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少年少女はすぐに怒る 作者:七森吐息

第二章 王様のいる街、白い娘と不愉快な鏡

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6 安生怨子の依頼


「おにーさんの仕事は銀行屋の捜索……まあ人探しみたいなもんだ」
「ねえ、銀行屋って何?」
「おいおい、そこからかよ? これだから素人は」
 偉そうに手と足を組み、ついでに鼻で笑われる。……何知ってるの前提で話してんだよ。大体、素人どころか僕は基本一般人だ。裏の世界のことなんて知らないよ。
「銀行屋ってのはこの業界の金貸しみたいなもんだ。……いや、違うな。あいつの場合は金貸しじゃなくて金施しか。まあとにかく金持ちだって思ってくれりゃあいい。言っとくけど、デブでもなければハゲでもねえからな」
 思ってない。それは雨の金持ちに対する偏見じゃないか。
「その人の名前は?」
「安生怨子。いい名前してるよなあ」
 ……いいのかな? 僕ならそんな名前を付けた両親と口なんて利きたくないけど。
「まあいいや。それでその人は今どこにいるんだい?」
「さあ」
「…………」
僕のジト目に雨は「やれやれ」と両手を解いては首を振った。
「冗談だよ。そんな顔するなって。この街のどこかにはいるはずだぜ」
「どこか、ね……。ねえ、ここって夜夜中じゃあないよね?」
「ああ。ここは神奈良。宗教都市だ」
「ふーん。ここって夜夜中から遠いの?」
「ああ。まず県からして違う……って何帰る心配してんだよ? おにーさんの注目する所はそこじゃねえだろ!」
「まあ一応ね。ていうか別に気にするほどのことでもないよ。宗教都市なんて探せばいくつだって出てくるんじゃないのかな」
 僕の呑気な態度とは裏腹に雨は小さく溜め息を吐く。それからテーブルの上に足を載せて僕を睨みつけた。偉そうだ。それに行儀も悪い。
注意しようとしたら雨の口が先に動いた。
「銀行屋を探しているのはオレたちだけじゃない。他の奴も狙っているんだ」
 僕は首を傾げる。
「他の奴って?」
「この街のボス。教祖様とその信者」
 僕は顔を引き攣らせながら同じようにテーブルの上に足を載せる。
蹴り落とされた。
「えーと、その人達と僕らの関係は……敵?」
「敵も敵。オレたちは神に逆らう愚か者。どうだい、祈ってみるか?」
 遠慮するよ。僕は神に祈らない。
……宗教都市ってことはそれだけのめり込んでいる人間が多いってことか。
まったく。神様なんて助けてくれないのに。
「雨さんやい、この街の信者の割合は?」
 ちなみに夜夜中では一割にも満たない。仕方ないけどね。神のいない町だから。
「アイツの話だと信仰してんのが五割。その中から盲信してやがるのが二割。さらにそこから狂信者にまで堕ちているのが一割だってさ」
 へえー、意外と……
「大したことないとか思ってんだろ? ちなみに神奈良の人口は五万人だ」
 夜夜中の五倍だった。……てことはつまり、信者が二万五千人。盲信者が五千人。狂信者は五百人…………ははっ、開いた口が塞がりませんなあ。
ぱちぱちぱちー、と棒読みで言ってみる。ていうか何で雨が誇らしげなんだろ? 
「で、ここは一体何が流行っているんだい? 天理? 地理?」
 先に言っておくけど、僕は無宗教だ。目の前のこの子もおそらくそうだろう。
「――私想教。キャッチコピーは【自由気ままに思うまま】だってよ」
 聞いたことがない。おまけにえらくフリーダムな内容だ。
「ここの教祖様が作ったらしい。つーか、そもそもここは宗教都市でも何でもなかったんだ。五年前にその教祖様がやって来て爆発的に流行らせたらしいぜ」
 それこそ病のようにな――そう言って雨は僕の顔を覗き込むと自嘲気味に笑う。
「五年前ねえ……怨子ちゃんはどうして私想教に?」
「怨子は元々そこのシスターなんだよ。そしてあいつも創始者の一人。主な資金の工面は全部怨子がやってんだってよ」
「全部? 怨子ちゃん……怨子さんってどっかの社長とか何かなの?」
「いいや、普通の女の子。歳は十四歳。ちゃんで充分だろ?」
 ……十四歳でそれだけの莫大な金を準備できる人間を普通とは言わない。
 怨子ちゃんもきっと僕と同じ異常な性質なんだろうなあ。
「それで続きは?」
「怨子がアイツに依頼したんだ――――私想教を抜けたいってな」
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