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LOGOS EX MACHINA
作:高橋和絵



潮崎二郎b



『ネットゲーム殺人についての最新の報告会をコレより行います』

三木さんが中心となり、調査が進められる今回の事件。
ゲームの参加者の捜索、久米豊、白瀬響子クレンペラー両名の捜索。
多くの人員を投入し、連日に渡り続けられるそれは、思いの外進展していないのが現状であり、
俺と三木さん、その他の事件に関わる刑事達が、それぞれの苛立ちと焦り、そしてそれ以上の疲れを漂わせて署の一室に集まっていた。

 『まず、参加者と思われる人物のうち、現在身元が判明しているモノについて報告します』

 『以下発見された順番となります。三木伸照、小川町高校の一室にて発見、ジュリエッタさんの協力によって会話が可能な状態でしたが、現在音信不通となっています』

 『岸留美子、都内のネットカフェにて発見、既に死亡が確認されています』

 『目黒優平、本人の他、家族も行方が解らないとの連絡があり調査したところ、彼を除いた一家3名の刺殺体と共に発見、状況から推測するに恐らくは彼による犯行かと思われます』

 『沢木英治、PCの接続状態から恐らくはゲームに参加していたと思われますが、ネットワークコネクタの外れた状態で倒れているところを家族が発見、死亡が確認されています』

『片岡まき、神崎優衣、両名とも片岡まきの自宅にて家族が発見、生存が確認されています』

 『佐藤紀光、会社への通勤が無いところを我々が捜索したところ発見、遺書も共に見つかっていますが、現状では生存が確認されています。また彼の娘である優佳ちゃんもゲームに参加していることから、一種の無理心中かと思われます』

 『上田栄生、同じく会社への通勤が確認されていないところを自宅で発見、現状で生存。ちなみに佐藤紀光とは同じ職場であることが確認されています』

 『東間京太郎、自営業で数日間店が閉められていると言う連絡があり、調査したところ発見、同じく遺書が見つかっていますが、また同じく生存中です』

 『また、直接的な関連性は不明ですが、都内在住の井口小百合さん、綾瀬規子さんの両名が、それぞれ数日前から帰宅していないと、アパートの管理人と、芸能事務所のスタッフからそれぞれ連絡が来ています。両名は失踪の同日に都内の居酒屋で会っていたとの連絡もあり、その後行方が解っていないと思われます』 

と、そこまで聞いてそれを纏めるように、俺は軽く相づちをうつ。

 『まぁ、現状で確かなのは8人か……まぁ、定員まで参加していない可能性も十分あるが』

 『はい、今後は捜索範囲を関東全域から全国規模へ広め、広く情報収集を行う予定です。……ですが固定されたデスクトップからならともかくノートPCでの接続や、体内インプラントによる無線接続が成されていた場合は、発見は難航すると思われます』

 『……解りました。それで、久米豊と、白瀬響子の方は……?』

 『はい、こちらも両名とも捜索を続けていますが、残念なことにソレに関係する情報はほぼ0に等しいです』 

 『随分と上手く隠れた、か、コレも捜索は都内限定で?』

 『いえ、関東周辺を重点的に全国的に協力を呼びかけています』

 『ですか……これはまた……』

難儀なことだ。 
周囲の刑事からも落胆の声が漏れていた。
事件に関係すること、その全てが曖昧で現実味のないこの件に、
誰もが暖簾に手押し、手応えの無さを嘆いていた。

 『すいません、少し失礼します』

 『どうしました?』

 『いえ、現場から呼び出しで、ちょっと出てきますよ』

モチロン、ウソだったのだが。
俺は携帯に出る素振りを見せつつ、会議室の重い空気を飛び出した。
 

先ほどの伸照君との最後の交信、いろいろと不気味な情報がチラホラしていた。
とりあえず俺は屋上で、煙草に火を付け空を眺める。
高いビルが周囲にはないせいか、街が随分と広く眺められ、ソレはまたその全てが人の営みであり、人のいる証であり、俺達が守らねばならないモノらしい。
ようやくのコトで若手から抜け出し、何となく部下からは慕われる不良刑事のような俺だが、
少しずつ、そう言うコトも実感を持てるような気がした。
気がしたんだがな。
喜ぶべきコトなのだが、素直に喜べない俺がいた。

 『不良刑事さんは、会議サボって屋上で一服ですか』

後ろからの声、振り返った先には数日前から連絡の付かない女性がいた。

 『ジュリエッタさん……どこ行ってたんですか?』

 『あ、いえ、少し本部に呼ばれまして、数日間署を開けて申し訳ありません』

 『ですか……まぁ、俺は別にいいんですけどね、良いんですケド……この状況で消えられると色々とね、消えてる人が多い事件ナンで、連絡ぐらいは入れてもらえると嬉しいですね』

 『連絡、入れてませんでしたっけ?』

 『ええ? まさか、入れたつもりでしてなかったなんて……』

 『いや……ちょっと、そうかもしれませんね……』

 『はぁ……ですか…………まぁ、こちらも色々と有りましたよ?』

 『進展が?』

 『ええ、とびきりビックな』

 『それは、良い方で、悪い方で……?』

 『どちらとも、言い難いですね、少なくとも私には』

そう言って俺は腕を組み直し、煙草の火を消して彼女へと向き直った。
この日差しの下でも色白な彼女の顔には、不安と期待が入り混じったような、
一種怪訝な表情が浮かび上がっている。

『と言うと……?』

 『久米武陽が生きています』
 
 『……』
 
 『そして、彼は今三木君達と共に行動しています』

 『武陽君が……伸照君達と……?』

 『はい、後、もう一つですね、あなたには悪い知らせかも知れませんね』

 『というと?』

 『三木君がゲーム内でジュリエッタ=ジャクソンと名乗る人物と遭遇したそうです』

 『えっ…………?』

その瞬間、彼女の顔が青ざめた。
合ってから長い付き合いではないが、彼女もこういう顔をするのかと、
そう思うほどに、ソレは焦りと、そして根底からの恐怖を滲ませている。

 『今、下でも議題に上がっているはずです、どういうコトでしょうかね?』

 『ちょっと、ちょっと待って下さい……』

 『単純な同姓同名でしょうか?』

 『待って下さい……』

 『……』

 『恐らくは、その女性が……女性ですよね? 白瀬響子クレンペラーだと思います』

そう言う彼女からは、既に先ほどの表情は消えている。
淡々と情報を整理した顔で、そう告げた。

 『ゲーム中に彼女が?』

 『制御側なら、ログアウトも任意で可能でしょう、目的は解りませんが、はい、多分恐らくは、私の情報を知っているのも、外部ではあまりいないと思いますし……』

 『……解りました……あと』

 『ナンでしょうか?』

 『いえ、これは三木君からの報告ではないんですがね、白瀬響子、久米豊の両名を調べている間、有島月読という人物の名前が上がってきたのですが……どういうコトかその時期のゼミ生については写真も資料も、何も残されていないようで、と言うか紛失扱いになってましてね』

 『ええ、確かに、資料については知りませんが……有島さんも当時の研究室のメンバーでした。彼女含めて私たち3人しかゼミにいなかったせいで、久米教授が変な噂を立てられたりとか、良くしていましたよ……』

 『そうですか、いえ、同じゼミ生なのに何故彼女の名前は上げられなかったのかと思いましてね』

 『ああ、そうですよね……彼女は、もういないので』

 『と言いますと?』

 『自殺しました、半年前に。投身自殺だと聞いています』

 『そうですか……スイマセン。……まぁ、こちらとしては言っていただけた方が良かったですがね……』

と言うものの、彼女は返答もせず空を見上げたまま、
惚けたようにつぶやいていた。

 『結婚も決まっていて、幸福の真ん中にいたハズなんですけどね……』

 『ジュリエッタさん……?』

 『あ……れ……ああ、いえ、スイマセン、つい』

そう言う彼女は、軍人と言うよりも普通の20代の女性のようだった。
俺が知るよりも、よっぽど多くの顔を持っていそうなこのジュリエッタという女性。
軍人の顔、学生の顔、若者の顔、女の顔、
どれが本物の顔とか、ニセモノの顔とか、そう言うのではないのだろうが、
今の奴等はワリカシそういうモノを持ち合わせているようで、
まぁ、俺もそうか、
有る程度はソレを使い分けつつ生きているんだろう。
それでもまぁ、だけど、
本当の顔、ソレはいくら覆い隠そうとも、到底隠せるモノではないはずだった。
そうして彼女は20代の女性の顔で話を続けていく。

 『良い子だったんですよ、明るい子でしたし、面倒見も良かったですし』

 『彼女とも、文通か何かを?』

 『いえ、卒業後は、年に一回会うか会わないか、そんなところだったと思います』

 『こんな話で申し訳ないですが、彼女が……今回の件へ関係している可能性は……?』

 『解りませんね、正直の所。もともと3人の中では比較的久米とも関連性の薄い人間だったので、有り得ないとは言い切りませんが、可能性としては、あまり無いかもしれません』

 『そうですか』  

 『イロイロと、敏感な子だったんですよ』

 『と言うと?』

 『社会の流れとか、人の流れとか、時代の流れとか、一番世間とか、世界とか、自分を取り巻く環境に真剣な子だったと思います』

 『成る程ね……そりゃしんどいな……』

 『いや、スイマセンね、こんな話しばかりしてしまって』

 『いぇいぇ、こちらも事件の情報収集ですし、警察だって軍人だって人の子ですから、知り合いが亡くなればいろいろあるでしょう』

 『……ありがとう御座います』

そう言って彼女は頭を下げた。
そう言う彼女を見ながら、こう言ったことを言うのも気が引けるが、
せっかくの機会だと思う、聞けることは聞いておくべきだろう。

 『それでですが……そんな直後に、こんな質問で申し訳ないのですが』

 『はい……?』

 『本当に、ジュリエッタさんは今回の件に、関係していないのでしょうか?』

 『……と言うと?』

 『いえ、容疑者と思われる人物に、名前を名指しされたようなモノですからね、こちらの情報も相手に漏れているか、もしくはあなたに……恨みか何か、そんなモノがある可能性も否定できませんし』

 『ああ、そう、ですね……』

 『思い当たるフシは?』

 『……少し……考えておきます』

 『解りました』

ちょっとばかりサボるつもりが、正直の所仕事を増やす結果となってしまった。
白瀬響子クレンペラー、久米豊のみならず。
その同期、有島月読、そしてジュリエッタ=ジャクソンか。
とりあえずは、二人の経歴など、身元など手を回せるダケの情報には触れておいた方が良いだろう、
こんな事件なんだ、常識の範囲での捜査では、きっと足下をすくわれる。
それこそ、彼女が言うには、俺は命がけの捜査をしているのだから。

 『夏も、そろそろですね』

セミの声もだんだんとか細く心もとないモノになってきて、
ソレはだんだんと、秋の空気を引き込んでいるようだった。

 『随分と……』

 『なんです?』

 『いやぁ、もの悲しそうに言うものだなと』

 『大学は、休みが長いんですよ』

 『ああ、成る程』

 『皆とも、いろいろあったんですけどね、今はもう、こんなにバラバラですよ』

と言って、彼女はクッと背伸びをした。
まだ仄かにその暖かさを残す夏の風が、さっと彼女の髪をすくい。
通り抜けていった。

 『さぁ、そろそろ仕事に戻りますか、あんまり屋上で話していてもバレちゃうでしょうしね』

 『ごもっともです』

と、そこで、俺の携帯が振動した。

 『あ、失礼…………ああ、俺だ…………ぇ、あ、ああ、解った……すぐに行く』

 『どうしたんです?』

 『サボってたら、本当に現場からお呼びがかかっちゃいましたよ』

 『と言うと?』

 『都内の河川敷から死体が上がりました』

 『……』

 『黒髪、顔の特徴から、恐らくは、白瀬響子クレンペラーかと思われます』

















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