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少年少女はすぐに怒る 作者:七森吐息

第二章 王様のいる街、白い娘と不愉快な鏡

11/59

11 街宮帆村は実は……


「みーちゃんのその服、可愛いね! どこで買ったの~?」
「……これは夜夜中って町のオシャレな服屋さんで。結構高かったんだー」
なんてね、見栄っ張りな嘘です。ていうか僕のじゃないし、僕はこんな服は買わない。
上からストロー素材のハット。フリルの付いたブラウス。パステルカラーを基調としたカーディガンにロングスカート。ローファー。
そうそう、首元にはシンプルなネックレスも付けていたんだっけ。
帆村ちゃんのイメージがロックなら、僕のは完全にガーリーだ。森ガールだ。
……女の子らしい恰好に不安になる。僕は今、母の教えに背いているんだから。
「でも意外だったね。信仰活動ってこんな感じなんだ」
 黒神の中で行われていたものは学校の授業のようなモノだった。
教室のような広い部屋にはたくさんの机。そして教壇の上に立つ先生らしき人の話を真面目に、忠実に耳を傾けている人たち。全員が白い法被を着ている。皺だらけの大人から、まだ字も書けないような子供までいた。
 ――宗教活動ってのはやっぱり……。
「どこか洗脳に似ている?」
 僕の思ったことを先に口に出してくれる帆村ちゃん。
「君は信仰心が薄そうだね」
 真面目な信者を流し目に見ながら言うと、帆村ちゃんは相好を崩しながら答える。
「薄くないならみーちゃんをここに入れたりしないって~。キミ、自分が思っている以上に怪しいよ? 信仰心なんか欠片も持ってないって顔だし、目も死んじゃってるしぃ」
「確かに僕は神様なんて信じていない……ていうか目は関係ないじゃん」
 前にも言ったけど、僕の目は生まれたときからこうなんだよ。
 それから二人でぐるぐると歩きまわりながら黒い教会の中を観察した。
 やはりどの教室でも同じような風景ばかりだった。本を読んだり、話を聞いたり、意見を言い合ったり。ただ、その光景にどこか僕は引っかかる。
湧き上がるこの感情は……僕は耳を澄ませる。
「この世の中はギブ・アンド・テイク! メリットなしでは動かない!」
 ある教室では……。
「最大多数の最大幸福! 一人を殺して十人を救いましょう!」
 ある教室では……。
「希望なんて見えやしない! 世界は悪いことで満ち満ちているんだ!」
 ある教室では…………。
「みんなでやればきっと出来るよ!」「金こそ全てさ!」「信じない! こんな世界に意味はない!」「妥協は一切許さない!」「わたしをもっと苛めてください!」「世界が平和でありますように!」「あなたの為なら何だってします!」「私に従え! 逆らうな!」「倫理や道徳に意味なんてない!」「真理は一つしかないのです!」
「もういいよ……わかったから」
 額を押さえて小さく溜め息。軽い頭痛がする。
「帆村ちゃん、ここでは一体何を教えているんだい?」
「ここは協会だからね~。彼らが学んでいるのは思想、だね。カリキュラム見る?」
 ポケットから取り出された四つ折りの紙を僕は受け取って開く。
 そこにはたくさんの思想が羅列されていた。三カ月構成でこれら全てを学ぶらしい。
 …………懐疑主義、完璧主義、資本主義、人格主義、功利主義、理想主義、悲観主義、平和主義、利己主義、相対主義、体験主義、虚無主義、現実主義、帝国主義、日和見主義、利他主義、拝金主義、清貧主義、敗北主義、原理主義…………ダメだ、目が痛い。
 三分の一もいかずに断念して、僕はそれを折りたたんで仕舞う。
 ……なるほどね。とにかく疑問は解けた。
 黒い天井を仰ぎ見て、僕は小さく欠伸をする。ここは不快だなぁ。
「神様っていると思う?」
 ふいの帆村ちゃんの質問に僕は少し間を置いてから答える。置いた意味は別にない。
「いると思うよ。底意地の悪い神様はね」
 運命の糸をでたらめに繋いでは千切る、とっても暇な神様。することがないなら寝てればいいのに。
「へぇ、意外だな~。ボクと同じでいないって答えると思っていたよ」
 意外ね……。僕は予想通りだけど。
「どうしてそう思うんだい?」
「だって見えないしぃ~。ボクはね、視えるモノしか信じないんだ」
「それは信仰には程遠い考え方だね」
「まーね。だけどここの神様は偶像なんかじゃない。実在しているんだ」
「……つまり、神になった人間がいるってことなのかな?」
「そうそう! すごいよねー、尊敬しちゃうよ!」
 あはははははー。よく言うよ。
「ねえ、帆村ちゃん」
「何かな、みーちゃん」
 にこりと蠱惑的な笑みを浮かべる彼女に、僕は欠伸を噛み殺しながら指を指す。
失礼にも。指を指す。
「君、実はここの教祖様なんじゃないの?」
 僕の問いに意外にも目を見開く彼女。それに比べて僕の瞼は下がる一方だ。
「……どうしてそう思うんだい?」
「理由はいくつかあるんだけど、とりあえず外に出ようよ。ここだと身の危険を感じちゃうからね」
 周りを見渡すと、教室の窓の側にはたくさんの人間がへばりついていた。生徒の信者も、先生も、皆が僕のことを睨んでいる。鋭利な視線で。怖いよねー。あっはっは。
 にしても……ビンゴみたいだねえ。
 ここは、異常な人間を作る施設だ。うん。吐き気がするなあ。死ねばいいのに。
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