので、僕は作ってきた甲斐があり、
美味しそうに食べる浜田さんを見て、嬉しくて仕方ありませんでした。
「あなた、全然食べてないじゃないの。私一人食べてるみたい」
「そんなことないですよ。遠慮しないでどんどん食べてください」
「遠慮なんかしないわよ。でも、これ全て食べるの私一人じゃ無理よ」
確かに、少し作りすぎたかもしれません。未だ、半分くらい残っています。
「男のくせに本当に食べないわね。もっと食べなきゃ駄目よ。
 あなたそれでも男なの。そんな体じゃ、女の子抱けないわよ」
今日一日で、浜田さんの事をいろいろ知りました。
彼女は女性であるにも関わらず、デリカシーの無いことが分かりました。
食事中にも関わらず、何故セックスの話をするのか、僕にはわかりません。
だからと言って、そのことが浜田さんをきらいになる理由にはなりません。それ以上に魅力的な人なんです。

「ひょっとして、あなた女を知らないじゃないの」
女性なのに、そこまで突っ込んでくるのか、と思いながらも、そのことにはかなり動揺していました。
「僕だって、女の経験くらいありますよ」
と言ったものの、高校生の時は勉強ばかりしていて、彼女のいない僕にとって、そんな経験はある筈もなかったのです。
この場面で、童貞なんて言えるわけがありません。僕は見栄をはったのです。

「これ以上、食べたら動けなくなっちゃう。これぐらいにして、後でまた食べない」
と全て食べられなかったことを詫びてくれました。しかし、食べなかったのは僕で、殆んど浜田さんが食べたのですが。
僕は、3分の1くらい残った料理を詰め替えて、また後で食べれるようにしました。
燃料補給の済んだ浜田さんは、また精力的に動き始めたのです。
僕は、もう少し休んでからとしたかったのですが、彼女に引っ張られるようにして付いて行きました。

「僕、ミッキーのアトラクションを見るから、浜田さんは好きな乗り物乗ってくれば」
ミッキーのアトラクションを見たかったのは確かですが、はっきり言って疲れていたのが本音です。
なにせ、朝4時半から起きているのですから。それを知ってか、浜田さんも快く了解してくれました。
「それじゃ、私あの乗り物にするわ。待ち合わせ場所はあそこでいいわね」と言って、さっさと行ってしまいました。

僕は、椅子に座って体を休めていました。疲れてはいるが、気持ちの良い疲れでした。
浜田さんは、今まで以上に僕とお付き合いしてくれそうに思えます。それは、浜田さんを見ていれば分かるのです。
でも、僕にあの元気な浜田さんに付いていけるかが心配です。
なんせ、馬力があり、何事も自分で決めて、やっていく人ですから。
そんな人だから、一流になれたのだと思います。それに格好良いし、全てが絵になります。

浜田さんのことを想い幸せに浸っているそんな時、一人の青年が僕に話しかけてきたのです。僕はギクとしました。
だって、男だと知られたくはありませんから、声が出せません。
その青年はしきりと話しかけてくるのです。
「何をしてるの」「一緒に乗り物に行かない」としつこく付きまとってきます。
僕は声を出すことが出来ないから、笑顔だけ相手に返して、首を振って否定したのですが、離れようとしません。
その時浜田さんが帰ってきて、その青年に、「何か用ですか」と話しかけ、振り払ってくれました。
「しばらく近くで見てたけど、楽しそうに話してたわね」とかなり不機嫌そうな顔をしていました。
「そんなことないよ。近くにいてたなら、早く来てくれればいいのに。僕は本当は困っていたんだから」
「そうは見えなかったけど。あなた本当は男の人が好きなんじゃないの。性同一性障害ってやつじゃないの」
「そんなこと無いよ。僕は女の人が好きだよ。現に今、僕は浜田さんが好きだし」
と言ってしまってから、顔を赤くしていました。浜田さんがいつものあの笑顔に戻って言いました。
「あんた、それってやっぱ、性同一性障害ってやつだわ」
「???」


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