#2
「はい。引退してお孫さんのお世話するのを楽しみにされてましたね」
「隊長は、あとのことを心配しながら旅立たれた」
「心配……ですか?」
「新しい隊長なんだけど、リーベラーポリスでもあまり評判よくない人だったらしいんだ」
「どんな人なんですか?」
「貴族なんだけど、乱暴というか、素行が悪くてポリスを追い出されてここへ来るらしいんだ」
「ええ?」
着任の際に挨拶するのを、キリアも兵士たちの後方で聞いていた。キリアの顔が曇る。
「そんなひとが隊長じゃ、みなさん大変ですね」
隊士は優しい顔になってキリアに言った。
「軍人として特別きびしいというわけじゃないが……。あの人の悪評は女性に関することなんだ」
「……」
まだ、自分自身を女として自覚していないキリアには、兵士の心配していることがピンとはこなかった。
「隊長もまだ若い男だ。キリア、おまえはじゅうぶん美しくなった。ひとりで行動するときは気をつけるんだ」
「……はい」
なんとなく、彼の言わんとしていることはわかった。
あえて彼がそう言うのにも理由はあった。
『あの娘は村の者か? 歳はいくつだ? 名はなんという?』
仕事もおろそかに、彼女を目にするたびに歩を止めてじっと見つめる興味の視線。
「彼女は、まだまだ子どもです」
不安を感じた隊士たちが、遠回しに諌めてもどこ吹く風。ならば、キリア自身に用心をさせるしかないと、彼がキリアに警告をしたのだった。
「隊長に気をつけろ、それから村の男たちにも、あと俺たちにもな……」
苦笑いをする隊士にキリアは気をつけると約束した。
それから数日して、キリアは木の実を摘みに山へ入った。川のそばの斜面に木いちごがなる場所がある。
普段なら、弟たちが後をついて来るところだが、キリアは途中で彼らに薪をとらせようと道を分かれた。
木いちごは腐植質に富んだ排水の良い土地に育つ。西日の当たらない場所で、生育期には日光が当たるところ。半日陰ならなおいい。寒さには大変強い。
「これを摘んでどう料理しようかな?」
二、三日はそのまま生食できるが、それ以上は傷みやすいのでジャムにするのが一般的だ。また、つぶして裏ごししたものを菓子や料理のソースにも使うことができる。
ふと、うなじに悪寒がはしった。
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