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僕はまるで石ころのようで、星みたいな君。
作:松の慎



第52話【杉沢ゆうり】


夏休みに入ったけど、今日はALTが急遽帰国することになったということで、集会をやることになった。


「龍先輩!新聞見ました!」
「すごいです!握手してくださいっ」


学校へ来るなり突然の大嵐。

まぁ無理もない。


「・・・くそ。本だけじゃねぇのかよ」


今朝の新聞にどでかく載っけてやがる。

しかもあの花と一緒に写ったやつかと思ってたのに、超真剣に花生けてるところだ。
それだけじゃない。
言ってもないことを載せやがって・・・


「大谷大変だな。読んだぜ新聞〜」
「『彼女はいますか?』『いますけど彼女は華道を心得てないので、母に許しをもらおうと頑張っている最中です。母は華道を嗜む人と結婚してもらいたいそうなので』ってか」


俺そんなこと一言も言ってない。
ノーコメントって言ったはずだ。

これだから記者って奴は信用できないんだ。
いつもいつもいつも・・・


教室へ着くと、綾が俺を見るなり近寄ってきた。


「たっちゃん!そのほっぺたどうしたの?!」


赤く腫れた頬を隠すためにしている真っ白なしっぷ。
とれないようにテープで縦2本横1本で止めてある。


「・・・母さんにやられた」


今朝この新聞のことで母さんとケンカになった。

新聞を持って俺のところへ形相を変えて走ってくるなり、いきなり俺の頬をぶったたきやがった。

さすがにそれにはビビった。


『なんだよ!いきなり!』
『これはなんなんです!!』


母さんは新聞紙を広げて俺に突き出した。

どでかく写った俺の写真にコメント。
俺は母さんから新聞を受け取って、それを見た。

昨日のことが書いてある。
俺の経歴やら稽古の様子やら、インタビューの話やら。


『な・・・に?』


彼女はいますか?のところを見て、目が丸くなった。


『それはどういうこと!私なにも聞いてないわよ!』
『俺・・・こんなこと言ってない』


こうならないようにするためにノーコメントって言ったのに。
なんでこんなことをするんだ・・・

俺はすぐに記者に昨日もらった名刺を頼りに電話をかけようとした。

ダイヤルを押している最中、母さんが静かに言った。


『じゃあ彼女がいるってことも嘘なのね?』
『え・・・それは・・・・』
『ほんとなんじゃない!』


ダイヤルを押す手を止めた。
冷や汗が流れる。


『彼女は・・・いる。綾だ。金星・・・綾』
『まぁ、綾ちゃんなの?!』


俺は受話器を置いて、母さんに言った。


『そう、俺綾と付き合ってるんだ。母さん前に記者に嫁は華道をやる人じゃなきゃだめだって言ったらしいけど、でも綾は華道をやらないし俺が結婚したいのは綾だ』
『綾ちゃんがお嫁に来てくれるのは嬉しいけど、華道をやらないなら認めないわ』
『なんで?!綾は綾だろ!』
『大丈夫よ、綾ちゃん頭良いしきっと頑張れば華道できるようになれるわ』


母さんは嬉しそうに話す。

そんな笑顔で言われると、すごく罪悪感だ。


『綾は将来ピアノ関係に就くんだよ。ピアニストかピアノの先生か音楽教師か』
『じゃあだめよ』
『家元になるのは俺だろ!綾は関係ないじゃんか。それに父さんだって住職だ。それっておかしいじゃないか』
『そうですよ、だからこそ今度は夫婦そろって白鹿流を継いで欲しいの』


白鹿ってのは母さんの旧姓で、代々続いてた華道の家元の名。
夫婦別姓って奴。
母さんは白鹿を継ぐ身だから父さんと結婚した今も白鹿を名乗ってるんだ。

でも母さんは大谷に嫁いだわけだから、俺や兄貴は大谷の姓なわけ。


『そんな無理な願いは俺、聞けないから』
『なら私は許しませんよ、あなたたちのこと』


母さんに宣戦布告してしまった。

こないだ綾の親父さんにああ言われた手前、絶対に引くわけにはいかない。
実の母だとしても。


「綾。夏休み俺んち来てくれないか?母さんに綾のこと紹介したい」
「うん。でも・・・大丈夫かな?」


綾は少しビビりながら言った。


「許してもらえるまで何度でも言うさ」


父さんに前話したときは大喜びしていた。
父さんも綾を気に入ってるわけだし、金星家がそれで良いのなら・・・って言ってた。

でも付け加えて言った。
母さんはきっとなかなか許してくれないだろうからと。

ほんとにその通りだ。

でも白鹿を継ぐには母さんに許してもらわなきゃいけない。


「ごめんな、綾」
「ううん全然!綾も頑張る」


いっそのこと継がなければ問題ないんじゃないかとも思った。
でも俺には華道以外取り得はないし、なおさら母さんが許してはくれないだろうと思う。

どっちにしろいつかは渡らなきゃいけない橋だ。

危ない橋は今渡っといたほうが良い。



綾と話していると鐘が鳴り、SHRが始まった。

いつものように担任の長い話に入る。
すると担任がなにやら新聞を広げた。


「見たぞ大谷。すごいな、先生は期待してるぞ」
「ども」
「それと早乙女」


担任は今度は慎に話を振った。

慎はなんだろうと驚いた顔をしている。


「清水さんから電話が学校にきた」
「いっ」
「とてもお礼を言っていたぞ。このクラスは大物が多いな」


先生は笑いながら言った。

周りの生徒もワイワイと「そうだよね」や「すごい」と言い合っている。
勘弁してくれよ。


慎と目が合った。


「笑えねぇよな」
「なぁ」


出来れば新聞なんかに載りたくなかった。
だって登校中も学校でも近所でも噂されんだもん。

だからこの前の慎の気持ち、よぉく分かる。


「さて、もう夏休みに入ってるがちゃんと勉強もしろよ。受験という受験はうちの学校はないがもう高校3年なんだからしっかり進路も考えておくように」


進路、という言葉を耳にしてみんなの間に流れるピリピリ。

なりたいものはあるけど、認めてもらえないのが現実。
特にうちの学校ではそういうの多いんだろうな。

金持ちが集まってるところに建てられた、金持ちのための学校。
もちろん一般人も入れるけど、でも少なくともこれまでそういう奴は見たことのないような場所だ。

跡継ぎやらなんやらでこの時期、どこの家も忙しいんだろうな。

俺さえ華道を継ぎたいって思わなければすむ話なのにな。
ほかに道なんてたくさんあるのに。

でも、やっぱり生まれたときから花が側にあったんだ。

俺にはこの道しかないって思えてくる。

・・・綾には悪いことしてるよな。


「起立、礼」


SHRが終わり、みんな集会のために体育館へ向かった。
俺も慎と一緒にゾロゾロと歩く。

暑い上にこの人ごみ。
ほんと暑っくるしいな。

手で仰ぎながら歩いていると、慎が言った。


「おい龍、なんか呼んでるぜお前のこと」
「えー?」


慎がどこかを指差した。
その場に立ち止まると、1人の女の子が現れた。


「こんにちわ、大谷くん」
「あ、ども」


だれだ。
俺の知らない奴・・・だよな。

あいにく女覚えるのは苦手なんだ。


「あ、じゃあ俺先行ってるよ」


慎がそう言うと、女が慌てて止めた。


「あっ、大丈夫!すぐ終わるから」
「そう?」


うーん・・・でもどこかで見たことあるな。

長く真っ黒な髪。
奈留よりは長くないけど、でもサラサラストレートってとこは同じだ。

見るからにおとなしそうな子。


「あの、大谷くんちが白鹿流華道・・・だよね?」


そう、まるで華道でもやってそうな・・・
ん?華道?

えーと、ちょっと待てよ。
確かどこかで・・・


「・・・あー!思い出した!!確か展示会のときに会ったよな!」
「思い出してくれた?」
「何流だっけ・・・・えーと、猪神いのがみ流じゃねぇよな」


猪神は昔からのライバルだ。
たぶん違う学校に通ってると思うけど、跡取りは。


「杉沢流よ」
「あ、そうそう!杉沢!あれだろ、あのテーマ『私の幸せ』!!俺あれ良いなって思ったんだー」
「ありがとう。大谷くんのもすごく良かった」


杉沢流ってあれだよな。
そんなに歴史はないけど、最近めきめきと実績を上げてきてるところだ。

華道界で有名なのは白鹿・猪神だけど一部では杉沢もって言われてるらしい。
そうか、同じ学校だったんだ。

どうりでどこかで会ったことあると思った。
展示会で会ったのか。


「あれ、で用事って?」
「うん。私もしかしたら夏休み白鹿さん行くと思うの」
「え?」
「白鹿の家元・・・大谷くんのお母様に招待されてるの」
「は・・・」


この人を・・・?
なんでまた・・・

ああ、そうか。
母さん華道やってる人と結婚してほしいんだっけ。

だから杉沢流ってか?
猪神流はライバルだから無理なわけだし。
少しでも有名なところの令嬢と結婚させようって魂胆か。


「ぜひ大谷くんのお嫁さんにって」


またまた一波乱ありそうな予感。



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