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少年少女はすぐに怒る 作者:七森吐息

第二章 王様のいる街、白い娘と不愉快な鏡

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9 おはようございます


「皆森弓名が殴った。ひどい、あんまりだ」
「君が悪い。あれはもう立派な言葉の暴力だ」
 涙目でいじけるコハクの頭を撫でながら僕は冷たく言い捨てる。
 あの後、結局ゴシックロリータは脱いだ。慣れないドレスの裾を何度も踏んで転んだからだ。「大事に着たいから」と泣く泣く着替えていた。
 それにしても、
「前から訊きたかったんだけど君のその知識はどこから仕入れてきているんだい?」
「そりゃまあ、エロ本だよね」
「普通に言うな! ていうかそんなのここにあるわけないだろ?」
「それがあるんだよ。持ってきてくれるんだ」
「誰がっ!?」
「死者。まあ、たまになんだけどね」
 そう言って、コハクは死者の行進を指差す。うつろな目の元人間たちを。
 ……悲しくなった。エロ本片手に死んだ奴がいるのか。どんな死に方だよ? 
珍しく僕は同情する。そりゃ同情するよ。そんな人いたらさ。
 にしてもこれで一つ今まで気になっていた謎が解けた。あの絵本も死者からもらったモノだったのか。どんな人だったんだろう? 死に方も。少し興味ある。
「無知は恐い――皆森弓名がよく言ってるじゃないか。だから勉強していたのにさー」
「そういう勉強はよくないよ……。もう、拗ねないで。ああ、そういえばさ」
 僕は訊いてみた。無知でいてはいけないから。
「コハク、あの子は何だい?」
 めずらしくコハクの顔から表情が消える。
「……人間だろう? きみの方がよく知ってるはずだよ」
「君と関係はあるのかってことだよ」
 僕の問いにコハクはしばし沈黙。僕の目を見つめながら、口元だけで笑った。
「ないよ、なんにもね」
 コハクは目を閉じると、独り言のように続ける。
「ぼくらの間には何もない。血の繋がりもなければ、前世の繋がりもなく。生まれ変わりの心配もいらない。ぼくらは間違いなく他人だよ。きみの嫌いな赤の他人だ」
 そう言って優しい表情で微笑むと、コハクは立ちあがって僕に背を向けた。
 その小さな背中を眺めながら僕は考える。
白い髪。そっくりな顔。重なる二人の笑い方。これでも二人は他人なんだろうか……?
「でもさあ、まあ……」
 振り返り、俯き、右目を覆いながらコハクは続きを漏らす。
「あの子には優しくしてあげなよ……お願いだよ」
 僕は立ち上がるとコハクの頭に優しく手を置いて撫でた。
 何もなくても、何か想うところはあるのかもしれない。なら僕がそこに口を挟む筋合もないか…………ん? あの子?
「コハクがフルネームで呼ばないなんてめずらしいね?」
 僕に頭を撫でられながらコハクは答える。視線は地面を向いたままだ。
「あの名前はきみに教えたモノだからね。ぼくにそれを言う権利はないよ」
「君、そんな律儀なやつでもないだろ」
「今回はね。あの子はあの子さ」
 そう言って、コハクは僕の手を退けると、どこか寂しそうに携帯をいじりだす。
 訊かないと決めた僕の口はただ閉じ続けた。



 四回目は……暗くない。ちゃんと電気はついていた。
 身体を起こすと僕はまたソファの上にいた。どうやら運んでくれたらしい。クローゼットの前には赤を拭きとったような跡が残っている。
そして目の前には全裸に毛布でサングラスの女の子が足を組んで座っている。
「おはよう」
 雨は口元を凄惨に歪めると、軽快に笑う。
「くっくっくっ、お前って、そうとうおかしいよなあ。あー楽しみになってきたぜ。くはっ、あー悪い悪い、挨拶は大事だよな。……じゃあ、おはよう、おにーさん」
 朝のあいさつ。でも時間はとっくにお昼を過ぎているんだけどね。
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