挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

滅んだ青い星のその後

作者:JT
 何処までも続く赤い大地。

 終わりは見えず、地平線が果てなく続く。
 大地には生命を感じさせるものは何一つ無い。

 そんな不毛な大地の上を、自転車に乗ったアンドロイドとその後ろに乗った黒く長いポニーテールの少女がただ真っ直ぐ走っていた。
 その先にあるものを目指して、アンドロイドはただペダルをこいでいる。

 天候は良好。むしろ暑い位だ。
 雲一つ無い見事に晴れ晴れとした青々とした、本当に見事な空が世界の果てまで広がるようにそこにあった。

「クラちゃんクラちゃん、暑いよぅ!」

 後ろの少女が前のクラちゃんと呼ばれたアンドロイドにしがみつきながら空に向かって吼えた。
「我慢してよユウ。朝まではこの景色が続くんだから」
 そう言いながら高速でペダルをこぎ続ける。
「でもさでもさ、いい加減暑いし熱いよ」
「熱い?」
「クラちゃん熱いもん」

 不思議に思い体温管理計を頭脳に表示する。
 体温が急激に上昇していた。
 外装こそは人に模してあるが、骨格は金属。
 内から熱を溜めていたらしい。

「ごめんごめん、でも我慢しててね」
 クラはそう言うとペダルをひたすらこぎ続けた。



 西暦2500年。
 青い星は壊滅的な天災に襲われた。

 大規模な隕石群が、文字通り雨のように、長時間において広範囲に降り注いだ。
 そのおかげで、陸の九割は焦土と化し一部の海は干上がってしまっている。
 二人はその、干上がった海を渡っていた。

 クラの本名はクラウ。生き残った人間を捜索する組織が派遣したアンドロイド。
 しかしユウはクラウがアンドロイドだと言う事を知らない、知らせていない。

 ユウは数少ない生物の、そして人間の生き残りだ。
 とある壊滅した都市で生物反応が検出された為、クラウが捜索をした際に発見した。
 そのとき、まだ幼い少女は隕石が着弾した際の衝撃によって何らかのショックを受け、記憶を失っていた。

 そして今、クラウは他の仲間のいる地点へユウを運んでいる。
 自転車なのは、自分の脚があれば燃料の心配なく走れるからだ。

「クラちゃん、クラちゃんの友達は何処にいるの?」
 ユウは相変わらずクラウにしがみつきながら尋ねた。
 その長いポニーテールは風になびき、荒野を疾走する自転車の尾を引くよう黒い線がに空中に伸びている。

「クラウの友達はね、この何もないところの向こう側にいるんだよ」
 クラウは優しい声でユウの質問に答えた。

「じゃあ、クラちゃんの友達はどんな人なの?」
「クラウの友達は皆賢い人でね、人の形をして人と話す事が出来るロボットを造ったり、この星の外も飛ぶ事の出来る船を開発したんだ」

 そう言うと、ユウは驚いたように声を挙げた。
「すごいねー、お空の向こう側も飛べるんだ?」
「そうだよ」
 答えると、興奮したような声で凄い凄いとはしゃいだ。

「ねえ、私もそれに乗りたいよぅ!」
 元々そのつもりだったのでいいよと答えると、ユウはきゃーと嬉しそうに叫んだ。




 月が青と紫に輝きその光が広大な荒野を包む時も、クラウは後ろに少女を
「ユウ、もう少しだよ…って、寝てるの?」
 聞いても返事がないということは寝ていると言う事なのだろう。

 クラウは輝き続ける月を見ながらペダルをこぎ続ける。

 月は滅んだ星の夜でさえ明るく照らす。
 もし月に意思があるなら、そこにどういう想いがあるのか。

「あるわけがない」
 クラウはだれに言うわけでもなく呟いた。

 二日前、夜に今と変わらぬ景色の荒野を走っていた時にユウはこう質問した。
『お月様はなんで私達を見ていてくれるの?』
 その時は、お月様はユウが好きだからさと答えた。

 今考えてみると、概念としてはありえそうな気がしてきた。
 でも、ありえない。

 それなのに、繰り返されるユウの質問に答えるたびにそうだったらいいのにだとか、本当はそうかも しれないと言う観測的な思考が増えてきている。
 思考の傾向が変化しているのかどうなのか、クラウには判断材料がなかった。



 その時、頭脳内のセンサーが何かを感知した。

(…あれは?)

 視覚装置のカメラの感度を上げた。
 はるか遠方には、薄暗い闇の中で蠢く大きな物体が数体、こちらに向かって歩いていた。

 ユウは数日振りに久しくペダルをこぐ足を止めると、カメラを遠視モードに切り替えてからもう一度見た。

 それは多脚型の機械だった。多数の脚が支える四角い胴体の上には四つの砲門らしき物が備え付けられている。
 さらに見ると、胴体の側面には何処かのシンボルがペイントしてある。
 クラウの所属している組織ではない。

(つまり、敵の組織か、または他勢力のの救援部隊か)

 そう選択肢を挙げてみたものの、判断は出来ない。
 が、わかる事は一つ。
 側面にペイントされたシンボルはクラウの所属する組織ではないし、あんな物騒な兵器を所持する組織が『介入』していると言う事は、少なくともまともではない。

 クラウは後ろにしがみついて寝ているユウを抱き上げると、自転車を乗り捨てて当初の予定から外れるコースを、姿勢を低くし出来る限り早く走った。
 おそらくではあるが、見つかったらただではすまない。

(このまま迂回して仲間のいるポイントへ行くしかないか…)

 クラウはなるべくユウを揺らして起こさないように静かに走った。




 あと5キロ程度だろうか。

 幾度かあの『戦車』に遭遇しかけたものの何とか迂回に成功し、到着地点へはわずかとなった。

 気づけば向こう側からは太陽が頭を覗かせていた。
 その光線は今まで暗視モードにしたままだったクラウの目にしみるように射して来る。
 クラウは慌てて通常モードに戻した。

「あれ、クラちゃんもう朝?それよりなんで歩いてるの?」
 ユウが開けきらない目を擦りながら起きてきた。
 クラウが抱えているにもかかわらずユウは欠伸をしながら身体を伸ばすので、うっかり腕の中から落としそうになった。

「自転車が壊れちゃってね。それよりもう直ぐだよ」
「もうすぐって?」
「友達のところさ」

 そう言うとユウは嬉しそうな顔をした。
「本当?じゃあ早く行こうよ!」
「そうだね」

 クラウは歩き始めた。
 だが数歩歩いた所でユウが暴れ出した。
「どうしたの?」
「自分で歩くよ!」
 そう言ってユウはクラウの腕の中から抜け出し、着地する。

「なんだか久しぶりに歩いたきがするー」
 ユウは嬉しそうに荒れた大地を翔けて行く。
「ユウ、そっちは逆!」
 今まで来た道を戻ろうとするユウ手を掴み、そのまま手を繋いだままクラウは歩き出した。




「さあ、ここだよ」

 クラウは空を見上げた。
 ユウは呆気に取られたようにそこに広がる景色を眺めていた。

「凄い…」

 ポツリと呟いたその少女が眺めるのは、この星の中に残存する数少ない自然。
 緑が栄え、池には水が蓄えられている。わずかだが動物の姿も見受けられる。

 大きさはそれほどでもないのだが、そこには確かに生命が残っていた。

「こんなの初めて見た!」

 彼女は記憶を喪失している。
 記憶が消えてからと言うもの、彼女が見てきたものは壊滅し荒廃した元都市と、後は何もない荒野だけだった。
 ここにあるような色のある景色を見たのは初めてなのだ。

「凄い!凄いよぅ!」
 ユウは身振り手振りで何かを表現しようとしているのが理解できた。

 そんな彼女を横目に、クラウは空へ手を伸ばし、信号を発信した。
「クラちゃん、何してるの?」
 一通り騒いで息を切らしているユウがそんなクラウを不思議そうに見た。
 汗のせいで前髪が額に張り付いている。

「仲間を呼んでいるんだ。ほら、あれ」
 そういって空を指差した。

 つられてユウも空を見上げると、その指が示す先には空にあるには不自然な濃い青が光り輝いていた。

 そして次の瞬間、その光は二人を包み込んだ。




 気がつけばそこは、灰色の壁に囲まれた何もない空間の中だった。

 壁には等間隔に窓があり、それ以外にはこの空間にはなかった。
 出入り口さえもない空間に二人はいた。

「ここどこ?」
 ユウは休みなく首を回して周りを見回していた。

「ここは星の外を飛べる船の中さ」
「ここが!?」
「うん、そうだよ」
「外は見れる!?」
「そこから見れるよ」
 そう言って適当な窓を指差すと、ユウは喜び勇んでそちらに跳んで行った。

 その様子を眺めていると、背後に反応を感じた。
 そちらに振り向くと、二体の無骨な骨格が露出している人型機械と、それに挟まれた人のような生物が立っていた。

 全体的にはユウのような人間の骨格に似ているのだが、頭部が長く、頭や手足、胴体等の骨ががとても細い。

「ゾール大提督閣下、只今戻りました」

 クラウは跪き恭しく頭をたれるとそう言った。
 ゾールと呼ばれた人のような生物は、窓から赤い星を見下げてはしゃぐ少女を見ると、クラウの方を見て口を開いた。

「No.00994、良く戻った。あれがの友人の同族か」
「はい、彼女はその数少ない生き残りであります」
「そうか」

 そう言うとゾールはもう一度少女の方を見た。
「彼女のほかにも数名、生存者が発見されておる。これで彼女の種が途絶える事はあるまい」
 左右の人型が頷いている。
「しかし、星の重力に耐えられぬ私達の代わりに良くぞここまで彼女を届けてくれた。それも、磁場によって転送できない領域まで歩いて…。もう休むが良い」
「了解であります、閣下」

 クラウがそう言い、この部屋から出ようと立ち上がり、転送装置へアクセスし起動させようとしたとき、ユウが走って近づいてきた。
 そしてクラウの手を取ると、あまり強くない力で引っ張ろうとしている。

「ユウ、どうしたの?」
「クラちゃん、どっかいくの?」
「うん。それで、ここでお別れだ」
 そう言うと、ユウは悲しそうな顔をして手を引っ張る。

「お別れ、お別れなの!?」
「そうだよ、僕は役目を終えたんだ」
「役目?役目って何の事?」
「ユウを守る役目さ。じゃあ、さようなら…」

 クラウはそう言い、転送を開始させた。
 場所は人型歩行機械管理室。
 クラウはそこでいつくるか分からない役目の日まで機能を停止させる。その際に中身をリフレッシュするのだ。

 転送を始めるとクラウは青い光に包まれ、やがてその空間からは消えうせた。

「クラちゃん? クラちゃんは何処行ったの?」
 その少女の呼ぶ声に答える者はもういない。



 転送が終了するとそこは白い壁に囲まれた空間で、壁際には隅から隅まで何かを収納するためのカプセルが隙間なく並べてあった。
 内の殆どはカバーが閉まっている。

 クラウは自らの手を眺める。
 彼女が最後に握ってくれていた時の体温はまだ残っている。

 クラウは頭脳に浮かんできた観測的思考を強制的に消すと、まだ開いているカプセルの中に入り、内側から開閉スイッチを押した。

 カプセルは空気を排出するような音を立て、滑らかな動きでカバーを締めた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
良ければ感想を残していって下されば幸いです。

SF万歳。
空想科学祭
ネット小説ランキング>SF部門>「滅んだ青い星のその後」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ