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少年少女はすぐに怒る 作者:七森吐息

第二章 王様のいる街、白い娘と不愉快な鏡

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4 アルビノ少女


 目が覚めると真っ暗な世界……ではなく、真っ暗な部屋にいた。暗っ!?
 何も見えない。一切の光から隔絶されているような空間。静寂と黒。そして闇が肌を舐めるように侵食していく感覚。落ちつかない。見えないというのは実に不安だ。
今更だけど。そんな部屋のソファの上で僕は寝ていた、ていうか死んでいたらしい。
仕方なく目が慣れるまで僕は身体を起こして、静かに耳を澄ませる。すーすーと誰かの吐息が微かに聞こえる。寝息……どうやらこの部屋にはもう一人いるらしい。
 …………段々見えるようになってきた。ここは多分、何かの事務所だ。部屋の広さはおよそ十二畳。床はフローリング仕立てで窓際にはスチール製のいかにも事務っぽい机。開放感の溢れる大きな窓には雨戸にカーテン。日光が入る隙間は一分もない。
 視線を目の前に落とす。僕のお気に入りの服が真っ赤に染まっていた。
紺色のゆったりとしたジーンズ。シンプルなニットのセーター。最近卸したばかりのスニーカー。それら全てが僕の赤に汚されている。べったりと。
……くっそう、この靴、雨の日は履かないぐらい気に入っていたのに。
帽子は……黒いからよくわからない。赤付いてるかなあ? と心配になる。てがみが怒るとは思えないけど、やっぱり大事にしたい。
少し顔を上げると、正面にはガラス製のテーブル。そして向かいにはおそらく僕が座っているのと同じソファ…………ソファ?
どうして今まで気づかなかったんだろう? 吐息の主は目の前にいるのに。
向かいのソファの上には女の子が座っていた。
身体に毛布を巻きつけて小さく丸まって眠っている女の子。
 その子に僕は目を奪われて、息を呑み、目を疑った。ごしごしとまた擦る。
 何度目を擦ろうがその子は消えやしない。ここにいる。
僕の脳裏に浮かび上がるのは、ついさっきまで一緒にいた女の子。
「こ、はく……コハク?」
 僕は携帯を開いて頼りない光を女の子に当てる。
 真っ白な髪。長いふさふさの白いまつ毛。僕のよく知っている可愛らしい寝顔。
 コハクの顔に瓜二つ。ていうか本人?
 僕の手が勝手に伸びる。口も無意識に動こうとしていた。
「どうしてここに?」と訊く前にその子は目を覚ました。咄嗟に手を下げる。
「ふぁああ……よく寝た。三時間くらいか。お前もよく寝てたよなあ。いや死んでたんだっけ? まあ、どっちでもいいや」
「……コハク、じゃない?」
「あー? 誰だよ、それ? オレにそっくりなやつでもいるのか?」
 そう言ってまだ眠たそうに目を擦り、ゆっくりと片方……左目を開く。琥珀色ではない。緋色の、赤のように紅い瞳に僕が映った。
記憶の海から何かが跳ねた。僕はそれを両手で捉まえてまじまじと眺める。思い出す。
……ここは現実。ゲームや漫画の世界じゃない。だから彼女の姿も嘘じゃない現実。
「ま、いいか。とりあえず、飯にしようぜ。献立はお前に任せるからさ。美味しいの作ってくれよ、おにーさん」
 白い女の子は笑う。笑って笑って僕を見据える。
 この子はアルビノ。色のない女の子。そしてコハクによく似た女の子。
 美しい顔を残忍に歪めて、彼女は僕の肩を叩いた。
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