僕はまるで石ころのようで、星みたいな君。(63/188)縦書き表示RDF


僕はまるで石ころのようで、星みたいな君。
作:松の慎



第63話【不安】


ドアを開けるとあまりの驚きのせいで動きが一瞬止まった。

なんで・・・たっちゃんがいるの?


「よう、綾」
「あ・・・よ、よう、たっちゃん」


ここにいるってことは全部知ってるってことだよね。

怒って・・・ないのかな。


「拳法やってんだって?」
「う、うん」
「まさか新田と昔組んでたなんてなー」


なんで笑ってるの?

気にしてない・・・ってこと?

そんなはずない。


「俺もそれ今日はじめて知った。すごいな」


慎ちゃんが言った。


「じゃあ俺らそろそろ帰るよ。稽古の邪魔しちゃ悪いし」


そう言ってたっちゃんが立ち上がり、便乗して慎ちゃんも立ち上がった。

そしてドアに向かって歩いてくる。


「じゃあな綾」


なに・・・
なにか企んでるの?

怒りもしないし話題に触れもしない。

その笑顔はなに?
だって本心じゃないでしょう?


「ば、ばいばいたっちゃん。慎ちゃん」
「おー。またな。新田もまたな」
「うん。さんきゅー」


2人はドアをバタンと閉め、出て行った。

しばらくシン・・・とした。

先に口を開いたのは由紀だった。


「綾、じゃあ行こうか」
「うん・・・」


なんて思ったんだろう。

もしかしてピアノそっちのけでここに来たことに関してもなんか思ったかな。

でも・・・ピアノおろそかにしてるわけじゃないよ。
ここに来るのだって週1って決めてるし、その他の時間はほとんどピアノにあててるもの。


あとで電話してみようかな・・・





*****************





「龍、なんでなにも言わねぇの?」
「なにもって?」
「だって・・・綾言わなかったんだろ。俺てっきりもう綾から聞いたんだと思ってたんだ」


慎が少し罰が悪そうな顔をした。


「まぁ・・・言う必要ないって思ったんだろ」
「でもさ、そりゃ綾も新田もなにも怪我とかなかったんなら言う必要ないかもだけど、今回は2人とも被害にあったわけだし」
「でもそれは新田と綾と・・・内田の問題だって思ったんだろ」
「そうかなぁ」


そうだよ、と心の中で言った。

そうだと断言しなきゃ俺がやってけないんだ。
そうだって思わなきゃ、俺どうしたら良いのか分からない。

それ以外になんの理由がある?
綾なら真っ先に俺に連絡してるはずなのにそうしなかった。

それにはわけがある。

そう思うけど・・・でも、そう思えば思うほど悪い方向へと考えてしまう。
ほんとにその悪い方向へ進んでるとしても、綾からなにも聞いてない以上俺はなんとも言えないんだ。


「心配じゃない?」


夏休み、普段よりは綾と顔をあわせずに済むことに少しだけ安堵してる。

変だよな。

綾は俺の彼女なのに、綾に会うのが不安だなんて・・・


「昔の相棒で、今も2人で稽古中。気にならない?」
「そりゃ気にならないっつったら嘘になるけど・・・」
「良いの?」


慎が俺の顔を覗きこんで、俺の顔を見てニッと笑った。


「じゃ行こ」


そして俺の手を引いて逆方向へ歩き出した。


「えっ・・・どこ行くんだよ?」
「道場」
「はー?!良いって!だって見たとこで・・・」


見たとこで、2人でいるのを見てどうしろって言うんだ。

綾にやめろとでも言うのか?
そんなこと言えるはずがない。

そもそも気になるってこと事態・・・もう、あれだよな。
完璧に綾のこと信用してるわけじゃないってことだ・・・

信用したいけど、場合が場合で相手が相手だ。


結局慎にそそのかされて道場へ引き返すことにした。
まだそれほど道場から離れてたわけじゃないから、5分くらいで着いた。

道場を目の前にして、唾を飲む。


「あ、いるいる」


慎がひょこっと覗き込んだ。
続いて俺も除いた。

胴着を着て、他の生徒さんと一緒に練習してる。
やっぱり新田は激しいことは出来ないみたいで、軽くやってるだけ。

すると綾が周りの人の指導を始めた。
綾は丁寧に教え、生徒は熱心に聞いている。

綾もう拳法マスターしてるのか。


「すごいな、綾。そういえばここの生徒以上に強いって言ってたもんな」
「ああ」


じっと見ていると、綾と一緒に指導をしている新田がこっちに気づいて、目があった。


「やべ!」


思わず隠れてしまった。

別に見てるだけなんだから堂々としてても構わないのに、なぜか体が反応してしまった。


もう一度そーっと覗いてみると、新田はこっちを見てなくて、生徒に指導をしている。

バレた・・・よな。


「おお、綾がお手本やってる。かっけー」


慎が目を輝かせて言った。

俺も視線を綾にやる。
綾の拳法はとても丁寧でキレがある。

新田流拳法・・・か。

どこにでも流派ってあるもんだな。
白鹿とかみたいに。


綾、楽しそうだな。
すごく生き生きとしてる。

それは拳法をやってるから?
それとも・・・


「慎、帰ろ」
「え、もう良いの?」
「ああ。そろそろ腹減ったしどっかで飯食おうぜ」


あれ以上見てると自分が惨めに思えてしまう。

覗きなんてちっぽけなことやってる自分が恥ずかしく思えてしまう。


新田は良い奴だし、信頼しあってるんだとしたら・・・って思うと、ゾクッとする。

新田に取られるって思ってしまうんだ。


今までの俺なら絶対に負けるわけないって言ってるところだろうけど、今の俺にはそんなこと到底言えやしない。


しかも、昔から絆がつながってる綾と新田、そして同じような家柄の俺と杉沢がくっつけば一番てっとりばやいんじゃないかとさえ思ってしまう。

最低だよな。


でも、ほんとにほんとに不安なんだ。

綾がなにも言ってこなかったことが、なによりも俺をこんな気持ちにさせる。


綾がそう言ったわけではないのに、勝手に想像して考えてしまうんだ。


綾が新田を好きなんじゃないかって・・・・




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