挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異天つ空から 作者:Yatusaka
1/1

ひとつ

 あういなわんそぐると云う言葉を知っているか! 
 とはトバルと云う青年が最近になってよく口にするようになった言葉である。彼はそれを街にて出会う有識者ないしは友人にばかり、鬼気迫る様子でそう聞きまわっていた。街中で彼に呼び止められて、こう問われた三四人、一人は学者であるユーバは存ぜぬと申し、傍らに佇まうユーバの国史研究の助手であるユーステムルも、困りつつ口端をあげて微笑しながらに、同じく判らないと言う。三四番に聞いた人には在り得ない妄言だと嘲笑して相手にされず、では今日賭けるものは……、と彼を交えた賭博の話に取り替えられた。だが気をめげずにそれからも街を歩き回った。しかし、尋ねられた友人と有識者は皆、彼の納得しうる答えをその問いから見いだせなかった。親切な人は図書館で調べようと言って、次の日に共に図書館で書物を漁るが、三日経ってその謎の言葉、それを扱う又係わる文献は一つもなかった。そう知って彼はますます途方に暮れた。彼は図書館を出でて後、酒場にて麦酒を呷って、心が荒ぶる時に絡んできた不幸な男衆を倒し足蹴にして自宅に帰り着いた。
 そも、トバルがその言葉に異常な執着を見せ始めたのは、とある日に見た夢を経てからであった。
 トバルは槍の扱いに於いては類をみないつわものであるが、彼はこの街を守る軍人ではなく、この街ハウグルの南東に教堂をおくイーツァム教が抱える秘匿兵隊、暗匿士団の一員である。イーツァムとは祖たる長イーツァムの名を借りたものであり、この教団は、イーツァムが力を肖ろうとした蕩けた磔柱の研究をし、公には民衆に正しく学びを与える活動団体として名高い。そして、件の暗匿士団とは、世間的に暗い仕事を請け負う事が多い団体で、仕事の完全なる遂行を信条として、だが何よりも優先されるのは教団に悪影響を及ぼしかねないものを如何なる方法を以て抹消することである。
 さて、トバルがこの団に参じてから二か月経ったある時、蕩けた磔柱の研究を行う部門の一員アルパラからとある秘密の話しがあると呼ばれて、ハウグル東区の中央をはしる水道の上に架かった橋の下で会う約束をした。この時のアルパラは口調こそ落ち着いていたが、顔は青ざめていて、瞳は散乱していて何かを恐れている様子だった。それでいて密か事というものだから、トバルはその後ろに潜む嫌な雰囲気を感じ取った。しかし、平生朗らか且つ物腰の柔らかな男をあのようにさせてしまう話におもしろいという気持ちが興って頷いてしまった。それがあの悪夢の発端なのだろう。
そして夜になって言われた通りに橋下へ赴くと、アルパラは先に居て、現れた人影に驚きて、君は何者かと怒るような調子で問う。トバルはすぐに正体を明かすと、彼は息を整えると落ち着いたようであった。トバルは近寄って、秘密とは何かと問うと、アルパラは言葉で答える代わりに懐中から忌々しい仄暗く翠に光る硝子の細い管を取り出した。アルパラ曰くこれは試験管と云う実験に使う器具である。「しかし、その形はな」と説明に後づけた。トバルはそれはどういうことかとすぐさま尋ねると、顔を俯かせて僅かな間黙ったあと、声を震わせながら答えてくれた。
「こ、これはな、極秘研究室から頂戴したのさ。しぃ知ってるだろ? 蕩けた磔柱を研究してるってこと。それでえら、得られたもので、この中にある、白に近い蛍光色の斑点が渦巻く、渦巻いた液体は呑むと、凄い効果があるってハナシだ」
 トバルは、効果とは? と復問うと、落ち着けよと言って試験管を掴まないほうの手を前に出した。
「これは聞いただけなんだけど……どうやら死なずそして老いぬ身体になるそうだ!」
 アルパラは思わずしてか声を大きすると間も無く肩をはね、同じくしてトバルも心臓が大きく打ってひやりとさせられた。お互いに背いて、耳を澄ませたが、近くに人の気配は無いことに安堵した。秘密なのに、ましてや声が響く夜に声を大きくして、邏卒に気取られでもしたらどうするんだ、とトバルは低い声で咎めた。しかし、彼にとっては密か事とは背徳が楽しいものであり、日常にはない妙な高揚を得てしまって、意図せず口端を歪めている。
 で、それをどうするのか、と半ば予測していることを聞いた。答うに、僕らで呑もう、と。この距離で聞き違う訳もなく──ましてや、アルパラはよく通る低い声をもち舌の滑りもとても良く、歌や詩を唱えさせれば聞き惚れてしまったと多くの人に言わせるのだ──トバルは口を右手で押さえ、片手を腹に当てて腰を折り曲げて、くつくつくつくつとした。さて、アルパラ、彼は非常に誠実な人間であった。しかし、その人柄からは思いがけないこんな行いが殊におかしかったのもあって、彼は大いに、しかし静かに努めようと耐え笑っていた。笑い止む為にはなかなかの労力を必要とした。そして、止めて──しかし、偶に口が歪んでしまう──、意外な本性だと、告げた。アルパラはよく言われると答えて、「さて、どうする。君が一号か、僕が一号か」と言ったが、冷静によく考えると、この事が露呈したあとのことが怖くなってしまった。暗匿士団の信条のもとに抹消されるのでは、と。その思いが突然押し黙ったことでアルパラに見透されたのだろう、「もしや、今更逃げるわけではないよな」と恐ろしい雰囲気を口調にも伴えた。闇から覗く目は殺気すら纏ってぎらついていた。
 ならするんじゃないよ、という口答えは無しに、人の本質のようなものに気圧されたトバルは頷いてしまった。その時、彼は短い間だが考えた。
 今アルパラを気絶させて試験管を取り返し、上位連中に、アルパラが盗ったと付けて渡そう。彼は過去の戦において片足を失ったと聞いた。ならば壊して、頭を打つか、頭を先にか。しかし、自身が疑われないだろうか。罪は全て彼に向くだろうか。いや、俺らの信条は教団にとって悪いものを消して、関する情報を隠してしまうのだから、これも仕事の一環か。
──やってやろう。
 決意して、なら俺が先にと人当たりの良い──と評判の──笑い顔で言いきった。アルパラも安心したように、卑しい笑みで試験管を掴んだ手を差し出してきたから、これを受け取ろうと触れた。瞬間であった。試験管はトバルの指先がちょんと触れると、そこから形を緩やかに崩れると、蛞蝓めいた触手に変わって、煙のように細かく軽くなって、指先から手首に渡ってまとわりつかれた。煙の癖にぬめりのある湿った感触が異常に厭らしく、すると、乾いたように消えてしまった。次の瞬間に手が吸い込んだとも思えた。その頃の彼の顔は不快感と驚きが同居して、目を見開いてよくわからない顔になっていた。目前のアルパラの表情は自分と同じ顔であるだろうと思った。ゆっくり顔をあげると、互いの当惑した視線が交錯した。だが、トバルの決意は方向は変わらずも捩じれて、真偽交えて自らに良いように告白すれば良い! と身も蓋も無くなった。
 捩じれた決意を固めて勇気とし、左手をアルパラの右腕の内側から手を滑るように搦めて肩に置いて、腕を曲げ、身体を前に少し倒した。すると、アルパラの腕の向きが限界極まって、上体、頭をトバルの右半身の方に傾き倒れたから、トバルは抗われる前に前腕を首の根元へ槌の如く振り下ろされると、肉質的なくぐもった重い音が鳴って、繰る人が居ない人形のように頭から地に崩れた。確かな感触が腕に残っていた。
納得がいかなかったのでを一話を書き直しました。終わりが中途半端えすが眠かったのでどうか許してください、第二部分を投稿するときに書き足しますから!
あと名前以外のカタカナを使わないというを妙なこだわりも捨て。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ