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婚約破棄から始まるけれど、どこまでもやさしい世界 作者:倉永さな
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*十二* 一緒に行こうか

     ◆   ◆

 ラーウスさまから街へ買い物に行く許可を得たので、街着に着替え、街へと向かった。
 向かう先は、雑貨屋だ。そこで細めの縄と、わたしの身長と同じくらいの長さの木の棒を五本、購入した。
 木の棒はそれほど重たくはないけれど、長いために持って帰るのが大変だった。
 そういえば、ラーウスさまはウィケウスの種を持っているとおっしゃっていたけれど、どれくらいあるのだろうか。それによって、畑の場所を考えなければならない。
 ラーウスさまから管理を任されている薬草園に木の棒を置き、執務室へと向かった。

「ラーウスさま、ただいま戻りました」
「お帰り」

 部屋に戻れば、ラーウスさまはなにか調べ物をしているようで、本を読んでいた。

「ラーウスさま、今、話しかけてもよろしいでしょうか」
「ん、いいよ?」

 ラーウスさまは本から顔をあげて、わたしに視線を向けて来た。

「ウィケウスの種はどれだけあるのでしょうか」
「あぁ、それほど数は多くないんだよ。ほら、これだよ」

 と言って、ラーウスさまは机の上に置かれた小瓶を手に取り、室内灯の明かりに透かすようにして見せてきた。瓶の底にうっすらと貼り付いているほどの量だった。ウィケウスの種は、かなり小さい。これだけあれば充分すぎるくらいだ。

「ありがとうございます。半分ほどあれば充分です」
「全部、使っても問題ないよ?」
「いえ、全部植えるとすると、かなり広い面積が必要になります。そうなると、ちょっと大変なので、半分で充分です」
「そうなんだ」

 わたしはなにも入っていない小瓶を棚から取りだし、ラーウスさまからウィケウスの種の入った小瓶を預かり、半分ほどいただいた。

「ところで、ラーウスさま」
「うん」
「今日は、わたしはなにかお手伝い、ありますか?」
「お願いするとすれば、薬草園の手入れかな」
「はい、かしこまりました」

 街着のままでは畑仕事ができないので、一度、自室に戻って作業がしやすい服に着替えた。ラーウスさまからいただいたウィケウスの種の入った小瓶は落として割らないようにポケットに入れ、つばの広い帽子もしっかりかぶると、薬草園へと向かった。

 ラーウスさまは国の最高位の魔法使いであるが、実は植物学の専門家だったりする。そうか、だからウィケウスの種も持っていたのか、と、今になって納得した。

 まずは、薬草園の植物たちに水やりをする。今は冬なので、植物の種類もそれほど多くはないからかなり楽だ。これから春になるにつれ、種類が増えてくるから、大変になってくる。
 ラーウスさまの元で働くようになってから、わたしもだいぶ、植物に詳しくなったけれど、まだまだ知らないものが多くて、勉強中だ。

 ウィケウスは、日なたよりも、薄暗くて少しじめっとした路地裏のような場所を好む。そういう場所に植えられる植物は少なくて、ちょうどよいところになにも植えてない場所があった。
 わたしはくわを持ち、ウィケウスを植えるあたりを耕した。
 植える場所を耕した後は、五角形の形に幅が広めでかなり深めの溝を掘った。こうしておくと、さすがのウィケウスも根を広げることができなくて、ここより先に繁殖先を広げようとしないのだ。
 五角形の角ごとに先ほど買った木の棒を立てる。これはなにかというと、ウングラ避けの網を張るための支柱だ。網は先ほど街で入手した縄を利用して、わたしが編む。
 今日はこの耕した場所にウィケウスの種を撒き、水やりをして終わりにしよう。網は花が咲くまでに作れば問題ないから少しずつ作っていこう。……といっても、そんなにのんびりはしていられない。
 ウィケウスは、季節に関係なく、種を撒いてから一週間後に花を咲かせるのだ。

「今日はこれでよし、と」

 予定していた作業を終えた頃には、太陽が真上に来ていた。ちょうどお昼だった。
 部屋に戻ると、ラーウスさまとわたしの昼食がすでに用意されていた。

「ルベル、今、呼びに行こうとしていたんだけど、ちょうどよいところに戻ってきたね」
「今日の薬草園での作業は終了です」
「もう種を撒き終えたのかい?」
「はい」
「お昼を食べながら話を聞こうか」
「はい」

 わたしたちは、昼食が用意されたテーブルに向かい、並んで座った。
 ちなみに、ラーウスさまと一緒に昼食を摂るのは、結婚前からだ。本来ならば、わたしが王子であるラーウスさまと一緒のテーブルについて、食事をするなんてとんでもないことなのだけれど、ラーウスさまの強い希望により、お昼はこうして食べることになってしまっていた。さらには、横並びなのも、ラーウスさまの希望によってだ。わたしとしては、見目麗しいお顔を見ながら食事をするのは恥ずかしいので、横並びで助かっていた。

「それで」

 と、ラーウスさまは毒味が終わったスープを飲みながら、わたしに聞いてきた。

「薬草園の様子は?」
「特に変わりなく」

 ラーウスさまも毎日、きちんと自分の目で確認されているというのに、昼食を食べながら、わたしに様子を報告させるのが日課だ。

「ところで、ウィケウスはどこに植えたのかい?」
「はい。ウィケウスは薄暗くてじめっとしたところを好みますので、薬草園の端の、日当たりの悪いところに撒きました」
「へぇ、初めて知ったな」
「そうですね、ウィケウスはどこででも育ちますし、どちらかというと、疎まれている植物ですから、あまり研究がなされていないかもしれません」
「そうだね。駆除の方法は広く知られているけれどね」

 ラーウスさまがおっしゃるとおり、ウィケウスは繁殖力が強い上に、花が咲くと、ウングラに周りまで荒らされるため、見つかり次第、駆除されるものだ。

「それにしても、ルベルがウィケウスに造詣が深かったとは知らなかったよ」
「わたしの家は、ウィケウスの栽培をしていますから」
「えっ、そうだったのかい?」
「はい。町外れにある畑で、ウィケウスを栽培して、町の人たちに売っています」
「それは、昔から?」
「はい。先祖代々、そうやって来たと聞いています」

 と、そこまでラーウスさまに説明をして、ふと口を噤んだ。
 ウィケウスが不作で、わたしの手元に届かないということは、町の人たちも困っているのではないだろうか。
 ウィケウスは成長が早いけれど、一つだけ問題があった。
 故郷でも例外なく、薄暗くてじめっとしたところに植えている。そのせいもあり、ウィケウスの花は水をかなり含んでいて、乾燥させるのに時間がかかるのだ。
 乾燥させるのにも、日当たりのよいところだと香りが飛んでしまうので、専用の小屋を作ってそこで乾燥させるのだけど、風通りをよくしても、日陰ということもあり、なかなか乾かないのだ。種を撒いてから花が咲くまでは一週間だが、収穫してから完全に乾くまでに一ヶ月くらいかかってしまう。

「ルベル?」

 黙ってしまったわたしを、ラーウスさまは心配そうな表情で、のぞきこんできた。
 顔が近いです!

「はっ、はいっ!」
「なにか心配事でも?」
「あ……その……」

 小屋にはもちろん、ウングラが入れないようにしてあるし、乾燥した物には興味がないようだ。
 ただし、採取してきたばかりのウィケウスの取り扱いは、充分に気をつけないといけない。
 ウングラには鼻がない代わりに、目がよいようで、ウィケウスの花を見つければ、一目散に駆けつけてくるのだ。採取して、小屋に運ぶまで、気が抜けない。
 だけど、父と兄はそれを熟知しているから、大丈夫だと思うのだけど……。でも、やはり、なにか引っかかる。

「ラーウスさま」
「うん」
「やっぱり、おかしいんです」
「おかしいとは、なにが?」
「ウィケウスが不作だなんて、考えられません」
「まぁ……そうだね」
「わたし、一度、アウリスに戻りたいです」
「うん、そうだね。キミのご両親にも結婚の報告もしたいし、一緒に行こうか」

 まさかの同行に、わたしは言葉を失った。





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