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少年少女はすぐに怒る 作者:七森吐息

第二章 王様のいる街、白い娘と不愉快な鏡

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7 ちょっと脳幹を貫いて


 現代の籠の鳥。囚われのお姫様。大切な大切な宝。
 つまりは拉致監禁及び無断外出の禁止。怨子ちゃんの現状はまさにそれだったらしい。
 教会内を出ることを許されず、マリア様だ何だと勝手に崇められ、仕事によるたまにの外出時には最低三人もの頭の狂れたボディーガードが就く始末。
 怨子ちゃんは大層不満だった。
 紹介屋と仕事の話をするたびに募っていく思い。欲しい欲しい欲しい。
 どれだけ金を出しても買うことが出来ないモノ。自由が欲しかった。
 信者にいくらお金を渡そうと怨子ちゃんが外に出られる日は来なかった。
 怨子ちゃんはひどく息苦しかった。
 銀行屋として仕事をしながら自由のない怨子ちゃんは紹介屋に言った。
「私をここから出して下さい」
「いいっスよ」と稲羽は二つ返事で了解したらしい。
 そして二日前。稲羽は波状さんと教会に乗りこみ、彼女を連れ出すことに成功した。
「ただし完全な成功じゃあない。教会から連れ出せたはいいがアイツは私情を挟んで失敗。結果、怨子はこの街から出れずじまいってわけなんだよ」
「あの稲羽が私情で失敗ねえ……?」
 考えられない。物語に深く関与しておきながら、ただただ傍観者で在り続けるあの紹介屋が私情を挟むなんて。……らしくないな。
「よくあることだぜ。アイツの考えはいつだって穴だらけだしな。お前とてがみのことや、今回のことだって……まあ、それはいい」
 んー? 雨の顔が一瞬嬉しそうに見えたのは僕の気のせいなのかな。
「とにかくオレたちの仕事はアイツのヘマの尻拭いってわけだ。ったく、嫌になるよ」
 そう呟くと、雨は鬱陶しそうに頭を掻いた。ははっ、可愛いやつだな、君。
「心配なんだね、稲羽のこと」
「――っはあ!? んなわけねえだろっ!」怒鳴り声。照れ隠しとかいいってー。
僕が口元を手で隠しぷくぷくと笑うと、雨は顔を真っ赤にして唇を噛みしめる。
……稲羽は今、命を狙われているところだろう。
怨子ちゃんを街に降ろして逃げ惑い、わざわざ僕なんかを引っ張ってくるぐらいだ。
 あの人が死ぬとは思わないけど、この物語に関与するのは難しそうだ。
 当てには出来ない。てがみもいないってのに僕が呼ばれた理由が今わかった。
 異常な依頼人に異常な敵。そして多分異常な味方。
確かに僕向きだ。幸か不幸かはわかんないけど。
「事情は大体わかったよ。あと最後にもう一つ。怨子ちゃんを先に見つけたとして僕ら二人でどうやってこの街から出るつもりなんだい?」
「さあ」
「…………」嘘だよね。なんてね、って言うよね? 可愛い嘘なんだよね?
「まあ、考えてねえけど何とかなるって。心配すんな」
「……僕もそうだけど、君も相当呑気な質だね。根拠は?」
 僕が訊くと、雨は後ろの完全に閉ざされた窓に指を差し向けた。余裕溢れる顔つきで。
「明日の天気は雨だからな。そう、雨が降る。な? 安心しただろ?」
 ……意味のわからないことを言う女の子だった。これだから少女は。
「主従雨……それとも篠突く雨かな。繁吹き雨も捨てがたいよなあ……なあー、おにーさんは何が好きなんだー?」
「……にわか雨かな」
「はっ。つまんねーやつ。でもオレは嫌いじゃねえけどな! あー早く降らないかなぁ」 
「…………」
「おいおい、おにーさん。何て目でオレを見てんだよ。やめろ。つーかどっちにしたって今はこの街からは出られねえよ。アイツのせいで警戒網張られちまったし」
 また稲羽の所為ですか……もう慣れましたよ。けっ。
「働くのって面倒だよね……」
「おにーさん、まだ働いてねーじゃん」
「だからだよ。想像しただけで億劫だよ」
「なら気分転換に外でも行って来たらどうだ? 怨子探しも焦ることはないしな。ほら、服なら貸してやるからさ」
 愉快げに笑いながら雨は壁際のクローゼットを指差す。
 開いてみると、中にはいかにも女の子女の子な服が詰め込まれていた。
「うわあ……」
「何だよ、その反応? 気に入らなかったか?」
 毛布をずるずると引き摺りながら僕の隣にやって来る。それからもう一度、二人で中を覗き込むと雨は何故か「うへぇ」と洩らした。
「雨。悪いけど僕、女物は……」
「ならその格好で外に出んのか?」
 僕は自分の今の服装を思い出して項垂れる。望んでもいないのに赤くコーディネートされた僕の服。ううっ、かわいそうに。
 それにしてもさー、危ない……よなあ? 僕が着るのは……。
 クローゼットから一つ取り出してみた。繊細な、沢山のレースとフリルで飾られた黒いドレス――――ゴシックロリータだった。
 ……こんなの着れないよ。横目で雨を見遣ると、口を開けて驚いていた。
 いやいや、君の服なんだろ? 
 その僕には一生縁の無さそうなドレスを戻そうと手を伸ばしかけると、ポケットで何かが震える。僕の携帯だ。相手は……僕の携帯の番号からだった。
 無意識に電話に出ると『もしもし』と聞き慣れた声がした。
『皆森…………弓名?』
「コハク……?」
『たすけて…………くれない、かな?』
 ブチッ。電話が切れた。切れてしまった。
 僕は携帯電話を仕舞うと、スタスタとテーブルの方へ移動する。
「雨。悪いけど急用。ちょっと行ってくるね」
「いいけど、どこまで?」
「ちょっと死後の世界まで」
 僕はさっきまで使っていた箸を一本掴むと、それを思いっきり耳の中へ突っ込んだ。
 鼓膜を、脳幹を貫いてグチャグチャと掻き回す。自然と身体が小さく痙攣する。
 痛い。痛いなあ、これ。
「おいおいおいおい、おにーさん!」
 雨の表情が一変するのと同時に僕の意識は闇に消える。………………おやすみなさい。
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