ファイル521:大波乱のロンドン旅行『4』
さて、発信機の電波を頼りに移動した一行であるが、その中で最初に電波が止まった場所に着いたのはハヤテと咲夜であった。
咲夜
「電波はここで止まっとるんやけど、あの潜水艦は見当たらんな。」
彼らが行き着いたのは、テムズ川沿いにある閑散とした倉庫街であった。
辺りには古ぼけた倉庫が立ち並び、川には何隻かのボートや艀が繋がれている以外何もない。
もちろん、人の気配もない。
咲夜
「どっかに隠れとるんかな?ハヤテ、どうしたらええと思う?」
ハヤテ
「とにかく、他の人達が来るのを待ちましょう。下手に動いて返り討ちになってはシャレになりませんから。」
咲夜
「そやな。」
辺りをうかがいながら、2人は他のメンバーが到着するのを待つ事にした。
3分後、スケボーに乗ったコナンと哀が到着した。
コナン
「ハヤテ君に咲夜ちゃん、アイツらは?」
2人はハヤテと咲夜に近寄った。
咲夜
「それがわからへんのや・・・姿も形もあらへん。まるで神隠しや。」
神隠しとはもちろん咲夜の冗談であるが、実際にモロアッチ教授一味どころか、彼らの乗っていた潜水艦の姿も形もなかった。
哀
「どこに隠れたのかしら?」
科学者であり理論家でもある哀も首を捻っている。
ハヤテ
「とにかく手分けして探しましょう。」
ハヤテの提案に従って、4人は注意深く周りを探し始めた。
しかし、何も見つからない。
コナン
「見つからねぇな。」
哀
「見つからないわね。」
とりあえず周りの倉庫には何も怪しい物はなさそうだ。
と、そこでコナンは岸壁に繋がれている艀に目をつけた。
コナン
「・・・まさかね・・・」
半信半疑だったが、その内の一隻によじ登ってみた。
艀には土砂が積んである。
その上にコナンは乗った。
その途端である。
ズボ!!
音を立てて足が深くめり込んだ。
とても土砂に突っ込んだ間隔ではない。
まるで紙を破ったかのようだった。
そして、彼は一瞬バランスを崩しそうになった。
コナン
「え!うわっ!!」
コナンは驚き、慌てて足を引っ込める。
すると、コナンの声に気付いた他のメンバーが寄って来た。
ハヤテ
「どうしたんですか、声なんか上げて。」
コナン
「イヤ、ハヤテ君。この土砂。」
ハヤテ
「え!?」
コナンのその言葉に、ハヤテは積み上げられている土砂を良く見る。
うまくできているようだが、本物の土砂ではなかった。
おそらく布や何かを上手く見立てたハリボテのようだ。
怪しさ120パーセントである。
ハヤテ
「ブチ破ります!!イナズマキーック!!」
ハヤテがキック技でそのハリボテの土砂をブチ抜いた。
そしてそのまま・・・
バッシャーン!!
水中へ直行した。
実は艀の中は空洞になっていて、その底には川に通じるように穴が開けられていた。
ハヤテはその穴に落ちてしまったのだ。
ロンドンでも彼の不幸ぶりは変わらないらしい。
咲夜
「ハヤテ!!」
コナン・哀
「ハヤテ君!!」
3人共叫んだが、数秒後に彼は水面に顔を出した。
コナン・哀・咲夜
「良かった。」
と、そこで4人ともようやく気づいた。
先ほどの潜水艇がその艀の中にある事に。
急いで残った3人も艀の中に入る。
コナン・哀・ハヤテ・咲夜
「アイツらは!?」
4人が潜水艇の中を覗きこむが、人の姿はない。
既に逃げてしまったようだ。
コナン
「逃げられたか、クソ!!」
コナンが舌打ちした。
咲夜
「けど変やな、発信機の反応はまだしてるで。この近くにいるのはまちがいないんとちゃう?」
「その通りだよお嬢ちゃん。」
咲夜の質問に答えるように、4人の背後から声がかけられた。
コナン達は一斉に声がした方に振り返った。
そこに立っていたのは、3人組の男だった。
内、2人が拳銃を構えていた。
コナン
「オ、オマエは!!」
直感的にコナンはわかった。
コイツらがモロアッチ教授一味だと。
モロアッチ
「私の後をつけてくるとは、やるじゃないか。ホメてやろう。しかし、最後の詰めが甘かったな。スマイリー、ドット。やれ!」
教授の命令に従って、スマイリーとドットが4人に襲いかかった。
3分後。
モロアッチ
「やられた。」
そこにあったのは、コナンとハヤテにボコボコに撃破され、縄でグルグル巻きにされた教授らの姿であった。
つまり彼らは見事にコナン達の逆襲にあってしまったのだ。
モロアッチ
「強い・・・強すぎる、オマエら一体何者だ?」
教授の言葉に、コナンとハヤテが不敵に答えた。
コナン
「別に、ただの小さな探偵と、」
ハヤテ
「しがない借金執事です。それにしても、最近の犯罪者は銃を持っていればなんでもうまくいくと過信しているようですね。しかし、世の中うまくいかないものなんですよ。」
ハヤテが言うが、彼は日本語でしゃべっているために、彼の言う事は通じていない。
哀
「さて、じゃあ刃ちゃんや伊澄ちゃん達の監禁場所を教えてもらいましょうか?」
哀が言った。
しかし、教授は一筋縄にはいかない男だった。
モロアッチ
「フン、どこに正直にハイと言う犯罪者がいるか。たとえ言うにしても、交換条件がないとな。」
犯罪者相手に取引をする事などできない。
その後も、コナン達は何とか教授を懐柔しようとしたが、結局ムダだった。
およそ2時間後。
咲夜
「アカン。こうなったら警察に来てもらった方がええんとちゃう?」
コナン
「そうですね。」
コナンは英語で教授達に警察に引き渡す事を伝えた。
ところが、その途端教授は大笑いした。
モロアッチ
「ハハハ、もはやそんな時間はないよ。実は今回の誘拐は伊澄という少女をある依頼人に引き渡すための付け足しに過ぎなかった。」
この言葉に、英語がわかる3人は顔色を変えた。
コナン・哀・咲夜
「何だって!!」
モロアッチ
「その依頼人に今日の夕方彼女の身柄を渡す予定だった。一応アジトの場所は教えてあるから、ワシらがいなくても勝手に連れて行くだろう。」
咲夜
「何やて!!どこや!?どこに伊澄さんらを監禁してるんや!!教えんかい!!」
モロアッチ
「素直に教えるワケにはいかないなお嬢ちゃん。交換条件として、ワシらをここで解放する事だ。」
コナン
「クソ、悪党だけに根性曲がってやがるぜ。」
コナンも悪態をつくが、時間がないのも事実だ。
既に時刻は午後3時半を回っている。
急がなければ。
ハヤテ
「仕方ありません皆さん、要求を呑みましょう。今回は伊澄さん達の安全の方を優先しましょう。」
咲夜からワケを聞いたハヤテが提案した。
結局、コナンと哀は探偵として断腸の思いで、教授の提案を呑む事にした。
モロアッチ
「よろしい、教えよう。ここから南へ5キロ行った倉庫街の18番倉庫の管理室に彼女達を監禁している。」
コナン・哀・ハヤテ・咲夜
「5キロ南の18番倉庫!!」
4人は一斉に駆け出した。
モロアッチ
「って、縄を解いて行け!!」
教授の声が虚しく響いた。
4人は縄を解き忘れていたのであった。
ちなみに、この後教授達は何とか縄を自力で解いて逃げたそうである。
教授達を置いてきぼりにして艀の外へと出た4人は、丁度追いかけて来たワタルと合流した。
咲夜
「あれ、ワタル遅かったな?他の2人がいないようやけど何かあったんかい?」
ワタル
「何かあったどころじゃねえぜ。警官に捕まるし、うまく離脱できたと思ったら英語がわかんなくて道迷うし。本当に良い事なしだぜ。」
おそらくここまで来るのに相当な苦労をしたであろうが、4人にその苦労話を聞いている余裕はない。
ハヤテ
「それはご苦労様でした。けど、伊澄さん達は別の場所に監禁されているそうです。ボクの後ろに乗ってください。急いでそこへ向かうんで。」
ワタル
「おお、ありがてえ。これ以上走るのはゴメンだからな。」
ワタルはハヤテの後ろにまたがった。
コナン・哀「それじゃ、お先に!!」
ハヤテ達の横をコナンと哀がすり抜けて行った。
ハヤテ
「ボク達も急ぎましょう!行きますよ、2人共しっかりつかまってください。」
ワタル・咲夜
「おお!!」
コナン達に遅れる事1分。
残った3人も急いで伊澄達の元へと向かった。
その頃、その伊澄達の監禁されている倉庫では、1人の白い仮面をはめ、マントを纏った男が現れた。
その男は、伊澄達が監禁されている部屋に入った。
「フン、一応約束は守ったようだなあの教授。」
他に捕まっている理沙やユリ達には目もくれず、彼は伊澄を抱きかかえた。
そして来た時同様静かに倉庫から出る。
しかし、そこでコナンと哀に出くわした。
コナン・哀
「伊澄ちゃん!!」
「フン。邪魔者か。」
コナン・哀
「その人を離せ!!」
コナンと哀は麻酔銃を男に対して構えた。
「ホゥ、中々の飛び道具を持っているようだが、所詮は平民だな。」
コナン・哀
「え?」
コナンも哀もその言葉の意味が全くわからなかった。
そうしている間に男はゴソゴソと何かを静かに唱えた。
それが終わった途端、すさまじい風が2人をなぎ倒した。
コナン
「うわ!!」
哀
「キャア!!」
あっという間に2人は倒されてしまった。
すさまじい衝撃のために気絶してしまった。
「フン。その程度の実力では私には勝てん。」
そして今度はハヤテ達が到着した。
ハヤテ
「コナン君に哀ちゃん!?」
「フン。後から後から邪魔者が湧いてくるようだが、いくら攻めてこようとムダだ。」
ハヤテと咲夜は現場の尋常ならざる光景から、バイクから降りるとすぐに散開し物陰に隠れた。
もちろん、2人共すぐにキックとハリセンで攻撃できる態勢に入る。
「考えたようだが、ムダだ。」
男が再び何かを唱えると、今度は鋭い風の矢が2人に襲いかかった。
ハヤテ・咲夜
「うわぁ!!」
咲夜はもろに喰らって気絶、ハヤテは避けたが衝撃波で地面に打ちつけられた。
「フン、話にならんほど弱いな。」
ハヤテ
「あなたの目的は一体何なんですか?伊澄さんをどうする気なんですか?」
ハヤテは体の痛みを堪えて叫んだ。
「詳しくは明かせない。しかしだ、この少女の力を我々は求めているとだけ言っておこう。」
ハヤテ
「ク・・・」
ハヤテは満身創痍だった。
とても男を止めるだけの力は残っていなかった。
「さて、お遊びはそこまでだ。まぁ私としても子供にトドメを刺すのははばかられる。伊澄嬢はいただいた事だし、さらばだ。」
彼はその場を立ち去ろうとする。
しかし、彼は油断していた。
頭上に伏兵がいる事に気づかなかったのである。
ワタルはバイクから降りると、倉庫の脇にある階段を登って4人をあっという間に倒した男の上に回った。
ワタル
「化け物め。」
ただでさえ化け物クラスの体力をもつハヤテを、これまでに多くの犯罪者と戦い場数を踏んできたコナンを赤子の手を捻るように倒した男。
その男の腕に、好きな女性・伊澄が抱えられていた。
今彼女を助け出せるのは彼だけだった。
しかし、不用意に動いたところで勝てる見込みはない。
ワタル
「頼む、気づかないでくれよ。」
ただひたすらそう祈る。
今の彼は丸腰だ。
武器は自分の体だけだ。
ワタル
「よぅし。」
彼は飛び降りる準備をする。
体重40キロ前後の体であるが、高さ4メートル近いこの位置から降りれば相手に打撃を与えられるはず。
もちろん、伊澄を巻き添えにしないためには相手の片側のみにキックするように飛ばなければいけない。
ワタル
「(行くぞ!!)」
覚悟を決め、彼は体を空中に躍らせた。
ワタル
「ウォォォ!!」
「何!?しまった、伏兵か!!」
気づいた時には遅かった。
いきなりの奇襲を止めるすべはなかった。
ワタルは全体重をかけて男に上から襲いかかった。
「グオ!!」
ワタルの体は男の顔を掠めて右腕に直撃した。
その衝撃で、骨が折れてしまったのか、男は伊澄を放した左腕を右腕にかけた。
その間に、見事彼は伊澄を取り返した。
ワタル
「フン、形勢逆転だなオッサン。」
「クソ。」
男の仮面がはがれた。
その下から出てきたのは、髭を生やしたいかにも騎士といった風情の男だった。
「やるじゃないかボウズ。この『閃光』とよばれる男に致命傷を与えるとは。今回は君のその勇気に敬意を表して下がろう。さらばだ。」
男はそのまま逃走した。
もっとも、ワタルには追っているヒマはなかった。
ワタル
「おい、伊澄!伊澄しっかりしろ!」
2・3回体を揺すると、伊澄は目を開けた。
伊澄
「わ、ワタル君。」
ワタル
「良かった。何ともないみたいだな。」
伊澄
「私、いきなり眠くなって・・・」
ワタル
「オマエは誘拐されたんだ。けど、良かった。伊澄が無事で。」
ワタルはとにかく好きな女の子を助けられて一安心である。
伊澄
「そう。ワタル君が助けてくれたの?」
ワタル
「うん。まあ。」
伊澄
「そう、ありがとう。」
ニコッと極上の笑顔を見せる伊澄。
もちろん、ワタルにはそれが天使の微笑みと同じくらいの価値がある表情だった。
そして、彼はそのまま伊澄を抱きしめた。
伊澄
「え?ワタル君?」
ワタル
「伊澄、大好きだ!!」
たとえフラれても良いと考えた。
瞬間的に決断した告白だった。
そして結果は、
伊澄
「ありがとう、ワタル君。」
彼女も彼の体を抱きしめた。
ワタル
「ありがとう。伊澄。」
彼にとって人生最大の告白であった。
2人の周りの空気はLOVE度120パーセントだ。
しかし、その雰囲気は彼が自分に向けられている視線に気づいた時に壊された。
ワタル
「うわ!!みんな!!」
何と、抱き合う彼らを倒れていたハヤテ達のみならず、いつの間に駆けつけたのかヒナギクに千桜、そして目が覚め千桜に縄を解かれ出て来た理沙達4人が見つめていた。
ワタル
「みんな!イヤ、その・・・」
咲夜
「ええんやワタル。アンタが伊澄さんを助けたんや、伊澄さんにとっての救世主はアンタに間違いないで。」
理沙
「そうだよ。おめでとうワタル君。」
こうやって祝福してくれる者もいれば、
刃
「イヤァ、ええもの見せてもらった。」
美希
「これは弱点帳に記録せねば。」
ユリ
「人質にされて出番なかったけど、これはこれで面白かったかも。」
と冷やかす者もいた。
そんな中で、伊澄は真っ赤になってオロオロし、ワタルは完全に固まってしまっていた。
結局、こうしてロンドンで彼らを巻き込んだ誘拐事件は幕を閉じた。
その後、彼らは残った日数で思う存分ロンドンを楽しんだらしい。
余談ではあるが、ワタルと伊澄はこの翌日から常に腕を組んで歩いていたとか。
そしてこの時の告白はハヤテ達のみならず、コナン達との間でも良く話題にのぼったという。 |