第39話【恋】
「へぇ、じゃあ有栖川さんって綾の兄貴の親友なんだ。なんかすごい偶然だよね」
「でしょ?あたしもすっごいびっくりした」
俺の婚約者は可愛らしい女の子。
元気で明るいし、普通の男ならこんな子が婚約者って聞いたら大抵は喜ぶんだろうな。
俺だってもし奈留と出会ってなかったらそうだったかもしれない。
まぁ、この子も好きな人いるみたいだからどっちにしろ破棄されるんだろうな。
俺が望んでも。
「さっきの綾かと思った」
「あー蒼?ねぇ、すっごいそっくり。顔も身長も一緒なのよ」
「さすが双子。髪おろしたら丸っきり綾だよね」
綾が双子だったことは驚きだけど、あのそっくりさにはもっと驚かされた。
まるでドッペルゲンガーのよう。
「中身はどんな?やっぱ綾に似てる?」
「んー、あたし綾ちゃんに実際会ったことないのよね。だからどんなのかは知らないけど・・・でも蒼はクールな感じなの。男っぽくて妙なとこで硬派で。外見と中身のギャップがとにかく大きいの」
「クール?じゃあ全然違うな」
「綾ちゃんはどんな?」
「いつもニコニコしてて、可愛いよ。ちょっと天然入ってるとこもあるし」
「ほんと、全然違う」
有栖川さんは手を口にあてて、クスクス笑った。
その光景を見て俺もつい笑ってしまう。
綾や奈留以外の女の子とこんなに長い間2人っきりで話すのははじめてだ。
すごく新鮮に感じる。
でもやっぱりこんなときでも奈留のことを考えてしまうんだ。
恋愛の盲点だよな。
今頃なにしてるんだろう。
また津野田がちょっかい出してるんじゃないか・・・って、つい思ってしまう。
「早乙女くんの好きな人ってどんな人?」
「俺らの親友で、優しくて良い子だよ」
「俺ら?って・・・早乙女くんと綾ちゃんと龍くん?」
「そうそう」
「早乙女くんの好きな人だったらきっとよっぽど綺麗なんだろうな」
「うん、日本美人って感じだよ。そういえば有栖川さんと彼も親友なんだっけ」
「うん。幼稚部のとこからずっとね」
じゃあ俺らより長いな。
俺らは小学部からだ。
男女の友情ってやっぱり存在するんだな。
ほら、俺らみたいに2人きりとかじゃなくて4人とかだったらありきたりだろ。
でも2人きりで男女が親友って、すごく珍しい。
「ご飯のとことか休み時間とか休日も、ずっと一緒」
「まるで恋人だね」
「あたしは思いっきり恋してるのよ」
有栖川さんは笑って言った。
そこまでの仲ならもうとっくに付き合っててもおかしくないのに、なんでいつまでも親友やってるんだろう。
だってずっと昔からいつでも一緒なんだろ。
もし他に好きな人がいたらそんなことできるわけがない。
彼だってきっと有栖川さんが好きなはずだ。
「なんで付き合ってないの?」
「そんなのあたしが知りたいよ」
その言葉を聞いた瞬間、ピンときた。
そういえば綾も恋愛に疎かったっけ。
龍を好きなことに気づいてなかった。
それでいろいろもめたもんな。
もしかしたら彼もそうなんじゃないか?
ただ単に彼女を好きなことに気づいてないだけ。
「蒼とは全然そんな話しないし、蒼があたしのことどう考えてるかなんてちっとも分からない」
「有栖川さんからは告白しないの?」
「うん、まだね」
両思いって良いな。
俺、両思いになったことない。
奈留が初恋で、その恋はまだ現在進行形で片思いだから。
だから両思いってどんなに幸せなんだろうっていつも思う。
相思相愛、その言葉が羨ましい。
「蒼、たぶん恋愛に関しては疎いの。だからゆっくり頑張ってこうと思う」
すごいな。
俺はいつも焦ってばかりだ。
会長が消えたとたん、龍。
そして津野田。
俺の心は常に先走ってしまっている。
「じゃあお互い頑張ろう」
「もちろん。あたし絶対両思いになってみせる」
「俺も負けないよ」
同じ片思いしてる人の言葉って、とても大きく感じる。
俺もそうすれば良いんだって、良い手本になる。
俺、有栖川さんと話せてよかった。
なんとなく心がすっきりした。
婚約破棄の話はちゃんと父さんに言わなきゃな。
でもそうしたら奈留のこともバレる。
でも、いつかはバレることなんだ。
父さんに言ったことで、さらに頑張れそうな気がする。
俺は俺で、一歩一歩進んでいこう。
**************
「気になるだろ、蒼」
「・・・べっつに」
「嘘ばっか。さっきから上の空」
俺の部屋には小雪たちがいるから、俺たちは他の部屋へ行くことにした。
綾はピアノの練習をすると言って、防音設備の部屋で練習をしている。
俺と龍は2人、小雪たちの話が終わるのを待つ。
「そりゃ親友の婚約話っつったら普通気になるもんだろ」
「親友として?」
「当たり前だ」
「俺には恋人として、のように感じるんだけどな」
「・・・お前昨日からつっかかるようなこと言うよな。俺が小雪を好きって?そんなのありえねぇよ」
「なんで?」
「なんでって、そりゃ・・・」
・・・なんでだ?
なんでかって聞かれたら返答につまる。
別に俺が小雪を好きじゃなくてはならない理由なんかない。
親友だから?
いや、そんなの答えにならない。
だけど、一度たりとも俺は小雪を恋愛対象として見たことはなかった。
そもそも恋自体したことがない。
「思い込んでるだけだろ、ただ」
「思い込んでる?」
「そう。お前は『小雪ちゃんは親友で恋人ではない』ってことがいつの間にか頭の中にインプットされてんだよ。だから好きだと思っても、頭がそれを拒否する」
思い込み・・・
そういえばそうかもしれない。
小雪はずっと親友として一緒にいて、それ以外なんでもないと思っていた。
それがいけないのか?
でも
「もしそうだとしても、俺は恋自体どういうもんか知らない。どういうときを恋してるっていうのかが分からない」
告白されるときも、試しに付き合ってみようと思ったことはない。
俺の隣には常に小雪がいて、小雪と一緒にいる時間が減るのはいやだからだ。
女の子を見てキュンとしたこともない。
むしろなんとも感じない。
こんな俺は一生恋なんかできないんじゃないかと思うってしまう。
でも、それでも良いと思った。
小雪が側にいるのなら。
「小雪が側にいてくれるから恋人なんかいらないし、別に恋なんてできなくても良いと思った」
なんで昨日知り合ったばっかの龍にこんなこと言ってるんだろう。
でも、他にいない。
こんなこと言える相手が。
小雪にはもちろん言えないし、それに龍ならちゃんと聞いてくれるって思うから。
「でも、小雪に婚約者がいるって聞いたとき、内心焦ったのも確かだ」
そりゃ親友だとしても、大学を出れば違う道を歩み、いつかは小雪だって結婚するってことは十分承知してる。
俺だってそうなるはずなんだ。
ただ、結婚するってことはもう俺とは一緒にいられないってことだろ。
学生の気軽なお付き合いとはわけが違う。
今学生である小雪に恋人ができることすら嫌がる俺が、そんなの耐えられるだろうか。
けど、それは
「親友として?」
俺がそう感じること、それはきっとそうではない。
「男として」
男として、小雪を他の奴に取られるのが嫌だと思う。
これって変なのか?
「俺って独占欲強いのかな・・・」
こんなこと思ってるなんて小雪に知られたくなくて、必死で平然を装ってきた。
だけど今、婚約をどうするのか決めている小雪たちが気が気でならない。
「婚約破棄してほしいって、そう思うことって変だよな。そんなの俺が決めることじゃないのに・・・」
「いや、普通だよ。蒼は変なんかじゃない」
俺は龍を見上げた。
龍は微笑みながら俺に言う。
「人を好きになったら、そんなこと思うのは日常茶飯事。好きな奴を取られたくないって思うのは当たり前なんだよ」
「当たり前?この変な独占欲が?」
「そうだ。お前きっとずっと前からもう小雪ちゃんのこと好きなんだよ」
「好き・・・って、俺が?小雪を・・・」
小雪を他の奴に取られたくない。
この気持ちが恋?
俺が小雪を好き?
「ずっと親友だったから気づかなかっただけだよ。十分小雪ちゃんのこと好きだって」
じゃあ、いつからだろう。
いつから俺小雪を好きだったんだろう。
もうずっと前から一緒にいるのは当たり前で、それは小雪じゃなきゃ嫌だと思っていた。
そう思ったときからもう俺は小雪に恋してたのか?
「もし・・・俺が小雪に好きだと言ったらどう思うかな」
「さぁな、それは小雪ちゃんにしか分からない」
「だよな・・・」
俺、小雪に好きでいてもらってる気がしない。
もちろん友達としては良いんだろうけど、恋人までは好きじゃないと思う。
女顔だし、小雪より背だって低い。
普段テンション低いし小雪につまらない思いさせてるかもしれない。
俺は龍にそう言うと、龍は言った。
「お前ばかか!なんのためにずっと一緒にいるんだよ。お前のことが好きだからだろ。少なくとも一緒にいて楽しいから一緒にいるんだよ」
「ほんとに?」
「当たり前だろ。なんで好きでもない奴とずっと一緒にいなきゃいけないんだよ」
心臓がドクンドクン鳴る。
俺ってこんなに弱虫だったっけ。
こんなウジウジしてる奴だったっけ。
「お前もっと自信持って良いよ」
そうだ、小雪は堂々としてる俺が好きだと言ってくれた。
だったら最後まで堂々としてる俺でありたい。
「で、どうすんの?小雪ちゃんと慎」
「あ、そうか」
堂々としてるんだったら、今言ったほうが良い。
もしダメでも、絶対諦めない。
そうだ、これが俺だ。
金星蒼だ。
「さんきゅーな、龍。俺やっと分かった」
小雪が他の男のものになる前に、どうにかして食い止めなきゃだよな。
恋ってこんなにも単純なんだ。
好きだから一緒にいたい。
それだけのことなんだ。
どうしてもっとはやく気づかなかったんだろう。
龍にはいつも救われてばっかりだな、ほんとに。
あいつはなんなんだろう。
ほんとにほんとにすごい。
表現しきれないほどに。
「じゃ、行ってくる」
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