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LOGOS EX MACHINA
作:高橋和絵



潮崎二郎a


 全国のテレビに岸防衛大臣の会見が写し出される。
無数のカメラフラッシュに覆い被され、その表情こそは読みとれないが、
ただ、ひたすら、誰かに謝っているように見えた。
ソレが誰に謝っているのかは、勿論俺の知り得るところではなかったが……。
会見が終わり、会場から退席する際に、一人の男が大臣に近寄り、耳打ちする。
ソレを聞いた瞬間大臣は目を見開き、そして


顔を覆い、泣き崩れた。


このゲーム、何としても叩き潰さねばならない。
何としてもだ。




 『お二人とも、ご苦労様でした。岸大臣、それに三木さん』
会見を終え、傷心を隠せぬままに二人は帰ってきた。
三木さんも、警察を代表しての会見に出席していた。
自分の息子がゲームに参加したことを全国民に示し、そして謝罪した、その後今回の事件を解決をもって集結させると約束し、解決を持って辞職するとした。
警察官としての立場を持ちながらの息子さんの行動は、彼の目にはどのように映っているのだろうな。
 『現在、身元が確認できているのは……伸照君、そして……スイマセン、留美子さんのお二人だけです』
娘の名前を聞き、大臣の身体が傾く。
少しの話題を触れるにも、俺は慎重に棘をハラわねばならない。
 『それで犯人の……目星は?』
 『久米……』
 『久米?』
 『ええ、まぁ、チョト、好きな名前じゃないんですけどね……アドレスを解析した所、東京電子技術大学元教授の久米豊氏のモノであることが判明しました。そして、同教授は一年前から失踪しています。ですが……アドレス本文にkumeの文字があったコトから教授が日常的に使っていた物が使用されたという線が強く……まぁ、主犯の可能性は低いですね、憶測の域は出ませんが。現状では協力者か、あるいは強制的に技術協力を、とか、そういう線が強いです』


犯人を捜す、警察のするべきはそれだが、本当にソレで参加者達は助かるのか、
前代未聞、そうとしか言いようのない今回の事件に誰も彼もが焦り、苛立っている。
対処法の前例が無いんだ、ソレも仕方がない。
この件には、国連からもサイバーテロのスペシャリストとやらが技術提供をしてくれることとなっている。
言ってみれば次世代のPKOみたいなモノだそうだ。
とは言うものの、先進技術を駆る彼らでさえ、今回の件は相当の規模だそうで、どちらにしても状況の不利は動きそうにはない。
まぁ、まず気を配るのは目の前の問題か……。
 『息子さん、伸照君の件、了承していただけるんですよね?』 
 『……え? …………あ、ああ……大丈夫だ』
息子と聞くと、どうにも歯切れの悪い三木さん。
額に手を当て、うなだれ、ため息を吐き、そしてまたうなだれる。
見ているだけで痛々しいが、今の俺に彼を立ち直らせる言葉などあるはずもない。
 『辛いのは、分かりますが、ええ』
 『分かって……分かっている、息子の尻拭いぐらいは父親がしないとな……』






 対策本部は抗議や、質問、その他もろもろの電話でパンク状態だった。
FAXも止まることなく動き続け、用紙を吐き出し続ける。
ノイローゼになりそうな状態だったが、この山の一角に解決の糸口があるのではと思うと、
どれ1つとして投げるわけにはいかなかった。
 『三木伸照、到着しましたッ!』
伸照君の件、ソレは彼のニューロンネットワークを媒介に、ゲーム内の彼との会話ができないか、と言うこと。
UNの方々の提案だったが、三木さんはすんなりとは首を縦に振れなかった。
息子の身体を使うと言われれば、まぁ、当たり前だとは思う。
どのみち結果的には、立場的か、人格的か、半ば強引に押し切られる形となり、
先ほどまでも言葉を濁す、そう言った現在である。
伸照君は回線を維持したまま、つまりはPCに繋がれたまま運び込まれた。
心拍、呼吸共に正常、駆け寄った三木さんは、とりあえずの安堵をみせているように思える。
先日学校へ出掛けてから今まで、一度も出会っていないわけだからな、
意識こそ無いものの、生きているだけで今の彼にはどれだけ喜ばしいだろうか。

そして彼の傍らには、何処の誰だろうか、見知らぬ長身の女性がいた。
 『彼女は?』
 『例の、国連の』
 『あ、あー成る程ね、直接来てくれたんだ』
女性はすらっとしたスタイルに、長いブロンドの髪、細長の眼鏡からは聡明な印象を受けた。
その上で比較的ガッシリとした作りの制服が、妙にアンバランスな印象を与えている。
 『えとHello……?』
 『あ、いえ、お気になさらず、日本語はダイジョブですよ』
 『あ、そですか。スイマセン英語はサボってたんでどうも苦手で、あーと潮崎、二郎です。宜しく』
 『ジュリエッタ=ジャクソンです。ヨロシクお願いしますね』
そう言った彼女は名刺を取り出し、俺は笑顔で取り繕う。
握手を求めた手はすらりと細長く、ソレだけで手先の器用さを連想させるほどだった。
日本語の方も、多少のイントネーションはあるモノの、ほぼ完璧に近く、
才色兼備と言えるほどの、完成された印象を見せた。  
 『それで、イキナリで申し訳ないのですが……本題のー伸照君のアクセスの方ですが』
 『あ、ええ、順調ですよ。あと30分もあればつながると思います。それで、ソレまでの時間、少しお話ししておきたいことがあるのですが、えー、ココのボス?』
 『あ、いえ、それは私じゃなくて……ボスは、あっち、いえ、あの、ではなくて、いやその隣の、ああ、はい、その人です。……えとー、ボスに、ご用件?』
  
 『ああ、いえ、ボスにアナタをお借りしに……』
  
  



 誰も彼も、そしてどこもかしこも騒がしく動き続けていた署内では、
思いの外静かな部屋が見つからず。
いきなり話のコシを折られたような気がした。
ようやく見つけた個室に腰を落ち着け、話とやらは始まった。
 『マズですが、えっと、久米教授については?』
 『それは……はい、こちらでもある程度はたどり着いています』
 『ですか、では、こちらの人物についてはどうでしょうか?』
そういって彼女は、2枚の写真を取り出す。
それぞれに一人ずつ、女性が写った写真だ。
一人は黒髪、顔は日本系だが真っ白な肌がその中で異質さを放っている。
もう一人は、ブロンドの外人、ショートヘアがよく似合っていた。
 『こちらは……?』
 『白瀬響子クレンペラー、彼女は学生当時久米ゼミの生徒の一人でした』
 『久米ゼミの?』
 『ええ、優等生でしたよ、いろんな意味でね』
そこには学生時代からの繋がりを感じる。
それこそ、事態はメールにもあったとおり、相当の昔から準備されていたコトなのかも知れない。
 『で、ぁーそれで、こっちの写真は?』
 『それは……私です』
そう言われ、もう一度写真と彼女とを見比べた、確かに艶やかなブロンドや、大まかな顔の作りは一致しているように思える。
だが、整形でもしてるのか、言われずに気づくには少々難しいかも知れない。
見えて姉妹と言うところだ。
 『順を追って説明します。まず……私が今回この件に派遣されたのが、その写真の当時、私も白瀬さんが在学していた久米ゼミの生徒だった、と言うことによります。その後私は国連の方に、彼女、白瀬さんは久米研究所に残りました。最近のことはともかくとしても研究内容、関係するスタッフその他……少なくとも相手の内情に一番詳しいのは私だと、そう言うコトです』
 『ソレで、その結果が、このクレンペラーが怪しいと?』
 『ええ、彼女とは卒業後も文通を続けていたのすが、一年前からソレも途絶え……こういう形で再び彼女を捜すことになるとは思いませんでしたけどね』
 『成る程、久米失踪と同時期……か。まぁ確かに怪しくはありますね』
決定的な証拠こそ無いモノの、これほどの事件を引き起こせる人物はそう多くはない、
ネットの海という広大なフィールドでの犯人探し、当初は絶望的かと思われていたが、
予想は良い意味で裏切られ、ピースは順調に集まっていく。
だけど、だけどだ、どうにもしっくりとこない。
順調であるに越したことはない、が、しかし、ソレが逆に違和感すら産んでいるよう、
ピースが自分から集まってくるような、そんな奇妙な感覚が頭から離れないのだ。
コレは、本当にこれだけの事件なのだろうか、本当はもっと、何か違う、他の何かが……。
  
 『……で、それで、何で俺なんです?時間まではまだ結構あると思いますし、こういった話は三木さんに直接話した方が……』
 『ですね、確かにそうです、ではそろそろ“本題”に移りますか?』
 『本題?今までのではなく?』
 『そうです、まぁ、今の話も話さなければならなかったのですが、とりあえずはクッションとお考え下さい』
 『はぁ……』
 『潮崎さん、私実は、アナタに1つお聞きしたいことがあるんですよ』
 『私、に、ですか?』
 『そうです、あなた、アナタもしかして……』





 『本当は、久米、と言う名前に心当たりがあるんじゃないですか?』




俺は、身体を内側から鷲掴みにされる気がした。
いきなり……何を言い出すんだこの女は。
不意を打たれる質問に、冷静を崩され、呼吸を締め付けるような圧迫感が身体を離れようとしない。

 『質問の、意図が、読めませんが……ソレと今回の事件に何か関係が?』

態度を崩すな、いつもの、いつもの俺であれ。

 『質問の、返答が、なされていませんよ?』

 『……あの事件に、関係しているんですか?』

 『どの、事件ですか?』
 
 『ふざけないで下さい』

 『ふざけて何ていないですよ、どの事件ですか?』

 『……8年前の、大海ヶ丘小学校占拠事件……』

 『その事件の、何を知っていますか?』
 
 『その、その件の唯一の被害者の名が……久米だ』

 脳裏に、どうしてもコビリついて消えない1つの記憶。
もう、とうの昔に終わったと思っていた1つの記憶。
俺の警官人生、唯一にして最大の汚点が、今回の事件とつながっている……?

 『あって、あったとしても何だって言うんだ?久米なんて、ありきたりな苗字じゃないか、たまたま同じだっただけだろう……!?』

 『ごもっともです。まだ、何処まで関係しているのかは分かりません、ですケド、この二つの件、間違いなく何処までかは関係しています』

 『久米豊に……』
   
 『はい?』 
  
 『久米豊に子供は?』

 『いますよ、正確にはいました』

 『名前は?』

 『もう、分かってるんじゃないですか?』

 『名前はッ!?』

 『……名前は久米、武陽』
  




 『8年前の小学校占拠事件で、凶弾に倒れた唯一の犠牲者です』





 『そして……潮崎二郎さん、アナタは彼の最後を目撃した、唯一の目撃者ですよね?』





 『単刀直入に言います』


  


 『潮崎さん、アナタがこのままこの件にかかわり続けるのは危険です』

  







 『このままでは、あなたも、死ぬかも知れませんよ?』 







会話が途切れ、部屋はしんと静まり返る。

空気すらもが彼女の言葉に聞き入っていたようで、

ごうんごうんと、鳴り響く空調の音だけが強調されて耳に届く。

そして彼女は、意味深な、不敵にすら見える笑みを俺に投げかける。

馬鹿げたことに、あまりにも馬鹿げたことに、

この女は俺が死ぬかも知れないと、そういった。











 30分後予定通り、伸照君へのアクセスが実行された。
表面上は何事もなかったかのように。
作業にはジュリエッタと他スタッフを含め、俺、三木さん、そして岸大臣が同席した。
基本問題は無いと思われるが、ソレでもモシモのコトは何時だって起こり得る、と彼女は繰り返し念を押していた。
ヘッドギアに繋がれた無数のコードが、伸照君の頭へとつながり、
それが、ゲームへの、そして彼への扉をこじ開けてくれるか否か、
正直のところ、俺には何一つ解りそうもなかった。





 『これより、三木伸照のニューロンネットワークへのアクセスを開始します』
ジュリエッタは細く深呼吸をし、周囲の空気の反応を待った。



 『それでは、皆さんご協力をお願いします』















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