14.世界が染まった日
僕は独りになった。
怖くて、淋しくて、辛かった。
おじいさんが死んでから一日しかたっていないのに、もう苦しかった。母さんに捨てられた時くらいの哀しみだった。
それでも降り頻る雨は無慈悲に僕を打つ。
おじいさんが住んでいた小さくてぼろぼろの小屋は、僕一人では広すぎて不安に駆られるから、あれからずっと外にいた。
ただただ両足を抱え込み、何も見ずに何も聞かずに、小屋の前に一人。そこで僕は誰かを待っていて。誰かが助けてくれるのを待っていて。
そして、あなたに出会った。
「お前、傘持って無いの?」
空を見上げると、金色の髪に空よりも蒼い眼のあなたが居た。
「だ……れ、です、か?」
途切れ途切れにそう言うと、その人は笑って、よく見ると少し哀しそうで。
「おれはカノン・ソリティア」
「……カノン?」
「そ。変わった名前だろ? お前の名前は?」
「……無い、です」
嘘。本当は、あったよ。
ちゃんとあったけど、もうその名前を呼んでくれる人はどこにも居ない。
「無いの?」
「無い」
「……そっか」
「あなたが」
僕と目線を合わせるように、その人は屈む。僕はその眼をじっと見て。
「ん?」
「あなたが、便利屋の、カノン・ソリティア?」
カノンさんは、笑いながら頷いた。
死ぬ前におじいさんが言っていた人だ。一緒にいた子が死んで、軍人に拾われた、今は便利屋を営んでいる小さな少女。
僕はずっと言おうと思っていたことを言う。
「何でもしてくれるんですか?」
「まあな」
「じゃあ、」
この眼球でも内蔵でも何でも売り払ってくれていい。
「おじいさんを、生き返らせて下さい」
カノンさんは、すごく複雑に笑って
「それは、出来ないよ。無理なんだ」
僕を諭す。
もう出し尽くして枯れ果てたと思ってた涙を僕は思いっきり流して、なんでこんなにも悲しいのか分からなくて、なんで、なんでなんでなんで?
そうだ、僕は助けて欲しくてだからあなたを待っていて、それが最後の希望で。
心のどこかでそれは無理だと知っていた癖に、未練がましく祈ってて、もしかしたら、もしかしたら奇跡が起きるかもだなんて、甘い夢を僕は。
「ごめんな」
あなたが悪い訳じゃ無いのに、静かにそう言った。
「お前は独りなの?」
涙を拭きながら頷いた。
「おじいさんが、家族だったんだ……血は繋がっていなかったけど、家族だったんだ」
涙腺がまた緩んだのか、じわりと泪が滲む。折角会えたのに、あなたの表情がぼやけて見えない。
カノンさんが僕に傘を差してくれているお陰で、身体だけは濡れなかった。
しとしと。ぽたぽた。
僕に傘を差しているせいで、雨に濡れているあなたは僕の涙を拭いながら言う。
「おれの家に来る?」
「……え?」
「って言っても、おれを拾ってくれた人の家なんだけど。部屋はあるし、ちょっと小さいけど、二人で住むなら丁度いい感じだし」
「な、何を言って……」
そして、あなたは笑う。笑って僕に言った。
僕が一番欲しくて堪らなかった言葉を。
「お前は独りなんかじゃないよ。今日からおれがお前の家族だ」
雨が止んだ。僕の雨が止んだ。ずっと降り続けていて、止むことなんてもう無いのだと思っていた僕の雨が、ぴたりと。
暗くて狭くて薄汚くて心細くて怖くて哀しかった世界が、あなたに染まった。
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