氷炎のラン
「なんだよ……これ……」
楽兎の口から言葉がこぼれる……。
「ふせろ」
「おわっ」
ガサッと草むらの音を鳴らしながらランに頭をわしづかみされて強制的に伏せる状況になる。
「おい。なんだよ、いきなり」
「あのまま立ってたら気づかれるだろう?」
「だけどよ……」
前の村の見ながら不服そうな顔をしているとランが何だ? と言うような顔をしてきた。
「お前、いいのかよ。あんな楽しそうに話していた村だぞ? 冷静でいられんのか? 俺は絶対にむ……」
言葉がそれ以上は続かなかった。
なぜなら、ランが楽兎の頭を掴む手が震えており、目が鋭くなっていくランを楽兎は背筋か凍るような感覚を覚えていた。
「わ、わりぃ。……今のは聞かなかったことにしてくれ……」
「すまない……。私も取り乱してしまった……」
頭を掴んでいた手を離すラン。
「今、何か聞こえなかったか?」
すると、楽兎たちの隠れている草むらの前に二人の同じ鎧を着た兵士が立ち止まった。
「ただの悲鳴だろ? 気にするなよ」
「いや、それが草むらから聞こえたんだよなぁ」
「草むらから? それじゃあ確認してみるか? いないと思うけどなぁ」
二人の兵士の内、陽気そうな兵士がケラケラと笑いながら近づいてくる。そんなこと言ったら楽兎も結構陽気なのだが……。……今は関係ないな。
「マズイ……。このままだとバレるぞ? ラ……ン?」
ランに問いかけても聞こえていないようで、楽兎は不思議に思い、ランに振り向いてもブツブツと何かを言っているようで何の反応もなかった。
「我は求める。悪を打ち砕く、聖なる氷槍……」
すると髪に光が灯り、その光は手に集う。アニメとかでよく見る魔法陣が手の内に作り上げた。
一体何を? と思う暇は無かった。
「これ!?」「魔力が流れてるってことは!?」
それに気づいた兵士たちは即座に武器を引き抜く――が。
「〈アイスランス〉!」
完全に抜く前に二人に向かった氷槍が回避もままならず、深々と兵士の胸を貫いた。
二人は抜いた態勢のまま貫かれている氷槍を見て、氷槍が飛んできた方を見ると血が抜けていき、力が抜けていくように倒れて行った。
「お、お前……。何も殺すことは……」
「殺らねば殺られるだけだ。ラクトはどれだけ甘い世界から来たのだ?」
甘いと言われて少しムッとなり、言い返そうとも、その前にランに腕を掴まれ、その場を強制的に動かされる。倒れた兵士を横目で見るが、完全に死んだと思われる。楽兎は心中に複雑な思いを残して言いたいことも言えず、その場を強制的に離されたのだ。
離れる速度も速かったが、今度は腕を手で引かれているので何とか追っていけた。息切れしないのかと言われると、さすがに走りっぱなしはきついとしか言いようがない。
そこまで息切れはしていないが。
「ここらで良いだろう」
急停止。
「のわぁっ」
もちろんそれに俺は急には止まれず――ゴンッ。
顔面から木に突っ込んだ。
「い、てぇ……。おいコラッ。人を連れ回しといて急停止、挙句の果てには手を離すってどういうことだ! こっちはいつ止まるかもわかんねぇから全力で走ってたんだぞ!?」
「む。それはすまなかった」
楽兎は鼻を押さえながらランの謝罪を聞いた。普通、顔面から突っ込んだら悶絶してしばらく動けないだろうが、そこは楽兎だ。痛みはなんとか引かせた。
「しかし、私はこれでも驚いているのだぞ?」
「何にだよ……」
「私は風の魔法〈スピード〉を使って本気で走ったのに、腕を引っ張っていたとはいえ、ラクトは十分私に追いついていたのだから」
なるほど、魔法ってファンタスティックな物を使っていたのか。息切れがしない訳だ。楽兎が本気で追っても追いつけない訳だ。
全く、ファンタスティックは便利だな。そんなファンタスティックな物、楽兎は使えないと言うのに。
「まぁいい。ラクトの身体能力などどうでもいい」
「おい! 少しは褒めてくれよ」
話題を上げるぐらいならばそれぐらいはしてくれても良いだろうと思うが、ランは変わらず無視だった。
「はぁ」とため息をつくと、近くの木に背中を預けて座る。
「それで? どうするんだ?」
「うむ。そうだな……。私だけではさすがに勝てそうにない。一度王都へ行き、このことをルビー様に知らせに行く」
「ルビー様?」
確かこの国の名前もルビーって名前だよな……。とすると……。
「考えている通りだ。ルビー様と言うのはこの国の女王、エンス=ルビー=ランバトル様だ」
「えぇ!? 女王!? 女王ってあれだよな!? この国の一番偉い人! ってかこの国の一番偉い人って女の人だったのか!?」
「そ、そうだが……。その前に王とかって予想できなかったのか……?」
「い、いや……。ルビーって名前だと……」
それ以外に何があると思ったんだ?
「あ、ああ……。そうか……。ラクトはバカなのか? これくらいわかると思ったんだが……」
こめかみを押さえながら唸るラン。最後の方が聞こえなかった。
「まぁいい。早くここを離れよう。ここまで追ってこられたら」
「何だと言うのかな?」
「「!?」」
いきなりの訪問者。
すると木の影からずらずらと兵士たちが出てくる。それはもうかなりの数だ。
その中でも指揮をしていた人。長い槍を持った黒い鎧の大男が前に歩み出てくる。
「き、貴様ら……。追ってきていたのか……」
「君の失態は二つある」
大男は二本の指を突き立てる。「まず一つ」と言って一本に減らす。
「魔法を使って兵士を殺し、そして魔法を使ってその場を立ち去った。魔力のカスをたどって追ってこれないとでも思ったか?」
「貴様……魔力を辿れるのか……」
「二つ目。言わなくてもわかるな?」
「ここに長居し過ぎたか……」
「そういうことだ。【氷炎】のラン殿?」
氷炎のラン? そう思って楽兎はランの顔を見る。
「ラクト、私の後ろにいろ。すぐに退路を確保する。安心しろ、これでもこの国では強い部類だ」
「お、おぉ……」
強いと言う言葉を信じてもいいのだろうかと思うが、楽兎はたまたま覚えていた『多勢に無勢』と言う言葉を覚えていた。
不安以上のなにものでもなくなってきたな……こりゃ……。
「【氷炎】のラン殿の名は我が国にまで響いているぞ。その強さ、氷炎を是非見せてもらいたい。この【黒槍】のギンにな」
「黒槍……だと? 貴様……ターコイズの者か!?」
「さぁ、殺れ!! お前ら!!」
「「「おぅ!!」」」
「我が前に立った事を後悔させてくれる! 【氷炎】の名に懸けて、村の無念を晴らす!」
俺……最後まで生きてんのかな……?
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