第66話【破局寸前】
『お前が金星蒼?』
『そーだけど』
夏休みに入る少し前だった。
珍しく1人で校舎の外を歩いていると男たちに声をかけられた。
『有栖川小雪と付き合ってるってまじ?』
『うん』
『じゃあさー、別れてくんない?』
いきなりの話に頭がついていけず、は?と聞き返した。
それが気に入らなかったのか、1人の男が俺の胸倉を掴んで言った。
『別れろっつってんだよ』
『なんでだよ』
『俺のダチが彼女のこと好きなんだよねぇ』
そして、他の男が言った。
『今まではただの親友だったから大目に見てたけど、付き合ってるってことになりゃ話は別だな』
見た目からして不良だ。
関わったらろくな目にあわないだろうな。
はやいとこ退散しよう。
『そりゃ無理な話だね。じゃ俺急ぐから』
俺の胸倉を掴んでる男の手を払いのけ、その場から去ろうとすると、不気味な声で男が笑いながら言った。
『じゃあお前の顔ちょっと傷ものにさせてくんない?』
『は?』
『俺らお前のことまじ嫌いなんだよな。生徒会長だかなんだか知らないけどさ』
『ちょっと頭良くて運動できて人気あるからって調子こいててむかつくんだよな』
なるほど。
ようは俺に恨みがあるってことか。
『お前らの目的は俺だろ。小雪は関係ねぇじゃん。さっきの嘘だろ』
『あれも本当。最近彼女なんか言ってるだろ』
『なんか?』
『物なくなったり後つけられたりとか』
そういえば言ってた。
この前は体操服がなくなったとも言ってた。
名前のないラブレターとかメールが来たり、休日出かけるときもたまに付けられてる・・・みたいなことも言ってたな。
嘘だとは思ってなかったけど、こいつらだったのか。
さすがに小雪怖がってたもんな。
体操服なくなったときは泣いてた。
『お前らだったのか・・・』
さすがにそのときはキレそうになった。
でもキレたら相手の思う壺だと思って、精一杯我慢した。
『二度と小雪に手ぇ出すな。今度出したらただじゃおかねぇぞ』
『・・・分かった、約束しよう。その代わりお前傷ものな』
『なっ・・・』
『彼女を俺らに渡すか、自分が犠牲になるか。選べよ』
小雪のこともまんざら嘘じゃないようだな。
こいつら俺のことを試してんのか?
俺が小雪を見捨てるとでも思ってるのか。
『・・・二度と小雪に近寄るなよ』
俺がそう言うと、男どもはニヤッとした。
キラッと光るナイフを取り出して、俺の頬にぺたぺたと押しやる。
『良い度胸だ』
『ナイフは反則だろ』
『傷ものにするって言っただろ』
これ以上言っても無駄だ。
そう思って、俺はゆっくりと目を閉じた。
ザシュッと肌が切れる音がして、同時に痛みが走る。
頬から血が垂れてるのか触感的に分かる。
もう一度頬を切られ、次は逆頬を切られる。
なんで顔ばっかりなのかと問うたら、見えない場所に傷をつくっても意味がない、見える場所に傷をつけてみんなに嫌われれば良い、と言った。
ようは俺の顔が気に食わないんだな。
『おい・・・そろそろやべぇんじゃねぇの?』
そのうち、1人の男が言った。
『これだけやってんのに反抗しねぇてやべぇよ、こいつ。おい、そろそろ逃げようぜ』
『そうだな、これだけやりゃ十分だ』
男どもはそそくさと逃げようとした。
俺はその瞬間を逃さず、目を見開いて俺の顔を切った奴の腕を力いっぱい握った。
『ひぃっ!』
『おい、絶対小雪に手ぇ出すなよ』
男どもは悲鳴を上げて逃げて行った。
ため息をつくと、顔に激痛が走った。
顔に手をあてると、ヌルッと手が赤く染まった。
さすがにやばいと思って、着ていたシャツを脱いで顔の血を拭おうと当てた。
白いシャツは赤く染まり、傷口はジンジンとしみて、激しく痛い。
夏ってこともあって、流れる汗が傷口に入ると悲鳴をあげたくなるほどの勢いだ。
『やべぇな、これ・・・』
さすがに耐えられなくなった。
顔が痛いのと、暑さにやられたせいもあって、フラッとよろめいた。
『おいっ、蒼?!』
『ああ・・・英二?』
倒れそうになってもたれかかったのは、菊正宗英二だった。
俺より全然背なんか高くて、倒れる俺を余裕で支えた。
『おまっ・・・その顔っ』
『さすがに痛いな・・・』
最後にそう言ったのは覚えてる。
次に起きたときは、学校の保健室のベッドの上だった。
真っ白な天井が見える。
『蒼!良かった、目が覚めたんだね』
『小雪・・・』
小雪が俺の顔を覗きこんだ。
俺はムクッと起き上がって、自分の顔を触った。
顔にはバンソコーかなんかがついてて、触っても血がつかない。
すると先生が言った。
『大丈夫?金星くん。顔の傷もひどかったけど、倒れたのは熱中症のせいね。今日は猛暑日だものね』
『熱中症・・・』
『水分たくさんとってね』
そっか、俺倒れたんだっけ。
確か英二がいて・・・
『小雪、英二は?』
『英二くんなら飲み物買いに行ってるわよ。そろそろ帰ってくるんじゃないかな』
『そう』
まだちょっとだけ頭がくらっとした。
『大丈夫?もうちょっと横になってたほうが良いよ』
『あー・・・自分の部屋行く』
まだフラッとするけど頑張って立ち上がった。
ちょうど英二が帰ってきて、英二も寮へ戻ることになった。
戻る前、先生が俺に尋ねた。
『金星くん、その傷はどうしたの?』
『あーちょっと不注意でやっちゃったんです。あんまり大事にしたくないんで』
それだけ言った。
戻る途中、小雪はなにがあったのか聞きたそうだったが、まだ調子の良くない俺を見て言った。
『じゃああたしはこっちだから。なにかあったら連絡してね』
俺は軽く返事をした。
そして小雪は女子寮のほうへ歩いていった。
小雪がいなくなると同時に力が抜けた。
『しゃーねぇな。ほら、乗れっ』
英二はおんぶをする態勢になった。
『いーよ、歩ける』
そう言ったけど、英二は無理やり俺を乗せた。
『いーから。ったく、お前ほんとバカな奴』
『・・・どーせ』
英二と俺はルームメイトでもある。
だからちょうど良いや。
英二の広い背中にもたれかかる。
俺も同じ男なのに、こんなにも肩幅が違う。
良いよな、体がでかい奴は。
生まれつきこんな俺とは違う。
部屋に着いて、英二は俺をベッドまで運んだ。
そして飲み物を俺に渡して、椅子に座った。
『で、どうしたんだよ』
俺は英二にすべてを話した。
英二は昔からルームメイトってこともあって、なんでも話せる奴なんだ。
英二には全部話したけど、小雪には言えなかった。
小雪のためとか思われたくないし、小雪に心配させたくなかった。
でも俺が言わないことを小雪は予想以上に疑問に思い、しつこく聞いてきた。
さすがに俺もイラッときて、怒鳴ってしまった。
それ以来小雪とは話していない。
お互いに避けてしまっていた。
言えるわけない。
言ったら小雪が悲しむに決まってる。
でもああする以外に方法はなかったんだ。
でも逆に言わないことで破局寸前になるなんて、夢にも思っていなかったんだな。
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