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僕はまるで石ころのようで、星みたいな君。
作:松の慎



第65話【空回り】


夏真っ盛り。

8月に入って長期休暇のせいか新田流拳法道場の生徒も増えた。

中でも目立つのは、正式に入ったわけではないけど時折ここに来ては拳法をたしなんで、他の生徒たちに教える。

教え方がまたやたら上手くて、おまけに本当に強いもんだから生徒たちから人気者。

俺も怪我が治ったら手合わせ願う。

昔組んでた、相棒。


「今日は綾さんいないんスか?」


生徒の1人、俺より2つ年下で同じ学校の奴。
先週からここに入ったばっかり。

最初綾のことを見たときすごく驚いてたな。
可愛くて小さな女の子が拳法を生徒に教えてる。
しかもここの道場の娘というわけでもなく、うちの学校ときた。

こいつの顔ったらほんと面白いったらありゃしない。


「次くんのは明後日くらいじゃないかな。週1くらいのペースで顔見せてるから」
「そーなんすか。残念、教えてもらおうと思ってたのに」
「んなの俺が教えてやるよ」
「違うますよ、拳法じゃなくって綾さんのことです」
「は?」
「例えば好きな食べ物とか将来の夢とかー」


ああ、さては綾に惚れたな?
ほんっとモテる奴だな。

まぁあの容姿じゃ仕方ないか。
一目ぼれしてる奴ってけっこういっぱいいると思う。


「好きな食べ物はピザ。将来の夢はピアノ関係に就くこと」
「え?なんで先輩知ってんすか?じゃあ誕生日と血液型と趣味と好きな教科は?」
「8月17日、O型。趣味はピアノと拳法。好きな教科は英語、得意な教科は全部」
「ぜんっ・・?!」
「綾はトップだよ。あ、でも前回は大谷がトップだっけ」
「すごいんですね。じゃあ運動とかは苦手なんですかね?あ、でも拳法は得意か」
「運動全般得意だよ」


俺が輝の質問に全部答えると、輝は関心したように「へぇ〜」と頷いた。


「綾さんって先輩の彼女?」
「はっ?」
「だってそんだけ知ってるってことは相当仲良いんでしょ?」


彼女ではないけど、俺は好きだ。
でもそんなことこいつに言えやしない。


「綾は俺の相棒だよ」
「相棒?」
「昔組んでたんだ。2トップって呼ばれてて背中を任せられる唯一の人だった」
「組んでたって、なにを?」
「ちょっとね。とにかく俺らの前に敵はいなかったってことだよ」
「そりゃ先輩と綾さんが組んでたら最強ですよ!」


輝は笑って言った。

そして、少しだけ穏やかな顔をした。


「・・・背中を任せられるなんて、よっぽど信頼してたんですね」


穏やかで優しい顔つきの輝をついつい見入ってしまう。

なにも言わずに輝の言葉を聞く。


「相当信頼しきってなければ後ろは預けられませんよね。普通の友達レベルじゃ到底無理な領域だ」


確かにそうだ。
ここの生徒の中で一番強い奴と組めと言われても、きっと不可能なんだろうな。

お互いがお互いを信用して初めて出来ることだ。

あの頃は知り合って間もなかったけど、でも分かっていた。
お互い直感的に思ったんだ。
ああ、こいつなら絶対に大丈夫だ・・・って。


「羨ましいですね。そういう相手がいて」
「まぁな」


例えば強いって言われてる大谷だとしても無理だと思う。

強いってことは十分に分かってるけど、分かってるのにきっと俺の後ろで戦ってる大谷をチラチラ見て心配するんだろう。
大丈夫なのか、やられてないのかって。

強いって分かってるのに、だ。


信頼ってそう簡単に出来るもんじゃないよな。

でも綾の場合は違った。
綾は絶対にやられないし、俺もやられない。

どっからともなくそんな自信があった。

そして、やられるときはきっと一緒だろうと思っていたんだ。


「ほら、稽古稽古」
「うぃっす」


綾の相棒は俺だ。

でも、綾の彼氏は大谷なんだよな・・・・


俺と大谷、どっちが綾の中で大きな存在なんだろう。

はかりにかけて競うことじゃないのに、ついそう考えてしまう。

大谷に勝ちたい。
綾を手に入れたい。

そう思って焦ってる。


悔しいよな。
叶わない恋ってものがこんなにも、もどかしいだなんて。





*****************






「そうそう、んでここが・・・」


どうも、久しぶり。

今日は英二の家で勉強会。
というより、俺が英二に勉強を教えてるんだ。


医者目指すのに理系できないのはさすがにまずいからな。

それに理系だったら俺の十八番だ。
特に生物なんかは天下一品。

綾にだって負けたことはない。


「あーなるほど!さすが慎一頭良いんだな」
「いや、英二けっこう割と理解してるじゃん。勉強の仕方変えるだけでけっこう出来るようになるもんなんだぜ」
「慎一の教え方が上手いんだよ」


英二には絶対に絶対に医者になってもらわなきゃ困るんだ。

医者になっても俺たちが上に立てるのはずーっと後なんだろうけど、でもそのずーっと先のことが成り立つために今頑張らなきゃならない。

俺の上はお前しかいなくて、俺はお前の部下。
生まれたときからそう決まってるからってこともあるかもしれないけど、でも昔2人でそう決めた。

英二が諦めれば俺の天下なのに、今もバカみたいに昔の約束を守ろうとしてる。


「英二2学期は絶対に理系良い点取れるようになってるよ」
「だと良いな」


息抜きをしようと思って、ふうとため息をすると、ふと思いついた。

そういえば英二と蒼って同じ学校じゃん。


「なぁ英二」「あ、慎一」


俺と英二の声がハモった。


「「蒼って奴」」
「が来るらしいんだ、俺んちに」「知ってる?英二と同じ学校の」


続けて話すと、またもやハモった。

え?と聞き返すと、英二も聞き返してきた。
確かに今英二は蒼って言った。


「蒼、知ってんの?」
「英二こそ」
「友達だよ。蒼は」
「まじで?!」


同じ学校だから知り合いではあるだろうとは思ってたけど、まさか友達だったとは。

意外な関係に驚きを隠せずにいると英二が口を開いた。


「慎一は?」
「俺は・・・蒼の彼女の有栖川さんの元婚約者だから」
「はぁ?!まじで?!」


英二もかなりの勢いで驚いている。

無理もないか。
友達ってのより婚約者ってほうが驚くもんだよな、そりゃ。


「元ってことは今は違うんだよな?」
「もちろん。彼女には蒼がいるしね」
「お前は?」
「俺にも彼女いるよ」
「そっかー。あ、でもこれ知ってる?」


英二が少しだけ真剣な顔をした。


「あいつらがさ、破局寸前って話」


英二がそう言った瞬間、部屋のドアがガチャッと開いた。

ハッとして、2人でドアのほうを見た。


「あ、蒼・・・・」




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