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ハッピーエンドじゃ終われない。  作者: くりゅー
第序章 はじまり
2/8

第二話 お気に入り


この学園では関わらない方が良いと呼ばれるグループがいくつか存在する。


1つ目は学園警察(SP)を従える生徒会執行部。

得に最近、前任のかんむり獅朗しろう生徒会長の後釜である現生徒会長の厳島いつくしま夜城やしろは色々と良い噂を聞かない。

噂といえばロシアンマフィアの跡取りだとか、そういう物騒なものだ。


当然、その会長が任命した他の役員達も含めて、余り関わらないほうが良いと言われている。



2つ目は遊戯部と呼ばれる連中だ。

遊戯部は自由の権化みたいな存在だ。

たった8人の自由人達を学園は手を焼いているらしく、あの学園警察すら跳ねのけるほどのクセ者揃いらしい。

得に注目されているのは逆神さかみ戯言ざれごとという遊戯部長だ。ちなみに留年を2回もしていて、噂によると誰かを待っているらしい。

まあ関わらないのが吉だ。実際彼らはCランク学舎の学生だから、接点は余り無いが……


3つ目は言之原学園創立を行った大財閥の一つ、梅之森家の次期当主を中心に組織された3人グループ……名前は確か“リセッターズ”だったか。……まあ、彼らは中等部なわけで、名前があれなのは勘弁してやってほしい。

これも、中等部の集団故にこれもまた接点は少ないが。



そして最後に、この学園裏サイト管理人のパラドックスだ。

もちろんハンドルネームだ。

こちらの管理人は高等部所属(と推定される)のため、こんな中二ネームで管理をやってることを笑ってやっても問題はない。




生徒数県下……いや、国下最大レベルのマンモス校だからこそ、色んな人間がいるというわけだ。







「何で俺が、こんなこと…………」


その言葉の続きは虚しくて言わなかった。


B学舎を離れて、C学舎を越えた先の文化部室棟に向かいながら、俺は小さく呟いた。……ちなみに今、クラスは絶賛3時間目中だ。



怒り狂う学年主任に怒鳴りつけらながら、2時間目を潰されてその後に面倒事を押し付けられて今ここに至る。


“逆神戯言”へとこの書類を持ってゆくのが俺の与えられた雑用。

全く……入学して7ヶ月しかたたずに、あの逆神戯言を尋ねる嵌めになるとは……。


だが、それに関しては……まあ俺の運の悪さから言えば、良くも関わらずに7ヶ月も持ったものだ。



高等部の敷地の端にある文化部室棟の東館の最上階に、彼が有する部室がある。

エレベーターはあるのだが、俺がエレベーターを使うと必ずと言って良いほど閉じ込められる。

しかもそういう時に限って運悪く発見が遅れる。



そんなこんなで、最上階までヒーヒーいいながら登りきると、そこには綺麗に整備……つうか学舎改造してる?……っていう感じの扉があった。


たかが生徒の部室に対して大袈裟な礼節だが……。


二度ノックをして……



「し、失礼します……。」



そう言ってドアを開ける。






「……ようこそ。遊戯部へ」



だだっ広い部屋の真ん中に、校長ですらもっと質素なのに座ってるぞ!って言いたくなるくらい豪華な机と椅子に腰かけた、黒い髪に透き通るような白い肌、何もかもを見透かすような鋭い黒い目を携えた優し男……遊戯部長、逆神戯言の姿があった。


「……ん?? ありゃ珍しい。あんた特入生でも無いのにサボって大丈夫なのかよ?」

高級な応接セットに腰かけて漫画を読んでいた、赤毛赤目の副部長の壱津木いつつぎ代言よげんの姿もそこにはあった。


「さて、その手に持っている書類を届けに来たんだろう? 受け取るよ。」


変人、自由人と呼ばれるかの逆神だが、なんだろう物越しやわらかな人だ。

初見ではとても変人には見えない。


「……うん。書類は確かに受け取ったよ。 やっぱりあの学年主任ゴリラから受け取るより、君みたいな可愛い子から受け取るほうが気分が良いね。 ……そうあの学年主任に伝えておいてよ」

「あ、……はい。」



いや、絶対言えない。……ゴリラなんて……言ってやりたいが、言えない。



「……あの、二人は授業に出なくて良いんですか?」

「ん? ああ、問題ないよ。俺らは特入生だから、出席日数は要らないんだよ」


うわ、聞いてはいたが無茶苦茶だなあ……。


「……いや、でもほかの部員さんは授業でてるんでしょ?」


他の部員はおらず、広い部室にただ二人だけいるだけだった。


「……ああ、みんなは買い出しだよ。お菓子が底をついてね。 ちょうどほら、予算が入ったんでね。 近くのスーパーに行ってもらってるんだ。」


と先程の書類をひらひらと見せ付け笑う逆神。


「その書類、予算通知だったんですか……」


いやあ、笑い方が不敵だ。もうこちらも笑いたくなるほどめちゃくちゃな部活だ。


「…………じゃあ、俺はこれで……」


あまり腐気にあてられぬように、さっさと部屋を離れようとしたが……


「………まって。君気に入ったよ」


呼び止められた……すっごく嫌なよかんがする。

そして何故か気に入れられた。本当運が悪い。


「……運?悪いかもね。」

「……?? それってどういう意味です……か……?」


降り向いた瞬間だった。

逆神戯言は子供がガンマンのまね事をするかのように手で銃の形を作り、それを俺の額に向ける。

こんなのただの遊びのはずだ……が、俺は身動きを取ることが出来なかった。


「……バァーン。」


と口で銃声を奏でる。……遊んでいるらしい。その遊びを俺は真に受けていたのか……。


「……何んて顔をしてるんだい? これが本物の銃に見えたのかい?」


ケラケラと笑う逆神と、呆然と立ち尽くす俺。


「……ただまあ、……素質は無いみたいだね。…………まあまた遊びに来なよ。 君を気に入ったのは事実だからさ。」



つくづく厄介な“男”に気に入れられてしまう俺は運の悪い男なんだろうか。


「はぁ……。」


もう絶対来ない、と心で呟いて俺は遊戯部を後にした。







こうしてやっと授業に戻ることが出来たのは4時間目からだった。




「あはははは、ついてないね〜メグちゃんは」

「ホントに〜。可愛い顔に生まれてこれたことだけはラッキーだったのにね」


余計なお世話すぎるわ!!

昼休みになると例の女子達が髪を弄にくる。もはや自分で手入れしなくても綺麗に調うので、楽でいいが。


「……それで、逆神先輩にあったんだけど……」


そう言った途端、女子達が黄色い声をあげる。


「ホントにあったの!!? 凄いイケメンなんでしょ〜 私も見てみたかったなあ」

「私は見たことあるよ〜! 遠くからだったけど、凄い爽やかなカッコイイ人だった!」


まあ、なんて現金な女達だろうな。イケメンの話しになったら串が止まった。



「……で!!」


怠くて机に伏していた俺に、飛び掛かるように顔を近づける。


「うわっ……なんだよ!」


あまりにびっくりしたこともあり、飛び起きたが、そんな興味は彼女達にはない。


「「どうだった?逆神さんどんな感じだった??」」


皆がハモりながら俺に尋ねるが、はっきり言ってわからない。美形ではあるらしいが……雰囲気の不敵さ半端ない。とりあえずこの雌達を黙らせるために、


「……良くわかんないけど、なんか気に入られたよ。」


嬉しくないが。全く迷惑だが。


それを聞いたのか大人しそうな女の子が座りながら、何故かうっとりしながらこちらを見ている。


何を考えてるのかは周りから色々知らされて、大体は気付いているが、俺は同性愛は趣味じゃないから止めて欲しい。

何故かBL好きの女子達も俺の周りに多いのだ。腐女子は本当頭の中だけで自己完結してくれよ?


「……それで、逆神さんに何か言われた?」


いきなり女子とは思えない声が聞こえたと思ったら、俺の悪友、桟原さじはらだった。今朝は不幸を笑われたが……コイツは案外友達思いなのだ。

何か言われたかと言われ、記憶を探るとあの意味のわからない逆神のガンマンごっこ?……が1番はじめに浮かび上がる。



「……なんか良くわからないけど…………弄ばれた……かな?」

ガンマンごっこって言っても伝わり難いし、とりあえず咄嗟に言葉を選出して吐く。


「も、……弄ばれちゃったのっ!!?」


周りの女子がスゲー興奮しはじめた。なんだか……怖いくらいに。


「……何も言われなかったの?」


やけに桟原が真剣な面持ちで聞くので、更に記憶を探り、「気に入られた」ことと「素質は無い」って言う風に言われたことを伝える。


「……何か気になることでもあるの?」

やけに真剣な桟原に今度はこちらが尋ねる。

「あぁ、気になるってほどじゃないが、逆神さんの待っている相手がもしかして時崎だったのかなと思っただけ」


実際に本学校でまともに逆神先輩と話しをする奴はほとんどいない。

遊戯部とそれに相対する生徒会くらいだろう。もしくは今回の用に教員らとくらいしか逆神との接点がない。

見つけてもあの妙な雰囲気に気圧されて、話しかけるまで行く奴は中々いないと、桟原は言った。


「……それで時崎が“気に入られた”んなら、もしかしたらって思ってさ」

流石に高等部随一の情報通を自称するだけあり、桟原は色々な“噂”を良く知っていた。


「そう言えば、逆神先輩に気に入られた“もう一人”がいるって知ってる?」


「あ~!あやな知ってる!!」

「でもあれ噂だよね、ただの」

「裏サイトでスレ立ってた」


さっきまで俺の髪をいじくり回してた女子勢は、俺と桟原との会話が始まると少し身を引いた感じがあったのだが、女子も“噂”は好物と見えて飛びついて来た。


「あくまで、“噂”なんでしょ? 桟原好きだよなそーゆーの」

「ただの噂じゃねーって。ただの噂に踊らされる桟原さんじゃないぜ?」

自分で自分にさん付けって……


「……じゃあ桟原くん知っているの? その“もう一人”が誰なのか」

「当たり前だよ。君はパン屋さんで、パンが売ってるかどうか聞くのかい?」

うっわ。調子乗っていらっしゃる……。

あのモテたい一心で髪を黄金色に染めて、痛いのとかダメなのに耳にピアス付けているちゃらちゃらのちゃら男こと桟原さじはら虐説ぎゃくせつが、実は童貞なんだってことをここで、女子達に提言したいくらいだ。……やらないが。

てか、自分自身童貞なので……一人のこと言えないわけだ。


「何それ~!」

「知っているなら教えてよ~」


などと女子に迫られてる桟原は気分が良いらしい。 鼻の穴が広がって、喜びをはちきれんばかりに表現していた。


「……勿体ぶるなよ! 俺だって話したんだから教えてよ!」


むっとした俺が解ったのか、存分に勿体ぶって楽しみ終わったのか桟原は鼻の穴を広げたまま、こちらに向き直る。


「まぁまぁ、落ち着けよ。 ヤキモチなんて男らしくないぞ廻ちゃん」

うっざ……。最近輪をかけて小さい不運が続き、ストレスフルな俺は……いやそれでも我慢した。

俺が女子の前でキレると可愛いがられて終わりだからな。キレるとしても、今度コイツと二人きりになった時だ。


「……実は、その“もう一人”はこのクラスにいるんだぜ?」

それは驚いた。……てっきりC学舎の奴らかと思った。C学舎の奴ほうが逆神と同じ学舎だし接点があるかと思ったが……

……そうだあの人、授業出てないんだった。授業に出てないなら、何処の学舎だろうが関係ないな。


「……で!? 誰なのよ!!?」


女子勢にしては、攻撃的な声が耳に入る……って思ったらルカだった。さっきから聞いていたらしい。

もっと大人しくしていれば、ロシア人の母譲りのクリーム色の長い髪が功を奏して、貧乳を差し引いてもロリとして売っていけただろうに……。

事実、兄の湊もクリーム色の髪と爽やかなルックスで全女生徒を魅了している訳だし。


「……まあ、そう急かすなよ斑鳩」


と仁王立ちで腕組みをして桟原をジロっと睨む。

二人の間柄も、俺と桟原の間柄くらい親密だ。 最近も良く三人で遊ぶことが多いくらいに親密だ。


「……あぁ焦れったい! あんまり勿体ぶるとバラすわよ? あんたが童て…………」

「!!……あ、あれぇ……、今いないなぁ……」

桟原はルカの声を遮るために、わざわざ派手なボディランゲージ付きで大袈裟に言う。


「……しらばっくれても……」

「しらばっくれてないってば!!」


完全にルカに弱みを握られて、調子がへし折れた桟原は見ていられない。

が、“もう一人”が今教室にいないのは本当らしい。


「……解った、解った。……教えるから勘弁してくれ」

そう言って桟原は指を、1番窓際の1番後ろの席を指指す。

俺の席は窓際2番目の前から3番目。よって斜め後ろを向くことになった。

一同の視線が、その空席に注がれる。


「あの席って……」


俺は忘れもしない、アイツの顔を思い出す。……小学校からずっと同じクラスだった……あの娘の事を。


「……そう。空倉からくらさんが……その“もう一人”だよ。」

すみません。

女屋魅世→斑鳩流禍に修正しました。

同じく

女屋湊→斑鳩湊に修正しました。


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