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少年少女はすぐに怒る 作者:七森吐息

プロローグ

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1 僕の偽物


 まだ僕に友達という人種が少なからず存在していた頃、こんなことをよく言われた。
「ねー、なんで弓名ちゃんは僕なのー? 男の子になりたいのー?」
 僕はそれにこう答えていた。
「危ないから、だって」
 女の子らしい恰好はしないで。自分のことは僕って呼びなさい。
 泣きながら、僕を抱きしめてお願いをするお母さん。
 初めて告白されたのは六歳の春。
 初めてストーカーをされたのは七歳の夏。
 初めて誘拐されたのは八歳の秋。
 初めて結婚を申し込まれたのは九歳の冬。
「キミのことが好きなんだ。愛してる。キミのことしか考えられない」
 僕にそう言った大人たちの目は皆どこかおかしかった。
 いや、おかしいというか、異常で、狂気的で、うん。狂っているみたいだった。
 そして当時の僕は悪意に鈍かった。それはもう。相当に。
 僕を愛してくれる人間に簡単に心を開いて、自分では気が付いてはいなかったけど危ない目にも遭いかけて、親にも心配をかけて、泣かせて。
 ああ、昔の僕。死ねばいいのに。
 とにかくお母さんの言う通りにしたら、少しずつ変な人たちは僕の前に現れなくなった。完全に無くなったわけではないけれど、それでも前よりはすごく楽になった。
「弓名。あなた、幸せ?」
 お母さんが寝る前にいつも訊く。
 僕は目を擦りながらいつものように答える。
「うん。僕、とっても幸せだよ」
 それから僕は段々この体質のことを気にしなくなって。
 大切で、すごく素敵な友達にも出会って。
 そしたらね。
 十歳のある日。
 真っ黒な、最大級の異常が僕の目の前に現れた。
 そいつは僕の大切なモノをみんな壊して。僕も壊して。あの子にも手を出そうとして。
 だから僕は殺してやった。
 十歳のある晴れた日。
 僕は殺人者になったのだ。
 僕もまた異常だったのだ。
 とびっきりの……異常な、サイコ野郎だったんだ……。

 …………、
 話が変わるけど、世界には自分のそっくりさん。
 つまりはドッペルゲンガーみたいな人間が三人はいるらしい。
 会ってはいけない。
 僕みたいな人間。
 簡単に巡り合えない。
 僕のような他人。
 それなのに――。
 十月。僕はその一人に出会ってしまった。
 さらに二カ月後、もう一人にも出会う。
 とっても異常な僕の偽物。
 ああ、僕だって偽物だよ。本物なんて存在しやしない。
 僕の呪いは健在だ。
 まったく。不幸になったらどうしてくれる?

 世界に三人しかいない、僕と僕のような君たち。
 一人は親友になり、一人は敵になった、君たち。

 …………。
「お前みたいなやつが僕のライバルだなんて、すごく嫌だなあ」

 にいっと笑うあいつの顔に僕は毒づく。

 これは異常なる僕と異常なるあいつの因果なるおはなし。
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