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LOGOS EX MACHINA
作:高橋和絵



三木伸照h


 




 『ま、まてっ……!?』

剣を振り上げた男は言われたとおりにその剣を止めた。

 『なに……?』

 『止めろって……』

 『なんでですか?』

 『それは……こっちが死ぬだろ』

 『そういう、ゲームじゃないですか』

 『また、その科白かよ』

『すいません……』

男は少しうなだれた感じで、力無く剣を置いた。
拍子抜けというか、何だか良く分からない感じだが、
明確な敵意があるようには見えない。
興が削がれた、でもないが、とりあえずはこれ以上は襲っては来ないようだ。

 『なんだ、ダイジョブか?』

 『はぁ……』

 『カンベンしてくれよ……ホントにさ』

 『すいません……』

 『あーお前も、あれだろ、なんかちょっと、浮かれちゃった感じで参加しちゃった感じだろ?』

 『……いや』

 『学校は? てか高校生だろ? 地域とかは? てかコレって全国ワイドなのか?』

 『……』

 『良く分かんないヤツだな……』

 『いぇ……学校には』

 『ああ、中退か……まぁ、最近は多いしそんな気にするなよ』

 『いぇ、そう言うわけでじゃ……』

 『じゃあなんだよ、ったく、煮え切らないな』

 『スイマセン……』

男はどうにも所在なげで、何処かおぼつかない、幼げな印象があった。
矛盾された言いつけをされた子供のように、何をしたらいいのか解らないように。
タダぽつんと取り残された、そんな感じだった。

 『小梅……立てるか?』

 『……うん、一応は、大丈夫みたい』
 
 『そうか、よかったな』

 『……』

投げかけた言葉は皮肉のつもりでもあった、それは、小梅への皮肉でもあるし、また、自分へのソレでもあった。

『で、さあ……』

 『……ちょっ、ちょっとまってよ!』

 『なに?』

 『なんですか?』

 『なんで、そんな奴とにこやかに世間話してるの? おかしいじゃない!?』

 『なんでとか言われてもなぁ、正直俺も何が起こってるかさっぱりだからさ、もうどうすればいいとか、何やったらいいかとか、全然解らないし』

 『だって、目の前で、人、殺してるのに……』

 『五月蠅いな……じゃなかったら俺ら死んでるじゃないか、生き残ったンだから、もう、いいじゃん』

 『だからって……』

良いワケ無いんだけどな、今の俺には、ソレをどうだこうだと判断する力とか、
そういうモノは残されていなかった。
と言うか、考えるとか、判断だとか、煩わしくなってきた。

 『じゃあなんだよ、小梅が助けてくれるのかよ? 小梅がどうするか決めるのか? 正直もう全然解んないんだよ、自分のいる状況も、自分がどうなっているのかも、考えることも何も多すぎてさ!』

 『ちょっと、落ち着いてよ……』

 『落ち着けるかよ、そもそもナンでお前はまだ生きてンだよ!? ソレだけ怪我してるのにさ、ナンでピンピンしてンだよ?』

 『私だって解らないよ! ほら、みんな解ってないから! 落ち着こうよ!?』

 『くそ、そもそもなんだ!? ナンのためにこんなコトするんだよ!? 意味ねぇじゃんじゃん!? こんなコトのためにこんな凄いモン作ったってのかよ!』

そう、なんかもう、自棄だった。
情報が有り余り、自分の置かれている状況どころか、自分のことすらも解らない。
だけどさ、そんなの、ゲームの中じゃなくたって、毎日そうだった気がする。
考えることが多すぎて、余裕が無くて、
何かに追われて、それでいて追いかけて、
全てが過多していた。
そう言うときは、俺は何時も、寝て、ソイツが過ぎ去るのを待ったり。
サボったり、なーなーと過ごしたり、結局は解決するまで考えたことナンて、そう多くはなかったように思えた。
だから、俺が導き出した答えも、
当然の結果だったのかも知れない。

 『もう、さ、俺もうヤメるわ』

 『な、何を?』

 『このゲーム』

 『は……それって』

 『別に良いジャンよ、殺さなくたって、殺されなくたって、ホラ、もう、俺関係ないわ、無関係』

 『そんなこと……』

 『デキルよ、デキルさ、どうせこのゲームやってるのなんて、お前みたいな死にたがりか、ソイツみたいにロクに会話もできないヤツばっかりだろ?』

 『……』

 『お前らとは違うんだよ……だから、出来るんだよ』

ショウジキなところ、俺がそいつらとどれだけ違っていたかなんて、まったく解ったことではないのだけれど、
生とか、死とか、殺すとか、殺されるとか、罪とか、なんとか、考えることはもう疲れた。

思考停止。

ソレが行き着いた答えだった。
何とかなるさ、とも言う。
この異常な状態に、自分から答えは求めようとはせず、
タダ過ぎ去るのを待ち、終わるのを待つ。
もしゲームが終わらなければ、俺達は一生この中で、そして罪に裁かれることもないだろう、ダイジョブだ。
父がナンと言おうと、なーなーと聞いていればいい。
ダイジョブじゃないか。
もし運が悪く、誰かに殺されるようなことがあっても、
ソレはもう、あれこれ考えずにすむし、メンドクサイ全てから開放される、
何も問題はない、ダイジョウブだろ?
情報が多すぎ、そしてまた、その中はあまりにも無知すぎる自分。
ソレをもう、ドウコウしようとは考えず。
俺はもう、選択することをヤメ、余りある情報の波の中を、タダたゆたい、泳ぐことをやめた。

 『何ならさ、この世界で暮らしたっていいよ』

 『さっきから……フザけないでよ?』

 『本気だよ、何ならさ、お前達もどうだよ? 一緒にこのサイバーな世界で第二の人生とかさ』

 『バカ……』

モチロン、半分は冗談だった。
だけど、残りの半分は本気だった。
何だかんだでココにいる敵、
生きていく上での敵は、他のプレイヤーだけ。
明確で、分かりやすい敵がいるだけ。
後は何もない、日々の苦しみも、悩みも、何もナイ。
心地よい、優しい世界。
辺りを気にし、大人ぶる必要もナイ。
テストも、受験も、就職も、仕事もナイ。
人と人とのすれ違いも、悲しみもナイ。
それこそ、現実に溢れるうざったいあれこれなんて、
これっぽっちも何処にもないのだから。

 『それ、良いと思います』

と、男が後押しした。

 『ウッソッ!?』

 『本当です』 

 『いやいやいや……』

 『僕ももう、嫌なんですよ、ヤメたいんです』

 『なら……』

 『ヤメたいんです……』

現実からのログアウト。
もう誰も、俺達に関わることがないように。
見ざる言わざる聞かざるで過ごす。
ここに、俺達の新しい世界を……。

 『お前、名前は?』

 『……久米、武陽』

 『よし、武陽な、お前、剣かせ』

 『え……?』

 『剣だよ、剣、それ』

 『……あ、はい』

 『ん、これで、武器はナシだ、殺し合いも、ナシだ』

 『はぁ……』

 『で、じゃ、みんなでやめようぜ、このゲーム』

 『やめる……って……ちょっと!? 私は!?』

 『お前も、まだ死にたいのか? まだ殺し合いごっこにつき合うの?』

 『まだ……』

 『迷うなよ』

 『迷ってないッ!』

 『なら』

 『そう言う、単純な話じゃないじゃない?』

 『死にたいなら単純もムズカシいもないだろ?』

 『…………わ、解ったよ……少しぐらいつき合う、だから、終わったら、ちゃんと……』

 『殺してやるよ、この世界でも生きられナイようならな』

 『……』

 『また後で、何があったかのか教えてくれよ……』

 『……?』

 『ナンで死のうとするのか、教えてくれ』

 『…………うん』

小梅は少しずつ、普通の女の子に戻っているんじゃないか?
いや、そもそも小梅ははじめっから普通の女の子なんじゃないか?
つい、そんな気がしてしまう。
女の子に、一緒に暮らさないかなんて、ショウジキ、正気の沙汰ではないが。
なんかまぁ、別にブサイクでもないし、
なんだろうか、少し、また、ワクワクしていたなんて。
不謹慎というか、意志が弱いというか、同じような所をループしているような気がしてならなかった。
でもまぁ、それで良いか。

 『お前も、いいか?』

武陽は、何処か寂しそうに、草むらへと視線を投げかけていた。
そして、何かを決心するかのように、口をキッとキツく噛みしめ、
ソレはまた、何かをこらえているようでもあり、
苦しそうに、また、罪に怯えているようでもあった。

 『……ダイジョブか?』

 『え…………あ、ハイ』

 『誰かいたか……?』

 『い、いえ、別に……』

 『……?』

 『大丈夫です』 

 『そうか……?』

 『やっぱり、一人より、三人の方が楽しいですよね……』

 『単純にな』

良く解らないまま、俺達の新生活は始まろうとしていた。
優柔不断で、意志が弱く、それでいて自分を大きく見せることに必死だった俺。
死にたがりで、言い訳がましく、自己本位な小梅。
判断力が弱く、自己を隠し、そしてまた他者を求める武陽。
バカな現代人三人による、ゲームの意図を無視したこの試みは、
当然のコトながら、長く続くことなんて、無いとは思う。
本来の筋道からそれたこんな生活は、きっと、いずれ、潰されてしまう、
それは、相手がどんなヤツであろうと関係なく用意された筋道なのだろう、
そんなことは解っている。
だけどまぁ、もう俺は考えるのを止めた。
ソレはやっぱり、それが一番楽だったからだと思う。
知って痛いより、知らなくて痛くない方がいい。
やっぱりその方が、楽なんだと思う。
とても簡単なこと、ナンで気付かなかったのかと言うほどに簡単なこと、
だけどまぁ、人間、そう簡単には変わらないようだ。


小梅の過去。
正直なところ、興味を持ったのは下心からでもあり。
何だかんだで優しくしておけば、何時かなびいてくれるんじゃないかと、
冴えない男なりに色々と画策していた。
確かに一種の哀れみや、誰が、そして何が彼女をあそこまで追いやったのか、
イッサイの関心を持たなかったと言えばウソだと思うが。
まぁ結局の所彼女は、今時なんら珍しくもない、引きこもりの女学生であり。
路傍の石のような、そんな人生ストーリー。
万に一つ、億に一つと言うほどの、そんな悲しい人生では、決してなかったと思う。
傷つきやすいか、繊細か、そして彼女は死にたくなった。
もしかしたら呆れてしまうほどに、やっぱり彼女は普通だった。
普通の、哀れな女学生だった。
他人の人生なんて、ソレこそもう、星の数ほどに溢れた、大量生産されるモノだと思っていた。
1つ1つにドラマチックな展開なんて用意されてなどおらず、
誰もが、同じようなことで傷つき、痛みを背負っている。
そういうモノだと思っていた。
そんなは当たり前のこと、だけど、俺は、それでも結局、
そんな痛みを大切にしたかったのだと思う。












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