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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

触らぬ令嬢に祟りなし

作者:柚月ネロリ
だいたい四時間くらいで書き上げたので、設定とか登場人物の名前とかがかなり雑です……。
そこまでホラー要素はありません。


「すまない、オルドラ。君との婚約を、破棄したいんだ」


ラティカス様は、そう言ってわたくしに頭を下げた。
ブルンフェルシア王国の第一王子である彼は、ウィンター侯爵家の娘のわたくしと婚約している。

それなのに……


「君が、僕を好いてくれていたのは知っている。だが……彼女に子が出来たんだ。なにより、僕たちは愛し合っている。もう、これ以上自分の気持ちに嘘はつけないんだ」

「申し訳ありません、オルドラ様……」


彼の隣には、わたくしではない別の女性がいる。

呆然と見つめるわたくしに、目の前の女はしおらしく謝罪の言葉を述べた。
だが、神妙な面持ちでこちらを見上げたその瞳には、反省ではなく、勝ち誇ったような色がありありと浮かんでいる。

くすり、という小さな嘲笑を聞いた瞬間、限界まで張り詰めていたものが、ぷつん、と切れた気がした。


「どうしてっ……!!どうして、こんな女なんかに!!」


心に湧き上がる衝動に突き動かされ、わたくしは目の前の女に突進する。
怒り、憎しみ、嫉妬、恨み、悲しみ。
激情のまま、わたくしはその小さな身体を揺さぶった。


「きゃっ……!?」

「わたくしの方が、ラティカス様に相応しいのに!!子供の頃から、ラティカス様をお慕いしていたのに!!ずっとずっとラティカス様のために努力してきたのに!!」

「いたい!!離して!!」


ずっと、孤独だった。

生まれて間もなく、ラティカス様の婚約者に決められたわたくしは、厳しい王妃修行に明け暮れ、他の子のように遊ぶ時間はなかった。

周りのご令嬢は、隙あらばわたくしに取って替わろうと画策していて、心を許すことは出来ない。
皆、うわべだけの付き合いだ。

そして、いつもわたくしを優しく励ましてくれていた両親は、二年前に馬車事故で亡くなった。
涙にくれるわたくしに、ラティカス様は言ったのだ。

僕が君の家族になるから、と。


「……なのに、なのに何故この女なの!?どうして、このわたくしではなく!!」

「こわいっ……たすけて、ラティ……!!」


彼の名を呼びながら、女はまだ何か喚いているが、わたくしにははっきりと聞き取れない。
ただただ、悔しくて、目の前の女が許せなくて。

その細腕を掴む力を強めたのと、どすんという衝撃を感じたのは、ほとんど同時だった。


「……ぁえ……?」


胸に突き立てられた、鈍く光る刃。
今日のためにと用意したドレスに、刃先から流れた血が、ぽたりと落ちた。


「が、はっ……!」


灼けつくような、激しい痛みが走る。
呻くような声とともに、熱いものが込み上げてきて、喉から零れた。


「……な…ん……ぇ……っ……?」


なんで、と言おうとするそばから血が溢れては、わたくしの口を塞ぐ。
どうにか呼吸をしようとするたびに、気管がひゅうっ、ひゅうっとおかしな音を上げ、とても苦しい。

わたくしが無様に喘いでいると、鋭い痛みとともに、剣が引き抜かれた。


「はあっ……はあっ……き、君が悪いんだ!!君が、彼女を殺そうとするから!!」


興奮したような、上ずった声に振り返れば、そこにはラティカス様がいた。
その手に握られた剣から血が滴るのを見ながら、ああ、彼に刺されたのかと、ぼんやりとしてきた意識の中で、わたくしはようやく気付く。


「……ぁ、……う……」


違う。殺そうとなんてしていない。
納得がいかなくて、詰め寄っただけなのに。

それなのに、どうして、掠り傷ひとつないその女を庇うの?
もう弁解さえできないのに、どうしてわたくしをそんな風に睨み付けるの?


……ねえ、どうして?


寄り添う二人の姿を見つめながら、わたくしの意識は、暗闇へと落ちていった。



***



「……ふむ。この姿で目覚めるのは、久しぶりだな」


国王を始めとした重鎮達が、一斉に平伏しているのを眺めながら、はそう独りごちる。
国王たちの後ろには、婚約者であった王子と、大きな腹を抱えたあの娘が、真っ青な顔で震えていた。


「そう怯えずともよい。なにも取って食うつもりはないからな」


そう言って微笑んでやれば、元王子たちは「ひぃ……っ」と小さく悲鳴を上げ、失禁しそうな勢いだ。
あまりの醜態に、我は失笑する。


「まったく……そもそもは、お前たちが原因だろうに」


溜め息を吐きながら、我はすっかり変わってしまった自分の髪を眺めた。
かつては萌黄色だったそれは、深い紫に染まっている。
そして、これこそ、わたくし(・・・・)になった証拠だ。

百年に一度、この世界には神子が生まれる。

外見はなんら人の子と変わらず、本人にもその自覚はない。
人として生き、年を重ねて、そして人と同じように老いて死ぬ。

ただ三つだけ、神子には他の人間と明確に異なる点がある。

一つ、神子が生まれた国は、そこから百年栄える。
二つ、神子の本来の姿は、紫色の髪と黄金の瞳を持つ乙女。この色の組み合わせは、人の子には決して現れない。

そして……


「我の現身は死んだ。そして、今こうして、我は蘇ったのだ。……この意味が、分かるな?」


目の前の国王や重鎮達に向かい、そう告げれば、彼らはみるみる顔色を失くしていく。


「現身が死に、再び蘇れば、神子は力と記憶を取り戻す……。審判のため、裁きの神としてな」

「……こ、この者は、すでに廃嫡しておりますゆえ!!なんでしたら、この場で殺していただいても構いませぬ!!」


慌てふためく国王の言葉に、元王子と娘はみっともなく「父上っ!!どうかお助けを!!」「わ、わたしには子供がいるんですよ!?」といった声を上げている。

……甘い。
神を怒らせておいて、それしきで済むはずがないだろう。


「……その者たちを殺す程度では、足らぬ」

「で、ではっ……供物を!!最高の供物をご用意いたしますので、それでどうか!!」

「我にあのような狼藉を働いておきながら、そやつらの命と供物だけで許せと?到底、聞けぬわ」

「そ、それでは、どうすれば……?」

「そうだな……」


国王の言葉に、我は思案する。
元王子らの命と、貢ぎ物は最低限の条件だ。

それ以外で、なにが良いか……。

暫し悩んだものの、ふいに妙案が浮かんで、思わず口端が上がる。


「確かに、我の現身に手を下したのはその者たちだ。……だが、その者たちだけが悪いわけではない」


僅かに憐れむような眼差しを向けてやれば、元王子たちは途端に安堵したような表情になった。
それは国王や重鎮たちも同様で、口々に「なんと慈悲深い」「神子様は寛大であられる」などといった声が上がる。

そんな彼らに、我はゆったりと笑みを深めて、こう告げた。


「……そもそも、その者たちが過ちを犯したのは、そのように育てた者にも責があるのだ。だから……その者たちの不始末は、皆で責任を取らねば、な?」



……かつて繁栄を誇っていたブルンフェルシア王国は、一夜にして当時の国王や重鎮たちが急死するという事態に見舞われた。
彼らの死因については、現在もはっきりとした解明はなされていない。しかし、ほどなく彼らの後継者も命を落としていたということから、王侯貴族に特有の流行り病があったのではないかとする説もある。
その後、国内では謎の疫病や凶作が相次いだために流民が増え、国王たちの死から僅か数年で滅亡した。
あまりにも急激なその衰退に、神の怒りに触れたという噂が、周辺国ではまことしやかに囁かれたという……。






補足

神子が病死や事故で死亡した場合は、特に覚醒しません。
そもそも、神子は世界のバランスを保つシステムのようなものなので、普通に良い国なら天寿を全うするように仕組まれています。

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