表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お題掌編

掌編――バナナ

作者: と〜や

 ヤカンがやかましく鳴り出した。手を伸ばしてガスを止めると、新幹線の警笛のような音はフェードアウトする。

「コーヒーでええんやったっけ?」

 こたつに足を突っ込んでお笑い番組に突っ込んでる由紀に声をかける。

「え? なあに? ごめん。聞いてなかった」

 あたしは同じ言葉を繰り返した。

「うん、ブラックでお願い。それにしても、こっちの番組って面白いわ。なんで地元で放映してくれないんだろ」

 それはそう思う。手を休めずに相づちを打つ。

「まあ、それでも、昔に比べると、全国放送のお笑い番組って増えたんちゃう? こっちにいるとわかれへんけど」

「そうねえ。増えたと思うんだけど」

 コーヒーカップを由紀の前に置いて、こたつに足を突っ込む。

「笑いは百薬の長って言うじゃない。もっと笑えばいいのに。学校でも会社でも、眉間にこーんな皴寄せちゃって、しかめっ面ばっかり。見てるこっちも眉間に皴が寄っちゃいそうよ」

「あんたのところもそうなん? てっきり都会だけかと思ってたけど」

 由紀は首を振った。

「都会も田舎もみんな一緒よ。都会の方がまだましなんじゃない? 田舎にいると空も世の中も自分の未来もみんな灰色に思えてくるよ。犯罪は増えたし、ちょっとのことでみんなすぐ怒り出すし」

「ああ、それはほんまにね。みんないらちやし」

「いらちって何?」

「ああ。えーっと……短気ってこと、だと思う」

「ああ」

 彼女は合点が行ったのか、何度かうなずいた。

「でも、もとから短気ってわけじゃないでしょ。昔はのんびりしてたし、多少のことも大目に見るっていうか、心が広かったじゃない」

「まあ、そうだね」

「でね。真紀には広い心でいて欲しいのよ」

 コーヒーをすする。彼女の言葉が心に突き刺さる。

「……あたし、そんなに変わった?」

「変わってないと思う。だから今のままでいてほしいなって」

「臆面もなく言うわね」

 そう返しながら、だんだん顔がほてってくるのがわかる。

「だから、ね?」

 彼女は両手を合わせて拝むような仕草をした。

「夕べ、真紀のバナナ食べちゃったの、許してくれるよね?」

 はっと振り向く。夜食に食べようと思ってた「とっときのプレミアムバナナ」は、皮だけになっていた。

「えーっ! 楽しみにしてたのにっ」

「広い心で許してっ」

「ほ、本気にしたのにっ」

 彼女はぺろっと舌を出してウインクして見せた。

別館ブログからの転載です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=824037124&s
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ