6.With a solitary girl and the revenant in the graveyard.
雨が、静かに降っている。
何処か遠くで雷が響いた。それは遠雷と呼ぶんだよと、誰かに教えてもらったことをカノンは思い出した。
彼女は、傘も差さずに静かな墓地の中を歩いていた。
右手には、質素な花束。
綺麗に整列して並んでいる十字架、それらは余りにも規則的に並びすぎていて、死者や亡霊、魂などといった奇妙で不可解な印象を微塵として与えなかった。
ここはそういったモノに対して最も相応しい場所である筈なのに。
カノンは靴が泥で汚れるのもお構いなしに足を進めた。
そもそも幽霊なんて信じていないのに、死者の念相応しい場所が何処だとかそんなことを考えている自分が馬鹿らしい。
そんなことを考えていると、目的の十字架に辿り着いた。
ここの墓地は結構な広さがあるので、着いた時にはもうカノンの靴はドロドロになっていた。
今日、カノンは自分を拾い育ててくれた親代わり、ジン・ソリティアの墓参りに来ていた。
「あーあ、やっぱり傘と長靴は持つべきだったかなあ」
そう文句を垂れると、カノンは墓石に彫られた文字を指先で壊れ物を扱うように撫でた。
そこには冷たい温度しか無かった。
「ジン・ソリティア、か」
それは確かめるように呟かれた一言だった。
カノンは持ってきた花束をふわりと墓石に添えるようにして置く。
花束には彼が生前好きだった、質素な花たちが取り揃えられていた。
「どう? 綺麗でしょ、マーガレット。おれが選んだんだよ、師匠」
まるでそこに彼がいるかのように、カノンが墓に向かって話す。
「ちょっとは女らしくなったっしょ? 今日は何にもすることないし、またお話ししようよ」
雨に濡れていく身体を気にもせずに、カノンは墓の前にしゃがんだ。
カノンとその墓の周りだけ、雨音がしなかった。まるで別の世界のようだった。
彼女が先程触れたジンの名前の下を、同じようにそっと指でなぞる。
長い、長い文字の羅列だった。
"You were my master it, an elder brother, and father.
It was an irreplaceable family for me.
Even if people all over the world admit your death, you keep living in my mind.
Therefore, I do not forget you through life."
「なあ師匠。今年であんたとおれが出会って九年も経ったよ。あんたに拾われた日も確か、こんな雨の日だったよね」
カノンのその小さな小さな呟きは、雨音の中に溶け込むようにして消え失せた。
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