表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

闇に生きる男たち

作者: 李仁古

これは『5分企画』参加作品です。『5分企画』と検索するか、企画サイトへ行くと他の参加者さんの作品が読む事が出来ます。

 夜の埠頭。波の音が静かに響き渡っている。街灯がぼんやりと一部を照らしていて、それが点々と奥に続いていく。なんとも不気味だ。そう思いながら宮田は煙草を吸いながら腕時計に視線を落とす。午前一時三十二分になった。

 すると、一台のステーションワゴンがヘッドライトもつけずに埠頭の入口から入ってきた。

「おいでましか」

 相棒の笹川が苛立ちながらそう言った。ステーションワゴンがパッシングして合図する。宮田もライトで合図する。

 取引相手だ。

「みたいだな」

 煙草を捨てて、笹川にアタッシュケースを取るように指示する。笹川が車の助手席から札束が詰まったアタッシュケースを出す。すると、金髪の男がステーションワゴンから降りて煙草を吸いながら歩いてくる。

「あんたが宮田?」

 金髪の男は若く両耳にピアスをしていて、服装が派手だ。チンピラだと宮田は思った。

「俺じゃない」

 笹川が言うと、金髪は煙草を吸いながら宮田を見た。全身を見てから含み笑いをした。気に食わないと思いながらも平然を装う。すると金髪が手信号を後ろにあるワゴンに向かってやった。それからワゴンからまた一人出てきた。アタッシュケースを二つ持ちながら。

「金はあるんだろうな?」

 宮田は苛立ちながらも頷く。これが終われば二度と会わないと自分に言い聞かせながら。

 程なくして、ケースを持った男がやってきた。それから笹川がケースの蝶番ちょうつがいを開けて中身を見せた。中身を確認した金髪が後ろにいる男に顎で指示すると、男がまず一つのケースを開けた。中にはイタリアのベレッタM92Fやアメリカのコルト・ガバメントなどが全部で四挺あった。

 そしてそのケースを閉じて地面に起き、もう一つのケースに手を伸ばした。その時、不意に撃鉄を起こす金属音が聞こえて振り返る。そこには相棒の笹川が回転式拳銃を握っていた。

「残念でした」

 金髪の声で前を見るとロシア製の銃が宮田の額に向けられていた。


 やられた。


 そう思った宮田は途端に恐怖を感じた。すると、彼は後頭部に殴られて意識を失った。そこに倉庫のシャッターが開いて、スーツ姿の太った初老が歩いてくる。その横にサングラスをかけた男が部下たちに手で指示を出す。数人の男たちが宮田を運び出した。

「へっ! たいした奴じゃなかったじゃねぇか!」

 金髪が笑みを浮かべながら銃を縦と横に回しながら言った。


     *   *   *


 宮田はうっすらと目を開けると、薄暗い中ぼんやりとした明かりがついている。辺りを見渡しても暗くてここがどこでなにがあるのかよく分からない。すると、足音が聞こえて向くとそこには……。

「気分はどうだ?」

 スーツ姿の初老が暗闇から現れた。宮田のボス、金田だ。

「サツの仕事は失敗だったようだな」

 宮田はそれを聞いてはっとした。

 そう彼は警察が送り込んだ潜入捜査官なのだ。金田が仕切る組織は巨大化しつつあり、日本最大の武闘派。中々尻尾を掴めない警察は潜入捜査官を送り込む事を決めた。それが彼だ。

 金田が無表情で合図した。すると奥から口をテープで塞がれ、椅子に縛り付けられた宮田の妻と唯一自分の正体を知る上司がいた。咄嗟に体を動かしたが、自分も椅子に縛り付けられていた。彼の頭の中で最悪なシナリオが出来上がっていく。

「さぁ、答えてもらうぞ? サツはどこまで知ってる?」

 宮田は妻と上司の目を見た。恐怖で怯えている。彼は頭をフル回転させたが、無駄だった。組織にいたから分かるのだ。言っても地獄。言わなくても地獄。彼の頭は混乱していた。どうしていいか分からないのだ。

 すると、銃声が響き渡った。見ると上司の頭から血が流れ、ぐったりとなった。返り血を浴びた妻が体をよじりながら何かを叫ぼうとしている。しかしテープがあるせいで何を言いたいか分からない。

「次は奥さんだ」

 金田が静かに言った。

「分かった! 言うから、妻は……」

 宮田は俯きながら警察の情報を言った。自分が知ってる全てを。

 それを聞いた金田は頷きながら手で合図した。すると妻のこめかみに銃口が押し付けられ、妻の頭の一部が破裂した。彼は叫びながら必死に体を動かした。少しでも妻の元にいようとするがなかなか思い通りに行かない。

「全部片付けておけ」

 金田はそれだけ言うと、暗闇に消えた。宮田は心の中で何度も「殺す」と念じた。呪い殺せるなら彼はするだろう。

 男たちに両脇を固められ手を後ろに回され手錠をかけられる。足には縄を巻かれてその先にコンクリートのブロックを三つ結ばれた。彼は抱えられたまま倉庫を抜けたところで笹川がいた。

「あばよ、相棒」

 不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 埠頭の端につくと、躊躇なく海に放り込まれた。大きな水飛沫と共に海の底へと沈んでいく。

 宮田はもがいた。足に巻かれた縄を解こうと。だが手錠とブロックのせいで上手くいかなく、徐々に底へと沈んでいく。真っ暗な闇が目の前に広がる。彼は間違いなく地獄に落ちている。

 しかし、彼には死ねない理由がある。妻と上司を殺したあの男を殺さなければ気が済まないのだ。その為にも生きなければいけない。どんな事をしても。そして手錠の鎖に足を乗せて引っ張った。手が擦れて激痛が走るが耐えていると、左手の親指の関節が突然鈍い音と共に外れた。尋常じゃない痛みに思わず息が大量に出てしまった。

 海水が口の中に入りながらも、左手の手錠を外してようやく手が自由になった。それから左手を庇いながら手早く縄を解き、死に物狂いで海面に向かった。ようやく海面に出ると、せながら酸素を求めた。

 呼吸が整うと、泳いで陸に向かった。海水で錆び付いた梯子を使ってようやく陸に上がった。そこでまた噎せると大量の海水を吐き出した。ようやく呼吸が整うと、ぼんやりと光る街灯に照らされている埠頭ゆっくりと歩きだす。彼にはやるべき事がある。どんな事があっても必ずやらなければならない事が。全てを失った彼の心はここの埠頭よりさらに暗く、そして黒く染まっていく。夜の闇が街を包み込んでいくように。

 宮田は埠頭を歩きながら復讐を誓った。皆殺しだ。

読んで下さってありがとうございます!


前回の『5分企画』で酷い作品を書いてしまったので、今回はリベンジする為に参加しました。今回のテーマが『夜』という事で、ダークな作品を目指しました。個人的にはハードボイルドやノワールのような雰囲気を意識して書いたつもりです。少しでも夜の雰囲気を味わってもらえたら幸いです。


では、ここまで読んで下さった読者さん。ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 夜とダークな世界がマッチしていたと思います。ハードボイルド小説は読みませんが、ドラマの「24」とかは好きで観てます。宮田の心情が良く描かれていたと思います。 [気になる点] 所々誤字があり…
[一言]  こんばんは、五分企画参加者の針井です。読ませていただきましたので感想を。  ハードボイルドと言う前評判通り、夜の闇に丁度良い雰囲気を纏っていたと思います。  闇の商売人の中に潜り込んで調…
[一言] 情景描写が秀逸でした。 2500文字をフル活用してハードボイルドな世界観が構築されていて、映画のワンシーンのようでした。 ただ、本当に映画のワンシーンを途中から見ているようで、前後がない分少…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ