ゆく年くる年、こたつむり(乙女ゲームの世界にドラゴンとして転生したけど 番外編)
「は~……ぬっくい~……」
こたつでごろごろは至福だね。わざわざこのためだけにこたつを作っただけある。みかんをむきむき、ぱくり。おいしい。テレビがあれば完璧だけど、あいにくまだこの世界にはない。さすがの私でも作れないわ家電なんて。
窓からは光が射す。まきストーブの温かさも受ける。幸せ幸せ極楽極楽。いや! これも大切な仕事だからね! ルノの小屋の暖房器具がちゃんと動いてるか確認するのは親の務めだから。ごろごろするのもお仕事だから! ……はぁ気持ちいい。
「あったかいね~……沸騰しちゃう」
「ヒャエカはほどほどにね……」
すぐ横で同じくこたつむりになっている水の妖精、ヒャエカ。リ○ちゃん人形ほどの大きさしかないはずなのにメ○ちゃんくらいない? 気持ち膨張してないかな? いや、気のせいだろう。気のせいだよね!?
私は考えるのをやめた。ヒャエカのあくびにつられて私もあくびする。
「沸騰したら沸騰したでお紅茶いれたげるね~」
「ありがとう~でものぼせないでね~」
お互いだらけきっている。恐るべし、こたつ。幸せだね。
うとうと。ちょっぴり熱くなってきて腰までこたつから這い出た。ひじで長髪を踏んでしまいぐえっと言いつつ。
「ルノ坊はどうしたのぉ? 朝から慌ててどっか行ったみたいだけど~」
「学院のお友達とお買い物行くんだってさ」
「おでぇと?」
「だと安心するんだけどねぇ。残念ながらお友達とですな」
「そっかあ。だからウルが今日は珍しく」
「そうそう。たまに変身しないと忘れちゃう」
私自身の掌を灯りにすかす。真っ赤に流れるなんとやら。手をにぎにぎ。普段はない自分の髪に触れる。そういや髪の長さってどう決まってるんだろ。ショートにしたいんだけど。
念じる。……駄目だった。まあいいや。
というわけで、約一年ぶりくらいに人間姿にチェンジ中であります。普段はドラゴンの姿ばっかりだからね。たまに変身しないと人間に化けれなくなるんだよね。尻尾でたり角でたりしちゃう。なにより、ドラゴンのままだとこたつに入れない。こたつはおろかそもそもこの小屋に入れないわ。2メートルちょっとあるし。170そこそこの人間姿になっとかないと小屋ぶっ壊しかねない。
なおゲームの中では、ウルティケイアって人間姿で登場するんだよね。初めは通りすがりを装ってヒロインに接触して、喜々としておねいさん(もとい人型ウルティケイア)の話をヒロインがしてルノルクスを絶望させるという。ドラゴン姿が見られるのはハッピーエンド(という名のメリバエンド)だけだったはず。
私も『ウルティケイア』だけど、別世界から転生してきた私という命がこのドラゴンの体にいる以上、あの世界線のウルティケイアとは違う存在。私は息子ことルノルクスの教育上滅多に人間姿にならないと決めたから、普段からドラゴンで生活中である。
ただし、この時期を除いて。こたつ最高。
「はぁ……ルノ帰って来る前に変身解かなきゃな。そろそろ帰ってくるでしょ」
「このままでもよくなぁい?」
「よくない。私の身が危ない。人間姿になれるんだから結婚できるよね? とかまた言われるやばい詰む」
「あー……」
遠い目をするヒャエカ。うん、わかってくれるな?
「精霊となら、まあ神事的な意味になるけど結婚できるわけだしヒャエカ、どう? 息子もらってくれない?」
「ウルも精霊っちゃ精霊だから状況は一緒よ? えー? わたしも自分で選びたいんだけどなーあー。もちろんルノ坊のことは好きだけどね? でも家族だからぁ」
「私としては学院で見繕ってほしいんだけどね! 男の子ばっかりと仲良くしてるみたいだからおかん心配!」
「心配だったらウルティが嫁に来てよ」
「あ」
「あ」
やばいぞウルティ。本能がそう告げる。
開け放たれた扉から飛び込んできたテナーボイス。油さしてないロボットみたいにぐぎぎと振り返れば、とってもさわやかな笑顔の少年が立っておられました。
逃げられない。この柔らかくもひとを射るような視線と、こたつからは。
「……おかえり。ハヤカッタネ」
「はい、朝市のお土産。チョコレートもあるよ」
「ありがとう」
ちらっとヒャエカを見る。目を逸らされた。ねぇ見捨てないでよちょっと!
「ウルの人間姿久々だね」
「うん。こたつに入りたくてね。じゃっ、お邪魔しました」
「いつも人間姿でいれば入り放題なのに」
「いやいや。ドラゴンとしての矜持がですね」
「いっそ嫁に来ればいいのに」
豪華絢爛できわどい衣装のおねいさまたちが踊り出す。もちろん脳内で。サンバのスイッチオン。
……やっ。現実逃避している場合じゃない。
「お願い、お願いだからそれは諦めて!! 社会その他うんぬんで無理だからぁぁ!!」
モテ期がこんなところで来てどうする!! しかも相手は子供時分から知ってる人の子だぞ!! 自分のためにもならないぞ分かってるかルノ!!
ルノを押しのけドラゴンに戻りつつ原っぱを駆ける。翼が戻ったところで勢いよく空へと飛び出した。
お互い頭が冷えたころに戻ってきます。探さないでください。
「晩にと思ってウルティの好きなローストポーク買ってきたよ」
「分かった」
訂正。夕方には戻ります。