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あのキリコとの出会いから数日後、ブラックジャックはピノコにせがまれてオフを長めにとり、ヨーロッパをエクスプレスで廻っていた。
ピノコがブラックジャックに淡い恋心を抱き、遠目に空ろな眼で眺めていると、隣の車両から中年の男が入ってきた。
ブラックジャックはその男に眼がとまり、じっと通り過ぎるのを視ていただけだったが、頭のなかでは瞬時に医者としての性が過っていた。
男はがっちりとした体格だが、どこか弱々しく見えた。
一度、病に侵された事の事実もブラックジャックの眼には映っていた。
「しぇんしぇ!しぇんしぇってばっ!何をしゃきから見てるの?私との淡い時間を無駄にする気!!」
膨れっ面のピノコがフォークを片手にブラックジャックに説教をし始めた。
「あぁ、悪かった!埋め合わせはきちんとするから、そう怒るなぁ」
この旅行の理由は、ピノコを家に残し、勝手に診療に一人で出たブラックジャックのお返しでもあった。
「あの人がどうかしたの?」
「いや。なんでもない」
ブラックジャックはいつもの事だが、洞察力に長けてはいるものの、大金を叩いてでもすがりついてくる患者にしか興味はなかった。
ただ、特別な理由を除いては……
ブラックジャックとピノコはある町に数日滞在するため、駅に降り立ち宿を探し始めた。
しばらく歩くと、車両で見かけた男が、海を眺めていたのを見つけた。それにピノコが気付いた。
「しぇんしぇ!あの人確か…」
ブラックジャックは、只、黙って見ていた。
その日の宿が決まり、さっそくホテルにチェックインし、ホテルのラウンジで寛いでいるとき、ホテルの従業員達が慌ただしくうろつきだした。
「はやく、アナウンスをながすんだ!医者をはやく手配するんだ」
ホテルないで何かがあったらしい。
だが、それでもブラックジャックにはお構いなしだった。
するとその時、聞き慣れた声が自分を名指しした。
「しぇんしぇいなら、あそこに居るのら!」
ピノコだった。
時折のこのお節介が、ブラックジャックの悩みの種でもあった。
「ピノコ!また余計な事を…」
するとまわりが騒めきだし、応じざる得なくなってしまっていた。 |