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突飛すぎる得心

「……ふにゃっ」


 びっくりして起きてしまったのは、僕のものではない思考が飛んできたからだった。

 もちろんそれは妙な電波を受信したとか、そういうわけではない。

 血の契約という、同意を得た対象を使役する技能。それによってできた魂のつながりを通した、いうなればテレパシーのようなものだ。


 ……ネグセオーからですね。


 僕の旅の道連れであり、移動手段でもある寝癖っぽいたてがみがチャームポイントの馬、ネグセオー。

 彼とは血の契約を結んでいるので、遠く離れていても意思の疎通ができる。飛んできた思考は、そういうことだ。


「ええと……」


 寝起きでやや戸惑いつつも、こちらの近況を思念にして伝える。

 ごたごたしていたので、こういった連絡手段があることをすっかり忘れてしまっていた。

 返ってきた思念によると、ネグセオーの方もかなり余裕がなかったようだ。どうやらクズハちゃんと海を走って渡り、魔大陸から戻ってきたらしい。

 向こうの方もそれに集中していたために、連絡が今になってしまったのだという。


「無茶苦茶しますね……」


 高い魔力を持った獣人であるクズハちゃんと、血の契約によってステータスが強化されているネグセオーなら不可能なことではないと思うけど、それにしても海を走って渡るなんて、常識はずれもいいところだ。

 おまけにその話通りなら、ふたりともほとんど休まずに海を渡ってきたことになる。特に走っていたネグセオーに関しては、不眠不休だったに違いない。

 もう海を渡りきってしまったようだし、少しだけ休んだら追ってくるというらしいので、必要以上の心配は不要だろうけれど、合流したらきちんと謝っておいたほうが良いだろう。誰のためにそうしてくれたのかくらい、分かっているのだから。


 とりあえずお互いの状況は把握したし、契約で繋がっている以上、ネグセオーから見て僕がどっちの方角にいるかは言わなくても分かるだろう。

 仕方がなかったとはいえ親善大使と名乗ってしまった以上、王国とルルイエの国としての繋がりができるまでの間はここから動けないのは確実だ。

 フェルノートさんたちのことは気になるけれど、クズハちゃんとネグセオーだけでも向こうから来てもらえるならありがたい。


「ん……ふぁ……」


 念話とはいえ話しているうちに目が覚めてきたので、素直に起きることにする。

 室内に窓はないけれど、空気の冷え具合からしておそらくは夜だろう。

 食事の時間には起こしてくれるというようなことを言っていた気がするけど、もしかすると僕があまりにも気持ちよさそうに眠るから、気を使われてしまったのだろうか。

 ぼんやりと思考を動かしながら起き上がろうとしたところで、触れるものがあった。


「……ふにゅ?」


 端的に表現するなら、そんな感じの感触だ。

 半ば無意識に動かした手指が沈んだものは柔らかく、あたたかかった。

 どういうわけだろうと思って視線を向けると、そこにはここ数日で見知った寝顔があった。


「ええと……王様?」


 僕をここまで案内してくれた、この国の王様。

 すうすうと規則正しい呼吸している彼は、随分と気持ちが良さそうな様子だ。穏やかな顔で、瞳を閉じている。

 王様が僕と同じベッドで眠っている。それはいい。元々このベッドは彼のものなのだ。間借りしているだけの僕に気にせず、自分が眠くなったらここで眠るのは当然だと思う。


「……随分と、柔らかいようですが」


 僕が触れている部分は、彼の胸部だ。

 手指に感じるものは明らかに柔らかく、男性のものとは思えないほどだった。


「んっ……う……?」

「あ……」


 ついつい、疑念を確かめるように指を動かしてしまった。

 形のいい眉が歪み、相手が瞳を開ける。

 慌てて指を引っ込める頃には、王様は瞳をこすりつつも、はっきりと意思が宿った瞳でこちらを見ていて、


「アルジェ」

「あ、はい……その、すいません」


 凛とした声で名前を呼ばれて、僕はベッドの上で正座をして謝罪した。

 中性的な顔をしていることもあって、触れた身体の感触から性別を疑ってしまったことは事実だけど、だからって眠っている相手のことを触るのは失礼だっただろう。 

 最初の一回は偶然だけど、そこから先は僕の意思というか、興味本位でやったことだ。怒られても仕方がないし、素直に謝っておいたほうがいい。


「怒っているわけではない。むしろ余はひとつの答えを得た。褒めてつかわそう」

「へ……?」

「アルジェ。余と夫婦になれ」

「……ふえ?」


 ええと。

 王国の人は、すぐに求婚するのが基本なんですか?

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