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Don’t trust over 30
作:志内 炎



12 書きたいこと書かなければいけないこと


 四川の震災の映像が、日々流れる。胸がつぶれるほど痛い。学校の校舎が崩れ、むき出した黒板が目に焼きついて離れない。日本の援助隊を受け入れたのがあまりにも遅かったとの報道に、神戸に入った自衛隊に思いをめぐらせた。政治的に、神戸は自衛隊を一切受け入れない町であった。
 私は阪神淡路大震災のそのとき、震源にほどちかい自宅のコタツで眠っていた。激しい揺れでではなく、長い長い地響きが私を眠りから呼び覚ました。
 現在でも少しの揺れで私は飛び起きる。心臓は激しく波打ち、手の震えを感じる。それでも、誰かにその経験談を聞かれたときにはなるべく明るく話す。わかりやすいように、伝わりやすいように不謹慎ながら少々面白く聞こえるように。
 つらいのかもしれない。傷は癒えていないのだろう。それでも私は話さなくてはいけない。そして書かなくてはいけない。伝えていくことが、今後不幸にも災害に遭遇してしまうかもしれない人たちへの、犠牲になってしまった人たちへの、そして何よりも自分へ、ただひとつの「できること」なのだ。
 「書きたいこと」はいくらでもある。どちらかというと明るい話を書いていきたい。またはそおっと後ろに誰もいないことを確かめてしまうような、身近なホラーなんかも好きだ。まず一生ないだろう一攫千金のその後の物語なんかも面白そうだし、実は官能小説も書いてみたいと思っている。誰もが救われる、または上手く裏切ることができるシナリオにもいつかはチャレンジしたい。
 そんな書きたいことでも、苦悩はつきものである。言葉が重なってしまったときの言い換え、伏線をいかに見えなくするか、そして何よりも独りよがりになっていないか。内容なんて独りよがりなものだけれど、いかにそれをみんなのものにするのか、誰に感情移入をしてもらうように仕向けるか、そこに絵が浮かぶか、音が聞こえるか、匂いがするのか……さまざまなことで頭を抱える。
 歌を習っているときに、師匠に言われたことがある。届かなければメッセージソングではない。自分の主張を押し付けるのではない。その中に引き込んでいくのだと。思いがつよければ強いほど歌い上げてはいけないと。
 書きたいことならばゆるりと力を抜くことができる。要するに、歌いあげない場所に似たいい意味での無駄な部分を作ることもできる。だが、書かなくてはいけないことにはその余裕が持てない。町を行きかう人の足をとめるためだけに大声を張り上げるできたてのストリートミュージシャンのようになってしまう。力いっぱいに歌うだけでは、足を止めることはできても、心に響かせることはできないのだ。
 まだそのテーマに正面からしか向き合えないので、書くことはできない。書きたいことの中にそおっと触るにとどまっている。もしかしたらエンターテイメントな側面はいらないといわれる方もいらっしゃるかもしれない。私にはそうは思えない。人目に触れるところに出すからには伝わらなければいけない。そういうジャンルとして発表すればいいのかもしれない。でもそれでは限られた人の目にしか触れない。書かなければいけないと思っていることが重要であればあるほど、さらりと読めて、しかも心に引っかかる作品でないといけないと思っている。
 テーマが重いか重くないかなんてことは関係ない。あなたが今作り出そうとしているものは、書きたいものなのだろうか、それとも書かなくてはいけないと思っているものなのだろうか。
 












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