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俺と花畑 作者:あーもんどツリー
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始めまして

(ほほ)を吹き抜けて、風が走り去っていった。
(にく)いほどの(さわ)やかな朝が、俺の眼を覚ましていく。

「・・・どこだ、ここ」

辺りには木、木、木。
森を成した木々が連なるばかりの、森林の中で寝ていたらしい。
なぜそんなところにいるのか、俺ですら解らない。
昨晩、いや先々日、・・・もっと前から、記憶がない。そもそも俺は何者なのかさえ、自身で解らない。
何でなんだ、何でこんなことになっているんだろうか。俺は少しパニックを起こしていた。混乱するのも訳ない。朝眼が覚めると見知らぬ地で独りぼっちなのだから。
しかし俺の勘は一つだけ確かなことを察していた。

俺が今いるここは、《何か》の巣だ。しかもなかなかでかい、恐らくは肉食の獣のものだろう。辺り一面に肉付きの骨が散乱している。
逃げろ、と本能が訴える。
俺は立ち上がろうとして、気づく。
奴が来た。
それは巣の主。言い換えるなら俺を食う為ここへ連れてきた奴。
万事休す、俺の脚はクモの糸のような粘着質のものに囚われていた。これでは逃げようにも逃げられない。
ガサガサ、と背の高い草の間を()って奴は着実に来る。
目の前の草が揺れた。奴のお目見えだ。

「起きてたんだ、よう人間」

俺は目を疑った。
そこに来たのは女の子だったのだ。
言葉こそ荒いが、クリッとした眼、長いのを後ろで束ねた(かみ)、そして着ていたホットパンツなどは、いかにも女子のそれだった。
「・・・アレ、意外と落ち着いてるね?」
などと、俺の状況を全て解っているような素振りをする。

「ここはどこだ?」
(しゃく)(さわ)ったものの、俺はこの状況を打開すべくその女の子に質問してみることにした。

「ううん・・・何て言えばいいんだろうなぁ・・・。信じないかもだけど、ここ、アンタの居た世界じゃないの」

はぁ?
最もらしい展開。見知らぬ地で眼が覚め、出会った最初の人物が女の子で、ここが異世界だと言う。何というテンプレなんだろうか全く。

「だろうな」
「やっぱし驚かない。アンタ大丈夫?」

驚くのが正常な反応なんだろうか。正直その辺は判らない。
そういや最近感動したことないよなぁ。アパシーとかいうやつだろうか。

「異世界、ねぇ・・・」

やはり、とは思ったが無感動な自分。
「・・・あ!そうだ、アンタ名前は?」
「すまないな、覚えてないんだ」
「やばい、それはやばいよ!!」

何がやばいのか解らない。ましてそれはどの《やばい》なのか。

「・・・来た!!」
え?とその女の子の視線を追う。
その先を見る前に、空が(かげ)る。
「・・・ッ!!」
とてつもなくでかい。その一言に尽きる。

島一つ分はあろうかという岩が空を飛んでいた。
「《ギリヌェウロ》・・・」
女の子はそう(つぶや)いた。
その言葉が何なのか、その時はまだ知る(よし)もなかった。



空を飛ぶ岩はそのまま去って、(かげ)りが消えた後。
「・・・何もしてこなかった」
「?」
「アンタにはそのうち話すさ。嫌でも」

どういうことなのか、やはり分からなかった。
その後、彼女は俺を村へと連れていった。そこは彼女の家がある、いわば故郷のようなものだ。

「ここへ入って」
言われるがまま、俺は案内されたある一つの民家に入った。
中は薄暗かったものの、その中に数人の人がいることが気配で察することができた。

その中の一人、恐らく長老にあたる人(といっても若い女性なのだが)が俺を見るなり言ってきた。
「・・・貴方ね、こちら側へ来た外来人とやらは」
「多分そうなるな」
「早速だけど、貴方に哀しいお知らせをします」
なんでそうなるのか。
「貴方はもう二度と、ここから帰れません」
だからなぜにそうなるのか。
「哀しいけれど、これが運命というものよ」
なぜなんだ。周りの人まで泣いているが、アンタら関係ないだろう。
「時に残酷に、運命は人を弄ぶ。それはもう、むごいほどにね・・・」
大分痛いことを云っているこの人、本当に長老なのか・・・?

「教育係は貴女よ、《杜若(かきつばた)》」
「ええ、私ですか?」
と言って立ち上がったのは先ほどの女の子だった。
彼女、《かきつばた》と言うのか。変わった名前だなぁ。

「・・・仕方ないです、ね。アンタ、来なさいな。やることがイッパイあるから」
「・・・お、おう」

こうして俺の、なんか変な新生活がスタートしていった。
先行きが思いやられる。
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