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少年少女はすぐに怒る 作者:七森吐息

第二章 王様のいる街、白い娘と不愉快な鏡

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10 宗教法人私想教協会本部


「ううっ……眩しい」
 外に出て最初に口から出た言葉はそれだった。
僕らがさっきまでいた場所はやっぱり事務所のようだった。外壁は所々、剥げかかったボロいビルの三階。他の入居者は不明。
ちなみに僕がさっき出てきたドアのプレートにはちゃんと名前が彫ってあった。
 ――兎法律事務所。絶対嘘だ。
 辛気臭いビルに手を振り、とりあえず僕は足を進める。
 とにかく今は現状を把握したい。

「わーお。すごいね」
 僕の口から感嘆が素直に出てきた。夜夜中とは違う。
 神奈良の街は大きく、とても活気づいていた。なんていうか、都会? 夜夜中唯一のデパートのような大きな建物が溢れていて、それに比例するように人も車もごったがえしている。ただ、どこか異様な気がして気持ちが悪い。
 ざっと見渡しただけで目を引くモノを三つ見つける。
 頭をピンク色に染めた若者。どう見ても親子には見えない中年男性と少女の手を繋ぐ姿。大声で神について説いている変な集団。
 ――これが宗教効果なんだろうか? 奇抜なファッション。気にもされない倫理。自由な言動。個人の思うまま、ねえ…………まあ僕には関係ないか。好きにしなよ。
生き生きとした顔の人々を横目に僕はスルスルと滑るように先を進む。
人込みに押し潰されないように。
 事務所を出てから三十分。お腹が空いたので僕はひと休みにマクドナルドへ立ち寄る。ここなら夜夜中にもあるし、気遅れもしない。
 すごく化粧の濃いお姉さんに注文を取ってもらい、僕は窓際の席に座る。タルタルソースの抜かれたフィレオフィッシュをかじりながら外を眺める。
 白い建物……つまりは街の中心に近づくに従って、少しずつ毛色の違う人間が増えてきた。その中でも特に異様なのが二つ。嫌でも僕の目を惹いた。
 SPのような黒いスーツに無骨なサングラス。どこか強面の黒服。あれが雨の言っていた狂信者らしい。
元は一般人だった彼らも今や使命に燃えて、修練に励んでいるんだって。
 教祖を守る、そう自壊的に判断して守護者を気取る間抜けな有象。
とはいえ信じ切っている人間ほど恐ろしいモノもないんだけどね。
形振り構わない人間。それが彼ら狂信者なんだろう。
「……キャラ付けされていてよかった。区別が付きやすいからね」
 ストローから口を放し、しなったポテトを口に放り込む。
 もう一つは修道女の格好をしたお姉さんたち。一般的な言い方でシスター。おばさんも混じってはいるけど。走るのに慣れていないのか、たどたどしく駆け回っている。
うーむ、どうやら怨子ちゃんが逃げだしたことは僕が思っている以上に大事らしい。
 悲痛な顔をしたシスターと険しい顔をした黒服。
「知―らないっと」トレイを片づけながら、呟く。
 勝手に頑張ってください。僕も僕で頑張ります。
 店を出て、近くにいたシスターに頭を下げると、僕はいそいそと足を前へ進めた。

 宗教法人私想教協会本部は簡単な受付を済ますだけで中に入ることが出来た。
 パンフレットを眺めて僕は全体図を把握する。
 見渡す限りの人工芝にそれを囲うような高い塀。そしてその中には三つのドームのような円形の建造物。ここの教会。色は白、黒、赤。
 僕の知っている教会とは随分イメージが違うと首を傾げる。
 パンフレットにはそれぞれの名前と簡単な説明が載っていた。
【白神。神奈良屈指の観光レジャースポット。誰でも自由にお気軽に】
【黒神。布教活動いたしましょう。信ずるならば半被を袖に、祈りましょう】
【赤神。我らが神の住まう場所。神に選ばれていないなら近づくことはおよしなさい】
 ……………………ぷっ。僕は膝を折り、その場にしゃがみ込む。
 立てない。しばらく立てないよ。笑いが止まらないんだ。
 奇異な視線を背に受けながら、笑いをこらえていると、誰かが僕の肩に手を置いた。
「ね~、だいじょうぶー?」
 僕は口元を覆いながら振り返る。青空を背にした可愛らしい女の子が僕を見ていた。
 下から上げ底のブーツ。ボーダー柄のオーバーニーソックス。デニムのショートパンツに、ライオンのロゴの入った赤いパーカー。短い眉。ネコみたいなアーモンド型の目。
あと泣きぼくろが印象的で僕とは違いとても人の良さそうな顔をしている。長い髪をサイドポニーに縛り、玩具みたいなポップカラーのヘッドフォンを着けている少女。
「ああ大丈夫です。ちょっとお腹が痛かっただけですから」
「嘘。笑いすぎてでしょ~? キミみたいに興味のない人間は皆それ見て爆笑するんだよね~。それで黒服さんたちが近くにいたらボコボコにされて追い出されちゃうんだ」
 笑いながら、僕に手を貸して起こしてくれる。……それは危ないところだった。
「キミここに何しに来たの~? 観光?」
「まあね。そうゆう君はここの信者さんなの?」
「ん~ん、そうゆうとこ」
 人懐こい表情で笑う彼女に僕も笑顔を返す。下手くそな愛想笑いだけど。
「で、今からどこに行く気なの? よかったら案内してあげよ~か?」
 親切な申し出に僕はどうしようかと首をひねる。
 このパンフレットによれば十中八九、怨子ちゃんがいたのは赤神だろう。そして神に選ばれたというのは恐らく黒服の狂信者たち。怨子ちゃんがどうゆう環境にいたのかを見にきたわけだけど、赤神には間違いなく入れそうにない。どうしようかな……。
「ちなみに僕だけだったら入れるのは……?」
「白神だけだろうね。黒神も信者としてある程度信仰してなきゃ入れないしぃ」
 だよね。無駄足だったかなあ。
「でもボクが一緒なら黒神に入れるよ。どう、一緒に?」
 そう言って僕に手を差し出す女の子。握手のつもりだろうか?
「優しいね。どうして君はこんなに優しいんだい? 知らぬ他人だよ、僕は」
 僕はその手を握り、訊いてみる。
「友達が逃げちゃって暇してんだぁ。だから優しいキミがボクの遊び相手になってよ?」
 女の子はお願いするような顔になると、僕の腕をぶんぶん振りながら笑う。
「じゃあ案内、お願いするよ。僕は皆森弓名。君は?」
「街宮帆村だよ。よろしくね~。みーちゃん」
 人を惹きつけるような甘い笑顔で僕の目を見つめる帆村ちゃん。
 ……【ボク】に【みーちゃん】か。
一瞬浮かんだ思考を握りつぶして、僕はその手を離した。
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