LOGOS EX MACHINA(12/18)縦書き表示RDF


LOGOS EX MACHINA
作:高橋和絵



井口小百合a


 ナンとまさか、こんな所で私の人生が終わってしまうなんて、
そんなことは、これっぽっちも思っていなかったワケでして。
残してきてしまったコドモたちに、
最後まで、ちゃんと見て上げられなくてゴメンネって、
謝ってあげたい。
中途半端な大人でゴメンナサイって、
謝ってあげたかった。


 『ここでいいかな?』
私は、久々のひまーな休日に、久々な友人と約束し、久々の楽しい時間を過ごしていた。
辺りも暗くなってきて、すっかりいい大人になった女同士、大人なトークで飲もうじゃないか、と、暗がりの街を散策している。
 『い……そべ屋?』
 『そそ、なかなか悪くないよ』
 『なら、決定』
 『うぃす』
はきはきとした店員の声に迎えられ、私たちは御座敷へと案内された。
こぢんまりとしたお店だけれど、雰囲気は悪くないと思っている。
たしか、そう、新任の時の飲み会も、ココでやったのだった。
 『がー、つかれたね』
 『あはは、疲れた』
 『どんぐらい歩いた? 万歩計でも付けてれば良かったね』
 『ほんと、そろそろ健康にー、とかかね』
 『嫌な話だ』
 『ほんと、若くないかもなー』
なんて言いつつ、とりあえずビール、とか言う年になってしまった。     
おう、私の青春とかは今どこへ。
 『綾瀬、今仕事はどう、忙しいんでしょ、あれー、テレビも見たよ』
 『やや、どうもです、てかナンかハズイなー、アレを見られてるって』
 『んふふ、まぁ、そう言う商売じゃないの、私だって驚いたよ。アイドルなるー、何て言ってたあなたが、気がついたらお笑い芸人になってテレビに出てるんだモン』
 『まぁ、なんですか、挫折と復活を繰り返しながらの人生だったよ、とりあえずはお茶の間のアイドルには慣れたカモ、みたいな』
 『まるでもう終わりみたいな言いぐさね』
 『いや、もう終わるかも、仕事も、最近無くなってきたし』
 『かー……』
 『んへへ、あたしゃトークも上手くないしねぇ、一発芸のひょっと出だから、寧ろ半年もテレビ出ていたことが不思議かも』
 『あなたらしくない弱気なお言葉』
 『んー、いろいろと弱ってしまったかもしれん』
 『まぁ、みんなそんなもんかね』
 『そうだねぇ……』
 『ん、どしたの?』
 『あ、あん、ん、あのさ……』
 『おう?』
 『いや、まぁ、何でもないや、それよりあんたはー? 教師として、ちゃんとコドモ見れてんの?』
 『あー、まぁ……ぼちぼち?』
 『ぼちぼちー?あーあー、あんたの教え子かわいそー』
 『失礼な、コレでも人気の美人教師だぞ?』
 『へいへい』
 『う゛ー……』
そんなこんなで、ぐいとビールをあおった。
喉を流れる感覚が、身体を潤すようで、それでいてまた、ほんのりと火照っている。
いつからかナー、ビールが美味しく感じるようになったのは。
新任の頃はまだ、あんまり飲めなかった気がするのに、
今はもう、すっかり命の水になってしまった。
いろんな事が変わって、いろんな物がなくなって、私はすっかりオバハンの入り口の立ってしまった。
 『んー』
 『だいじょぶ?』
 『んー』
 『あん、ごめん、んー、まだ引きずってた……?』
 『何を?』
 『あー、あー、いや、ゴメン、言うんじゃなかったかな。いや、教え子可哀想……とかさ、アンタも昔いろいろあったから』
 『あー、んー』
 『いや、ゴメン』 
 『いやいや、まぁ、別に良いけどさ、事件だって8年も前の話だし、今更なんだって、コトなんだけどね』
 『んーそか、もう8年になるのか…………大海ヶ丘だったよね』
 『うん、あれさー』
 『なに?』
 『その大海ヶ丘の話なんだけど、今度さ、また、大海ヶ丘の方に、行かなきゃ行けないんだって』
 『転勤?』
 『まぁ、一種そうみたい』
 『大丈夫……?』
 『微妙、かな』
 『ん、まぁ、ムリするなよ、ヤだったらヤめちまえ教師なんて』
 『うん、そうする』
 『そうしな、そうしな、8年も苦しんだんだから、今止めても誰も何も言えないよ』
 『かな』
 『だよ、だよ』
 『かなー』
 『おう』
 『んー、あのさー、話が少し変わるんだけどさ?』
 『ん?』
 『今見てる子に、成富君て、いるんだけどさ』
 『うん』
 『その子がさ……ナンか、似てるんだよね』
 『誰に?』
 

 『武陽君』
 

 『武陽君って、大海ヶ丘の……?』
 『んー、あの時、私のクラスで受け持ってたんだけどね、大人びてるって言うか、超然としてるって言うか、年相応でないって言うか、そんな感じなんだよね、どう育てればあーゆー風になるのかな、とか』
 『まぁ、考えるな、考えるな、あんまり、良くないって』
 『別に、そう言う意味じゃないよ?』
 『どういう意味でもだよ、タダでさえあそこに戻るんだから、ヘタに関連付けて引っ張らない方が良いって、あんたそう言うところは無駄に真面目だから、無意識に結構追い込んでるでしょ?』
 『んへへ、ありがと』
 『なにが?』
 『あたしまだ、真面目だよね?』
 『何をー……ったく、今日はまた随酔ってるな……』
 『うん、ゴメン……』
 『いいケド、帰りは気をつけなよ? ナンなら家までついてこうか?』
 『ぁぁ、ううん、いい、大丈夫だから』
 『そぅ?』
 『だーいじょーぶ、何ならもっちょっとだけ飲も?』
 『ンなコト言って……ホントにダイジョブかぁ?』
 『うん、ダイジョブ』
 『ムリすんなよー』
 『りょかーい、アイツの分も飲んでやる』
 『…………』
 『……ん?』
 『あー……んー、井口』
 『え…………ゴメン、えと、ぁー、今度はあたしが失敬……?』
 『え、あ、いや……いいよ、こっちも、一応もう半年も前だしね』
 『ゴメン、お互い変なモン掘り起こしてバッかだなぁ。うん、そか、もう半年か、ナンか』
 『あっと言う間?』
 『うんうん』
 『飛び降り……だったよねぇ、たしか、アイツの母さんから聞いたんだけどさ、婚約も決まってたってさ』
 『んふ、なんでかな、いったい、昔から勿体ないコトするヤツだったよね』
 『そうそう……』
 『ちょっと、ってさ』
 『……んー?』
 『ちょっと前の事だったのに、ってよく言うけどさ、ホントなってみないと解らないモンだね』
 『ん、だね、確かに、そうかも』
 『ちょっと前まで一緒にいたはずなのにねぇ、たった半年が、もう半年か』
 『たった半年で、過去の人、かぁ』
 『あのさ、なんかさー』
 『なに?』
 『イキナリだけどさ、あたし、人間ってさ、もっと生きるモンだと思ってた』
 『ヤダよ、なにソレ、怖いって』
 『ゴメン、でもさ、だけど、さ、まだ爺様婆様になったワケでもないのに、大切な友人が既に一人消えてしまったワケで、あたしの中ではまだ、アイツとお肌の調子とか、ウザい上司のグチとか、そーゆーこと語りながら、こーやってお酒飲んでる姿が用意に想像できるワケで、そう思うと、なんかホントに有島は死んじまったのかって、実感が無いというか、現実味が無いというか、んー、言いたいことがあんまり纏まらないけどさ』
 『まぁ、ん、解るよ』
 『うん、だから、あたしは、まだ有島と飲みたかったんだって、うん』
 『だね、やっぱり飲むか、アイツの分も』
 『それが良いかも』
 『では』 
 『うん、アイツに乾杯』
そう言って、私たちのグラスは宙で交わる。
カランという氷の音は、何処か寂しげで、何処か儚げ。
オレンジがかった照明に、グラスの凹凸が綺麗に反射し、
ソレはまるで、小さな虹のようだった。
本当に、弱々しい、小さな虹。
お酒でうつろな私の目には、それは空のソレよりも、美しく輝いていたのかも知れない。
 


 綾瀬と別れ、一人家を目指す私。
終電をギリギリで捕まえ、ゴトンゴトンとゆられ、ふと気がつけばもう家の近くまで来ていた。
火照りきった身体には真夏の夜の風もほんのり涼しく感じ、
お酒に底上げされた愉快な気持ちに、心なしか足取りも軽かった。
だけど、ソレはどうしても消えない妙な感覚、
ソイツは、駅を出た瞬間から付きまとっている。
 『……見られてる?』
嫌だな、ストーカーだろうか。
決して姿は見せないモノの、こちらを見つめる、いや睨み付けるほどの視線が、
私の身体に絡みついてくる。
そうなると、自然と足取りは速くなり、
夜空に足音をカッカッとならしながら、私は家への距離を縮めようと必死になった。
歩きが、駆け足に、そしてソレが全力となっても、
その視線はふりほどくことが出来ず、ぴったりと寄り添うようにくっついてきた。
タダタダ、背伸びしすぎたハイヒールが恨めしかった。

アパートまでたどり着いた頃には、酔いも何処かへ置いてきてしまったようで、
先ほどよりも冴えた頭は、少しばかり私を落ち着かせてくれた。
もうすぐ、もうすぐで家に帰れる、
思いだけがどんどんと高ぶり、上る階段は天よりも高い気がする。
ガカンガンガンガンガンカンガンカンカンガンガン。
ヒールが階段を叩き、金属質の無骨な音を響かせる。
だけど、やだ……。
カカンガンカンカンカンカンカンガンカンガンガン。
その音は、1つだけではない。
やだ、近い、凄く近い。
前のめりに倒れそうになりながらも、
必死に足を前に出し、走った。
追いつかれたら、どうなってしまうのか、
それは、今の私には解りようもなかった。
そして、私の、部屋。
入れば、流石に追っては来ないだろう。
思わずノブにしがみつき、回すのだけど、
がちゃ、がちゃ、と、鍵にひっかかり、ソレは開くことはない。
カカンガンカンガンガンカンカンガンカンガンガン。
 『やだ、鍵ぃぃっ!』
がちゃがちゃ、がちゃがちゃ。
夏なのに、首筋に流れる風が恐ろしく冷たい。
姿の見えぬソイツを怖れ、後ろを向くことははばかられていた。
カンカンカン。
ソイツは来ている、もうソコまで来ている。
必死に理性を振り絞り取り出した鍵は、どうしても鍵穴には刺さらなかった。
なんだろうか、こう、背中が重たい。
もしかしたら、もう後ろにいるのかも知れないと、そう思った瞬間、
私の首筋が熱くなり、そして、ソコで私の意識は途切れてしまった。





 気がついた私。
辺りは草が茂り、それは見たことのない風景。
身体を起こそうと思うのだけど、ナンというか意識が身体から切り放されたみたいに、
まったく動こうとはしなかった。
私、どうなっちゃったんだろうか……。
不安、不安、不安。
心の中はソレばかりが支配し、
視界に入る綺麗な空が余計に私を心細くさせる気がした。
辺りに響くのは、草のこすれ合音色、鳥の声、そして、微かなノイズが耳にこびりつく。
なに……ナンだろうか?
それは外からではなく、どちらかというと身体の中から響いてくるようにも聞こえた。
おおよそ自然の音ではない、機械的なノイズ、
そしてソレはわずかに人の声を纏っていた。
 《聞…え、ま………かー?》
それは、機械で変えられたような錆び付いた声、男性か女性か、ソレすらも判断することはデキソウにない。
 《聞……てま…か? 聞……てますか?》
 
 『な、なに、誰!?』
 
 《あ、聞……てます? 聞…え……ら、何か…イン…送……くれる…、ありが…いんで…が》
 
 『何、解らないからっ、誰だって、誰!』

 《ん、まぁ、その調子…ら聞……てます…ね、っと、え…ハイ、ゲー…の参加、アリガトウ御座…ま…ねー》
 
 『なに、ちょっと待ってって言ってるでしょ、意味が分からないって言ってるの!』
 
 《別に、そっ…に分か……もらう必要は……ですから、私た…は、私……の、やることを…………ですか…》

 『ココは何処よ、あなたは何処にいるの!? 何か答えなさいよ!』

 《あーは…はい、解り…したよ、ソ…はゲーム…中です、で、私はゲー……外にいます、他に何…質問は?》

 『ナニソレ?巫山戯ないでよっ』

 《別に、巫山戯て…んか…マセンよ、ニュースとか見……いん…すか?》

 『そんなの知らないっ、仮に、ソレが本当だとして、あたしにナンの関係があるのよ!』

 《あり…すよー、あな…はゲームのコマに…なって…らいます…ら。とり…えず、見かけ…人…片っ端から殺し…ください、それが、あな…の存在意義で…》
 
 『なに、殺……?』
 
 《あ、ま…別に、こっちで調整してい…んで、何も……くてもかってに身体は動いてくれ…すよ、あなたは見…るだけ…良いです》

 『なによそれ……』

 《だから、メンド…サイな、えっと、あな…はもうタダのゲーム…プログラムです。だから、もう人じゃな…んですよ、タダの、ゲーム…、構成パーツです》

 『そんな…………』

 《あー、で、ついで…言って…まえば、現実のあなた…もう死んでますよ》

 『え……?』

 《あなたのプログラム…書き換え…際に、イロイロとめんどくさ…んで切り放しちゃい…した。えと一種脳死みたい…感じです。あー、死体の方…ちゃんと処分しておきま…んでご心配なく》

 『巫山戯ないでよ……何かってに言ってるの……』

 《巫山戯てナンかー、イマセン…って、私たちは、このために長年準備してきたんですから、お望みなら、ほら、分かりやすく、躰で、教えて上げますから》

そう言った瞬間、私の身体が力も入れずに持ち上がった。
そしてソレは私の意思をまったく受けつけることなく、独りでに動き続ける。

 《えへぇ、なかなか面白…ですよー?思い通りに動きま…ねー》

 『うそ……』

 《まぁ、信じる信じないは勝手…すし、そもそ…あなたが何を考え…うと、私たちにはこれっぽっちも関係ないので…けどね、まぁ、勿論あなたの全て…私たちの自由ですから、あなたに反抗する手段なん…ありっこナイのですケド》

 『いや……』

 《ああ、ちょーど良いと…ろに、プレイヤー、一人そっちに近づいてま…よ》

頭の中の声が言い終わるよりも早く、私の目の前にそして、金髪の少女が現れてしまった。

 《ちょうど良いの…、テストと行き…しょうか、ほら、ちゃっちゃ…縊り殺しちゃってくださいよ、せ・ん・せ》

そうして、私の身体がゆっくりと彼女へと向かっていった。
そんなウツロな私の姿に、多少不思議そうな顔をする彼女、何も知らず、何も気づかずに、ゆっくりと私の方に近づいて来てしまう。

『逃げて』と、私が叫ぶのとほぼ同時に、

恐怖に歪む暇すら与えず、彼女の顔が、大きく凹んだ。


いくら叫ぼうとも、私の身体はもう止まることはない。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう