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少年オオカミ

作者: てこ/ひかり

 昔々あるところに、ミコトという名の、まだ幼い少年のオオカミがいました。

 幼いオオカミは群れの中でも大層元気が良く、小さな体で森の中を駆けずり回っては、あちらこちらに擦り傷を作ってくるやんちゃ坊主でした。


 「僕、大きくなったらこの森を抜けて、あの山の天辺まで登るよ!」


 少年オオカミは森の中腹から遠くの方に見えている、大きな山脈に向かってそう吠えました。彼の言う山の頂上は白い雪に覆われ、群れでは誰も生きて帰ってきた者のいない険しい場所です。大人のオオカミたちは、そんな少年オオカミの話を笑って取り合いませんでした。


 「ミコトめ、またバカなことを言ってるな。お前みたいな小柄なオオカミに、あの雪山が登れるはずないだろう」

 「大きくなったらって言ってるでしょ!」

 「いつになったら大きくなるんだ、ミコト?」


 ミコトは群れの中でも特別小さなオオカミだったので、大人たちがからかうのも無理はありません。だけど、ミコトは体は小さくても人一倍負けず嫌いだったので、来る日も来る日も有る事無い事、森中で吠えて回りました。



 「僕、いつかこの群れで一番のハンターになる!何匹も羊を捕まえて、たらふくご馳走してあげるよ!」

 「僕、泳ぐのも得意なんだ!いつかあの河を渡って、向こう岸の雪山に必ず行ってみせる」

 「そのうち、背中から羽が生えてくるんじゃないかな?だってほら、僕、こんなに高くジャンプできるんだもの!」



 そんなミコトの言葉を、群れのオオカミたちは半ば呆れたように笑いながら、誰も信じようとしませんでした。


 それでもミコトはあきらめません。小さな体で、毎日毎日狩りの訓練をしました。周りの大きなオオカミたちに比べて、ミコトは人一倍足を動かさなくてはえものに追いつけませんでした。


また、誰よりも怖がりだったミコトは、実は水に入ることさえ怖くてできませんでした。それでもミコトはあきらめません。まずは雨の日に、水たまりに浸かることから始めました。次の日風邪を引いてお母さんに怒られても、ミコトは寝床の中で河の向こう岸を夢見ることをやめませんでした。


 それから、残念ながらオオカミの背中に羽が生えないことをクマドリから教えてもらったミコトは、本格的に山登りの訓練を始めました。険しい雪山を登りきるには、岩肌をジャンプして進むことも必要になるでしょう。小さな体を背一杯動かして、毎日野原を跳び回りました。おかげでミコトの体は余計傷だらけになりました。


 

 やがて一年が経った頃、少年だったミコトは立派な雄のオオカミとして成長していました。約束通り、群れを抜け、雪山を目指すと決めた前日の夜です。洞窟の中みんなに囲まれながら、ミコトは苦しそうに顔をゆがめてそっと頭を下げました。


 「すまない、みんな。やっぱり、僕にはできない…」

 「なんだって?」

 「僕は幼いころ、人一倍小さな体だった。狩りも泳ぎも下手くそで、いつだってみんなの倍走っても、半分も追いつけやしなかった。…分かってたさ。僕にそんなことできやしないって。本当は今も…実は最初から、雪山に登る自信なんてなかったんだ」


 僕は、みんなを、自分を必死にダマしてた。みえっぱりの大嘘つきだったんだ…。



 うなだれたままでいるミコトのことを、群れのオオカミたちは笑いながら、やっぱり誰も信じようとしませんでした。



 「そんなことないさ、ミコト!お前は今じゃ群れ一番の狩り上手じゃないか!お前に何度羊をご馳走になったことか!」

 「そうよ!私の子供が溺れた時、助けてくれたのはミコトじゃない!」

 「お前に登れなかったら、群れの誰に登れるっていうんだ。胸を張って行って来い、ミコト」

 「ああ、みんな…どうもありがとう」



 それから朝日が登った後、みんなに見送られながらミコトは雪山へと向かって行きました。それからミコトの姿を見た者はいません。だけど、彼が雪山に登れなかっただなんて、そんな話を信じる者はもう誰もいませんでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子供が聞いたら勇気のでるようなお話しでしだ。 ミコトがどうなったのか気になりますね。 でも、きっと、一番のがんばりやさんだったから、雪山で暮らしていると信じています。 あんなに頑張ったのです…
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