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記憶の強度 喫茶店の灰皿
      街角の記憶

きっと 愛していたから もう憶えていないけれども


ふと、過ぎ去った過去の記憶が呼び覚まされる 
一緒に歩いた場所、キミの微笑んでいた顔

その顔を曇らせ歪ませ泣かせたのは僕だった

だから、記憶を深く深く押し込めて鍵をかけてしまった

そして、その鍵すら海の彼方に捨ててしまったから
もうキミを二度と思い出せないはずなのに


ずっと 愛していたから 忘れてなんかいなかったんだ

強く愛していたから 消えなかったんだ
でももう何も出来ない、彼方の記憶のキミよ、今幸せになってくれているのかい?
今の僕に出来る事は キミが幸せになることを祈るだけ

キミを思い出した街角で、僕は首を振って空を見上げた


       喫茶店の灰皿

地元の商店街の古ぼけた喫茶店「浪漫街道」

ちっともロマンチックじゃない煤けて薄暗い店内でコーヒーを注文した
ゆるりとマルボロに火をつけて文庫本を読み出した

ふと、目に入った灰皿に目を奪われる

白地の重量のある石つくりで、青の線で帆船が描かれており
その下に1897、from paris と書かれている

「本当か?明治時代のものじゃないか」と僕は自問した
こんなしがない田舎のしょぼい喫茶店の灰皿にこんな年代ものを出すのか?

が、よく読むと、その年代がその帆船の事をさしているのだとわかった
苦笑して、かつ少し安心して、吸っていた煙草を消した

なぜか胸が痛み、読書も捗らず、一時間程度でそこを出た

しばらく忙しくして、その喫茶店に行くことも無かった
数ヶ月経ったある日曜、再び暇になったのでその喫茶店に行ってみた

人通りの少ないその商店街自体になぜか一抹の不安を感じた
古ビルの階段を上がると、喫茶店は既に潰れていた

俯いて商店街を戻ると、瀬戸物屋が安売り市のようなものをしていた
ふと見て胸が轟いた あの灰皿が売っているではないか
僕はこれは必ず買わねばならぬ、と決心し即座にレジに向かった
失ってはならぬものを、別れた恋人を取り戻すような決意だった

たった一度、そこへ二本ほど煙草を置いただけだったのに
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