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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最強最弱の大魔法使い~もらったスキルはプラスとマイナス~

作者: かたなかじ

短編です


彼こと「振動しんどう ゆれる」は転移者だった。次元のゆがみにはまったことで異世界へと転移することになってしまった。

しかし、ゆがみにはまった際に彼のことを不憫に思った神によって一つのスキルと一つのマイナススキルを与えられることになる。


一つ目はスキルというにはあまりに強力なものであった。その名を『大魔導』、これは異世界の全ての魔法使いを超越する能力であり、過去、現在、そして未来を含めたとしても彼を上回る魔法使いは存在しない。


そのスキルの万能ぶりに彼は驚くが、そのあとに授けられたマイナススキルによってその相貌は崩れることになる。

『世界最強の魔法使いユレル=シンドウ』

 この肩書は彼のものだった。その肩書を聞きつけた者はこぞって彼の力を借りようと様々なものを差し出してきた。

 彼は善悪の判断はするものの、自身の強い力を国・種族を問わずにその力を貸していく。

 これは、とある国に力を貸した時の話だ。


「シンドウ様、どうか我らの国をお救い下さい!」

 そう懇願してきたのは、今にも敵国に滅ぼされそうな運命にある小国の姫だった。彼女は今にも泣きそうなほど困った表情で訴えてきている。

「わかりました。私の力でよければあなたにお貸ししましょう」

 その表情に心打たれた揺が力強い返事を返すと、彼女は揺に抱き着いてきた。

「ありがとうございます! お礼はなんなりと!!」

 彼女は絶世の美女であり、敵国からは姫を差し出すなら支配国として名を残してやろうなどと言われるほどであった。


 その彼女がその身を差し出してでも助けて欲しい。そう願ったのが揺だった。

 しかし……。

「うっぷ、離れて下さい。おえ、うえええええ」

 揺は彼女が抱き着いた時の揺れに思いっきり酔ってしまっていた。

 世界最強の魔法使いと言われる彼のマイナススキル、それは『揺れに弱い』ことだった。最初にこのスキルをもらった時は、少しくらい揺れに弱くても平気だろうと高を括っていた。

「おええええ」

 しかし、彼のこれはどんな些細な揺れでも酔ってしまうほど致命的なものだった。



『世界最強の魔法使いユレル=シンドウ。しかし揺れに弱い』



「えっ? だ、大丈夫ですか?」

 自分でも美人な方だと自覚している彼女は抱き着いたまま、不安そうな顔で揺を見ている。

「だ、大丈夫です。おええええ」

 真っ青な顔をしたままのこの返答を聞いて大丈夫と思えるものはこの世にいないだろう。彼女もそれは例外ではなく、既に冷め切った目で揺のことを見ていた。この頼りない魔法使い、本当にこれが世界最強なのか? その疑問だけが強まっている。

 しかし、彼女はその自分の疑問が間違っていることをしばらくしてから知ることとなった。


 後日、敵国が全勢力を上げて攻め込んで来た日のことだった。

 揺は高台からそのその勢力を見つめていた。地を埋め尽くすほどの軍勢が待ち構えていたのだ。

「これはやばいな……早く片をつけないと……」

 そう呟いた彼の表情には焦りの色が見えていた。


 彼が魔法を詠唱しようとしたその瞬間、敵の勢力が前進を始める。

「や、やばい!」

 彼の護衛兼監視役として帯同している兵士たちは、揺が何を焦っているのかがわからなかった。この場所から戦場まではかなりの距離があり、万が一こちらに直進してきたとしてもかなりの時間がかかることは容易に予想できた。

「やばっ、うっ、おええええええ」

 ところが彼の心配は的中し、たくさんの馬が大地をかけることで起こった振動が彼のいる場所まで揺らしていた。



『世界最強の魔法使いユレル=シンドウ。しかし揺れに弱い』



「うっ、一度引こう。おえええええ」

 彼は気持ち悪さに耐えかね、口元を抑えたまま退却を進言した。

 敵を目の前にしてのその態度に兵士たちの中でもすっかり彼の株は急降下していた。



 作戦本部


「……まさか世界最強と呼ばれた魔法使いがこれほど使えないとは思わなかった」

 将軍の言葉に揺は肩身の狭い思いをしていたが、彼にはまだ策があった。

「あのー……戦場には出られないので、ここから敵の拠点を魔法で撃つというのは駄目でしょうか?」

「できるのか?」

 そっと手を挙げて進言した彼に対して、将軍はなんとも胡散臭いものを見る目つきで揺を見ていた。

「任せて下さい! 敵の場所がわかればなんとでもなります。なんて言ったって僕は世界最強の魔法使いですから」

 胸をドンと叩いてそう自信満々に言い放つと、早速その場で詠唱を始める。


「本当に大丈夫なのか?」

 列席している将たちもひそひそと話すほど、揺の実力を疑っていた。

「いきます……ライトニングフレア!!」

 詠唱が終わり、揺の足元に大きな魔法陣が展開され、強い光を放つ。天井に向かって放った一撃はそのまま天井を突き抜け、敵軍目がけて降り注ぐ。この魔法は雷と炎で着弾点を中心に周囲を焼き尽くす魔法だった。


 しばらくすると、どこかに着弾した音が響く。その音と共に地震のような大きな揺れが城内を襲った。


 さらにしばらく待つと、慌てたように伝令が作戦本部に駆け込んできた。

「伝令! 敵軍、空からの雷と炎の雨によって全滅!!」

 全ては揺の魔法のおかげだった。

「さ、さすが最強の魔法使い。ありがとう!」

 圧倒的なまでの結果に疑っていたことを詫びるため将軍が礼を言おうと揺に振り向いた。


「うっぷ、ぼええええええ」

 だが、彼は隅のほうで思いっきり吐いていた。

「……今度は一体なんなんだ」

「うえ、おええええええ」

 こみあげてくるものを必死に対処していた揺からの返事はついぞ聞くことができなかった。

 ――そう、彼は自分で魔法を放った際の揺れで気持ち悪くなってしまっていたのだ。

 


『世界最強の魔法使いユレル=シンドウ。しかし揺れに弱い』


お読み頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キャラのオレつえー感と間の抜けた1面が好印象もてる。 シリアスとギャグパートの使い分けが絶妙。 マイナススキルの設定が最大の肝だと思うけど、揺れに弱いっていう発想が面白かったです。 [気に…
[一言] シュールw面白いw
[良い点] ネタとして面白いと思います。 天丼繰り返して行けるかと。 [気になる点] 短編とは言え、若干やっつけに感じられたのが残念です。 [一言] 地震に関しては常に揺れない様に浮いておくというの…
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