表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

続編のない短編達。

転生者な姉を持つヒロイン

作者: 池中織奈

転生者な姉を持つ乙女ゲームのヒロイン(普通の子)目線の話。

 「緋色! 貴方は三橋学園に入るのよ」

 「……みつ、はし、がつえん?」

 二歳年上の姉の言葉に、当時五歳だった私は瞠目したものである。

 お姉ちゃんは、昔からちょっとおかしな子供だった。私が生まれる前からそうだったらしい。

 夜泣きとかも全然しなくて、我儘も言わなくて、大人びていて、それでいて努力家。

 二歳上の私の自慢のお姉ちゃん、如月華南きさらぎかなん

 お姉ちゃんは世話焼きだった。

 「ふふ、何れ素敵な殿方に会うんだから女を磨くのよ」

 「緋色、男は胃袋で掴むものなのよ」

 「勉強がわからないの? なら楽しく出来るお勉強にしましょう」

 「箸の持ち方はこうよ、こう! あと好き嫌いはなるべくなくしたほうがいいわね」

 「やっぱり身だしなみは大事ね。緋色にはこんな服装が――」

 お姉ちゃんはどこで知ったのか知らないが、私に幼い頃から沢山のことを教え込んだ。

 なんでそんな事をするとお姉ちゃん曰く「緋色は何れ素敵な男の人に沢山会うの。その人たちと恋しないにしてもね、女を磨いておけば何れ好きな人が出来た時にその人を物にすることが出来るのよ!」などと熱弁をしていた。

 何なんだろう、お姉ちゃんはエスパーか何かなの? 私が素敵な男の人に会うのが決定ってさ。

 「お姉ちゃんは何のために自分を磨いてるの?」

 「ふふっ、落としたい男の子がいるの……じゅるり」

 「……お、お姉ちゃん?」

 お姉ちゃんは肉食系だった……っ。ちなみにこれは当時9歳の姉の台詞である。私は正直対応に困った。

 「だからね、私は中学受験する!」

 「ええっと……お姉ちゃん?」

 「ふふふふふ、三橋学園の中等部は奨学金制度があるもの……。ああ、岬くんが、生岬くんが……」

 ニヤけながらもブツブツと何かを発し始めるお姉ちゃんが正直怖くなった。

 その宣言通りに三橋学園の中等部に入学したお姉ちゃんは私にいった。

 「緋色もおいで。中学受験して。……ゲームでは高校からだけどいいよね」

 最後のぼそっと言った言葉は聞こえなかったけれど、とりあえず中学受験するように誘っているのだけはわかった。

 「えぇ……、私お姉ちゃんみたいに頭よくないよぉ……」

 「大丈夫よ! 貴方に勉強を教えたのは誰だと思っているの。私よ、私。貴方は筋がいいわ。飲み込みも早い。テストに出るヤマを私が教えてあげるから受けなさい。大丈夫。奨学生にきっとなれるわ」

 「いや、なれるとかなれないとかの問題では――……」

 「来てよ。緋色。私緋色と一緒に中学通いたいなぁ……」

 「……考える」

 悲しそうなお姉ちゃんの顔に思わずそう答えてしまった。

 何だかんだで私はお姉ちゃんが大好きだから、お姉ちゃんには甘くなってしまう。

 「本当!? やった、なら、私緋色が生活しやすいように学園改革する!」

 「え、ちょ、お姉ちゃん!? まだ入学して一日しか経ってないでしょう! 何を宣言しているの!」

 小学五年生になったばかりの私は叫んだ。お姉ちゃんと話していると叫ぶことが多い気がする。

 「ふふ、これかやるのよ」

 「……いやいや、そんなことやろうとしないでよ!」

 「ふふ、やらなきゃ可愛い妹が苦労するならやるわ。……それに岬くんに近づくためには学園での地位を確立しなければ…。目指せ、三橋学園の女帝!」

 なんだかとてつもない事を聞いた気がした。

 「ちょ、ちょ、ちょ、何それ何それ!? 何いってるの!? というか、絶対後者の方が割合高いよね!? あと女帝って何?」

 お姉ちゃん、肉食系女子すぎるよ! 怖いよ! 絶対に逃がさないとでもいうように笑わないで!

 「岬くんは後に皇帝と呼ばれるもの。なら隣に立つ私は女帝になるべきでしょう!」

 「待って。またお姉ちゃんの謎な未来予知? そしてさ、ね、お姉ちゃん、まずその、岬…くん? とお姉ちゃん会ってもいないんじゃ……」

 「未来予知ではないわ、事実よ。そして岬くんとは今日あったわ! 生岬くんのあのかっこよさと言ったら……っ」

 お姉ちゃんが悶絶してる。顔は赤くて、その表情は恋する乙女って感じで、正直普段はそんな表情をしないお姉ちゃんがそんな表情をしていると度きりとする。

 お姉ちゃんは、美人さんだ。

 髪と目は黒で、長い髪をいつも手入れしていて、お肌の手入れもお化粧もなにもぬかりなくしていて、努力して存在する美がそこにあるって感じなの。

 「……それで、話しかけれたの?」

 「ああ、それは話しかけたわ。岬くんの生ボイスやばいわよね。あの低音が心地よくて、最高すぎて悶えたくなったわ」

 「……声聞いて悶えるって不自然だから自重してね?」

 「それは自重したわよ! 話しかけたら寝ぼけた岬くんに『何だ、お前』って言われたの。お前だってよ、お前って。岬くんが私を見ていってたんだよ。キャーって感じよねー」

 「ちょ、ちょ、それ喜ぶ所なの!? 初対面の女の子にお前って失礼にもほどがあるでしょうが」

 なんて偉そうな奴なのだろうというのが、私の第一印象でした。というか、お前って言われて喜ぶってお姉ちゃんどれだけその人の事好きなの?

 突っ込みが追いつかないよ。

 「本当はその場で貴方を私の物にするって宣言したかったの!」

 「やめて!! それ明らかに不審者すぎるから、怖いから!」

 「我慢したわ。この溢れんばかりの恋情を伝えたくて胸が一杯だったけれど!」

 「お姉ちゃんの愛が重いよ!」

 「とりあえず岬くんと会話が出来ただけでもいいの。これから餌付けするの」

 「餌付け…?」

 「岬くんの好みを知り尽くした私は岬くんを胃袋で掴むことが出来るはず!」

 「お姉ちゃん怖いよ!」

 なんでその人の好みを知り尽くしてるの、お姉ちゃん。またよくわからないお姉ちゃんの未来予知なの?

 「ふふふふ、決めたわ、目指せ女帝!!」

 ……ああ、三橋学園の皆様、私の姉が多大な迷惑をかけそうです。ごめんなさいと心の中で謝ってしまった。

 お姉ちゃん、基本的に冷静なのに暴走癖半端ないからね。

 というか、岬くんとやらが無事かどうか心配になる。お姉ちゃん、押せ押せの肉食系だからね……。

 それから毎日のように岬くんとやらの話をお姉ちゃんから聞いた。

 お姉ちゃんは岬くんと着実に仲良くなっていった。きっかけは宣言通り餌付け……。そして岬くんは大変美形らしく、ファンなんてものがいるらしい(女の子の嫉妬は怖そうだ)。

 そしてそのファンの子と正々堂々バトルをしているらしい。お姉ちゃん……。なぜに良い所のご令嬢や御子息が通っているらしい私立の三橋学園でバトルをしているのか。

 どこから突っ込めばいいかわからない。

 お姉ちゃんが中学二年生、私が小学六年生になった春、お姉ちゃんは言った。

 「ふっ、勝ったわ」

 「……誰に?」

 「岬くんのファンクラブよ! 私は岬くんの隣に立つ存在としてようやく認められたの!」

 なんなの、お姉ちゃん。そして何のバトルなの。なんか、少年漫画の主人公がライバルに勝った時と同じような表情してない? お姉ちゃん、中学で何をやっているの。私は激しく気になるよ。

 そして、その夏、お姉ちゃんはまた、言った。

 「岬くんと付き合う事になったわ」

 「よかったね」

 「ええ、ええ、良かったわ。ああ、告白してきてくれた時の岬くんはきゃぁああああああ思い出すだけでやばい」

 「叫ばないで、お姉ちゃんうるさいよー。私の受験勉強付き合ってくれるんでしょう?」

 私はお姉ちゃんの通う学園に興味をもったのと、お姉ちゃんがあまりにもしつこいため、ダメ元で中学受験をすることになっていた。

 勉強を見てくれると部屋にきたはずなのに、のろけられる私。お姉ちゃん、岬くんの話は聞き飽きたから勉強教えてよ。

 そんな風に言い続けたら渋々勉強を教えてくれた。

 お姉ちゃんの教え方はびっくりするぐらいわかりやすい。

 「お前が、華南の妹か?」

 そして、冬。

 例の岬くんが家にやってきた。見た瞬間びっくりした。美形すぎたのである。

 不遜な態度を取っているけれどもそれさえも様になっていて、凄いかっこいい。何だろうカリスマ性とか持っているような、そんな感じの印象。……なんだか今までお姉ちゃんの影響で岬くん呼びしていたのが申し訳なくなる気分。

 だって岬くん、岬様とか岬さんとかのが呼び方似合いそう。

 「いつもお姉ちゃんがお世話になっています。如月緋色です」

 とりあえず真っ先に言ったのはそれだった。だってお姉ちゃん、絶対暴走してるもん。一番大変なの岬くんだと思う。

 ちなみにその時知ったのだが、岬くんはお姉ちゃんに岬と呼べといっているのに、おねえちゃんが恥ずかしがって呼び捨てにしないらしい……。「呼べよ、岬って」とお姉ちゃんに迫っている岬くんは、色気たっぷりでした。

 というか、妹の前でいちゃつかないで。

 そのまま岬くんは夕食を食べて帰りました。それからちょくちょく岬くんはうちの家に来ます。

 そして次の年、私は三橋学園中等部に入学したわけだけど……。

 「あ、あの女帝様の妹様!」

 「岬様と華南様の……」

 「お会い出来て嬉しいですわ。華南様からお話を……」

 学園に入学してからの、私の名前を聞いた上級生たちの反応である。

 お姉ちゃん……?

 しかも岬くん生徒会長だし、お姉ちゃんなぜか副会長やってるし……。なんでもその先輩方に聞いたんだけどこの学園庶民に対して差別があったらしいけどお姉ちゃんがそういう問題を一掃下という話。

 お姉ちゃん……?

 お姉ちゃんは「私のことは女帝と呼びなさい」などとふざけた事を言っていたらしい。まぁ、岬くんが皇帝呼びだからその恋人が女帝の名前なのはぴったりだってことで定着したらしい。なんで、様付けか女帝呼びなの。

 お姉ちゃん……?

 お陰様で、いじめられることはないけれども、友達出来ないんだけど! 敬遠されてるんだけど、お姉ちゃん! 

 取り巻きは出来るけど、仲良い友達が出来ないよ。

 と、嘆いて寂しいなぁと一人裏庭にいたら、

 「…なんだ、お前」

 なんだか不良な男の子に会いました。

 その男の子――神崎狼かんざきろうと友達になって、まぁ、その、結果的に恋人なんてものに私はなるのであった。

 ……なぜかお姉ちゃんにちなんでか姫様呼びされるようになって恥ずかしい、なんかちょっと嫌だ。

 でもまぁ、結果的に三橋学園に入って良かったかなとは思っている。だって狼に会えたからね。



 ―――高等部にあがって、「えええええ、ヒロインが中等部から入学してもうくっついてるってなにそれ」とかいうお姉ちゃんと似た変な子に遭遇するのは別の話。

如月緋色

ゲーム内のヒロイン。ゲームではちょっと料理が上手で、勉強が得意な女の子だった。高等部からの奨学生。磨けば光る子で、ゲーム内では好きな人のためにと綺麗になろうとしていたり。

現実では姉の教育の賜物かハイスペック美少女へ。姉の事は大好きで、自慢。でも暴走しないでとは思ってる。姉がツッコミどころが満載なために凄いツッコミをする子に育つ。


如月華南

ゲーム内では名前だけ出てきたような女の子。

現実、前世の記憶あり。前世では美人な教師。前世から自分を磨く事大好き。何れ出会う理想な男性のために……と磨いていたけれど、前世では理想の人に合う前に死亡(27歳)。ちなみに前世では告白はされてたけど、乙女ゲームにはまり「岬くん以上ではなきゃ」と断っていた人。

岬くんが現実にいるとしり、奮闘し、絶対に岬くんをものにするっと現世では色々磨きまくった。ついでに妹も磨いた。(他人を磨くのも好き)

肉食系。美人。


北御門岬

ゲーム内攻略キャラ生徒会長。不遜なキャラ。結構俺様かも。

現実、華南に迫られまくって落ちた人。性格はゲームと変わらない。庶民的な食べ物とかに興味があったため、華南の餌付けには食いついた。大きな会社の息子。


神崎狼

ゲーム内、一匹狼的なポジションの人。不良っぽい。でも寂しがり屋

現実、ちょっとぐれてる。でも一人は寂しいなと思っているところを緋色と出会い友情を深めていき、そのまま好きになる。


最後に出てきた子

転生者。ゲームが大好きだったから傍観したくて高等部に頑張って入学したのにもう入学した時にはヒロインはもう男と付き合ってた。どういうこと???となっている子



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  >お肌の手入れもお化粧もなにもぬかりなくしていて 僅か9歳でそんなことはしません。 化粧なんてお肌の敵です。
[一言] 昔、エロゲ世界に迷い込んだファンが主人公のふりしてヒロイン(何人かいるヒロインのひとりで彼のイチオシ)に近づいたが中のひとが違う事を一瞬で見ぬかれ、なんかロクでもない悪霊かなんかに取り憑かれ…
[良い点] 軽妙洒脱にして怒濤の展開かつ問答無用、さすが池中織奈様、素晴らしい。ダレたところも抜けたところも無く爽快に頭の中身が洗われる感覚は短編として一つの究極系ではないでしょうか。 [気になる点]…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ