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婚約破棄から始まるけれど、どこまでもやさしい世界 作者:倉永さな
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*二十八* “ざまぁ”ってなんですか

     ◆   ◆

 危機は去ったので、わたしたちは城に帰ることになったのだけれど、ここで母さんがずいっとラーウスさまの前へと身を乗り出した。

「ラーウス王子。一つ、お願いというか、提案があるんです」
「提案?」

 ラーウスさまは訝しげな表情で、母さんを見た。母さんは白い髪をゆらゆらさせながら、口を開いた。

「うちのかわいいルベルを振った、オース家のカニス青年を見てみたいと思いませんか?」

 母さん、なんてことを!
 ラーウスさまもその一言に、表情を輝かせた。

「それはいい提案です。ルベルを振ってくださったおかげで、私が結婚できたのですから。お礼を言いに行かなくては」

 うわぁ、ラーウスさま、性格悪いですよ、それ!

「もちろん、案内をしてくださるのですよね?」

 とラーウスさまはにっこり。それに対して、母さんも赤い瞳を細めて、にっこり。

「もちろんでございますとも」

 なに、これ。
 二人とも、性格悪いと思いますよ!

 父さんと兄さんは、小屋でお留守番となった。
 ご機嫌なラーウスさまに手を取られて、母さんを先頭に、わたしたちはオース家に行くことになった。
 いつもの母さんはおっとりしているのに、今日はなんだかいつもと違って見えた。身体が弱いんだから、無理していなければいいんだけど。
 というわたしの心配をよそに、母さんはずいぶんとご機嫌だった。

「でも、わが家としても、カニス青年と婚約破棄になって良かったと思っていますのよ」
「ほう?」
「ルベルが幼い頃、ルベルの将来を心配したわたしの父が勝手に決めたことですのよ」
「そうだったのですね」
「ルベルは幼い頃からお転婆で、このままでは行き遅れてしまうと父が余計な心配をしましてね」
「お転婆……」

 母さん、なんてことをラーウスさまに言うのよ!

「ルベルは素敵ですよ。活動的で、キラキラしていて、そしてなにより、やさしい」
「そう褒めてくださるのは、ラーウス王子だけですよ」
「そんなことはないですよ。私の兄も、ルベルのことを褒めていました」

 ラーウスさまが今言っているお兄さまって、第二王子かしら? あの方が人を褒めるなんてあるのっ?

「おまえには、ルベルくらいのじゃじゃ馬がちょうどよい、と」

 ラーウスさま、それ、褒めてない! 褒めてないです!
 ラーウスさまの言葉に、母さんとルークスさまが同時に笑い出した。
 やっぱりそこ、笑うところですよね……。

「ラーウス、それ、褒めてないぞ」
「いや、褒めているぞ。口を開けば罵詈雑言しか飛び出さない次兄にしては、褒め言葉だと思わないか?」
「そうかもしれないが……」

 ルークスさまは涙が出るほど笑っていた。そんなに笑わなくても……。

「ふふふ、面白いですわね」

 母さんもくすくすと肩を震わせて笑っていた。
 もう。

 そうこうしていると、町の入口にたどり着いた。
 一見したところ、特に壊れているようにもなくて、ホッとした。
 久しぶりの町は、夜のせいで、静まり返っていて、ちょっと淋しい。
 静かな町をわたしたちは黙って歩き、町の中心にある一際大きなお屋敷の前にたどり着いた。

「オース家に到着いたしましたわ」

 記憶の中のオース家と変わりのない、大きなお屋敷。
 やはりこれを見ると、町はずれのわが家が侯爵家だなんて思えない。
 母さんは躊躇することなく、扉についている呼び鈴を押した。
 なにも考えないで来たけれど、夜に、しかも、なんの連絡もなく来るのって、非常識じゃない?
 と思っていたけれど、それほど待つことなく、扉が開き、記憶の中よりもずいぶんと歳を取ったオース家の当主が姿を現した。

「お待ちしておりました」
「いいえ。突然の訪問、失礼いたします」

 そのやりとりで、母さんが昼間にオース家に連絡を入れていたことが分かった。

「立ち話もなんですので、中へ」
「なんたって、今はピウスさまのお時間。すぐに戻りますので、こちらで失礼いたします」

 長話をする気はないと知り、ホッとした。

「カニス青年は?」
「こちらにおります」

 と、オース家当主の後ろから、茶色い髪の一人の青年が現れた。
 幼いとき、一度だけ会ったことのある、カニス。あの頃は金髪で、かわいらしい姿をしていたような気がしたけれど、今は、目つきが悪く、しかも顔色もよくなくて、素行が良くない生活をしているのが顔に表れていた。

「この度、ルベルが結婚しましたから、報告に来ましたの」
「あぁ、その節は、大変、申し訳なく……」
「いいえぇ。おかげさまで、いいご縁に恵まれまして、結婚をいたしましたのよ」

 その一言に、カニスは目を見開き、わたしを見た。
 カニスがなにか言葉を口にしようとしたとき、家の中の扉が開いて、綺麗な女性が出てきた。その人は、大きなお腹を抱えていた。見覚えのある顔だけど、すぐにだれだか思い出せない。

「あら、だれか来たの?」
「え……あ、あぁ」

 しばらく考えて、出てきた女性がだれだか思い出した。
 そうだ、昔からなにかあるごとにわたしに突っかかってきていた、ドロースだ。
 ドロースの家は、町中で商売をしていて、かなり裕福な家だ。一方のわが家は、町はずれの小さな家で慎ましく暮らしていた。華やかな生活がすべてだと思っているドロースは、わたしの家のことが信じられないようだ。そのことでいつもなにか言ってきていた。対するわたしは、別にあの生活に不満はなかったし、むしろ、楽しかったので、そのことを言われるのが嫌だった。
 もしかしなくても、わたしと婚約を取りやめたのは、ドロースを孕ませてしまったからなの? そんなところだろうとは思っていたけれど、わたしはホッとした。素行が悪いと聞いていたけれど、ドロースのことは見捨てなかったのだ、と。
 しかし、緊迫している空気を読まないドロースは、わたしを見るなり、ゲラゲラと笑い出した。

「あら、やだ。なんでそこの人、耳出して来てるの? 非常識~」

 すっかり忘れていたけれど、わたしの耳と尻尾は出たままだった。このままでは城に戻れない。
 それよりも、ドロースはわたしのことが分からないのだろうか。分かっていてわざとこういう態度なのだろうか。そこが読めなかった。

「しかも、こんな夜に来るなんて、ほんっと、常識がなってないわね!」

 それを言われると、こちらとしては反論の余地もない。
 どうしたものかと思っていると、ラーウスさまがにっこりと笑みを浮かべ、ドロースの前へと立った。
 ラーウスさまの麗しい顔を見て、ドロースは真っ赤になった。

「非常識を承知で、ご挨拶に参りました。ごくつろぎのところ、大変失礼いたしました」
「え、えぇ……あのっ」
「あぁ。挨拶が遅れ、失礼いたしました」

 ラーウスさまは渾身の笑みを浮かべ、口を開いた。

「ラーウス・アーテルと申します」
「っ!」

 オース家の面子は、その一言に固まった。

「一言、挨拶だけでもと思いうかがったのですが、このような時間になりまして、申し訳ございません」

 ラーウスさまは、頭を深く下げた。

「それでは、失礼いたします」

 ラーウスさまはわたしたちだけに見えるように合図を送ってくると、そそくさとオース家から出た。

 わたしたちは町に入った時と同じように無言で出て、足早に小屋へと戻った。
 小屋に入るなり、三人はお腹を抱えて笑い始めた。
 え、笑うところですか?

「あー、おっかしー! あの三人の驚愕した顔!」

 母さんは顔を赤くして、笑っている。
 事情の分からない父さんと兄さんは、きょとんとした顔をして、母さんを見ていた。

「なにをやったんだ……?」

 わたしは先ほどのオース家でのやりとりを、かいつまんで説明をした。途中、ラーウスさまとルークスさまが補足をしてくださった。
 すべてを話した後、父さんと兄さんも笑い始めた。

「ぷっ、オース男爵の驚いた顔、見たかったな!」
「カニス青年の悔しそうな顔も、面白かったわ」
「ドロースも驚いた顔をしていたのか?」
「してたわよ。あの様子だと、ルベルのこと、きちんと認識してないみたいだったけれど!」
「ドロースはルベルのことをいじめていたからなぁ。あいつ、嫌いだ」

 みんな、性格悪いですよ!
 それに、なにが面白いのか、わたしには分かりません!

「オース家から煮え湯を飲まされることをよくされていたから、やり返せてスカッとしてるんだよ」
「これが今、流行りの、ざまぁよ!」

 わたしにとってはよく分からないけれど、父さんたちがすっきりしたのなら、いいってことにしておこう。

「それでは、本当に私たちの用事は終わったね」
「最後のはよく分かりませんでしたけれど、終わったと思います」






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