第一章 砦の少女
キリアの幼年時代。親の顔を知らぬキリアは、誰の養子となることもなく村の野良仕事を手伝い、同じ境遇の義弟妹と生計を立てていた。
「どうしてぼくたちにはお父さんとお母さんがいないのかな?」
一日の仕事が終わると、一緒に眠るベッドのなかで弟がキリアに尋ねてくる。
「わたしの両親、あなたの両親、みんなきっと戦争で亡くなったのよ。いいこと? エミリオ。ジパングにはわたしたちと同じ気持ちで生きている子がたくさんいるの。つらいのは自分ばかりだと思ってはだめ」
年齢が一〇歳になると、国境に近い村であることから、国境警備隊の食料調達や衣類の洗濯などの仕事をするようになる。警備隊宿舎そばの倉を掃除して住み込んだ。
この頃はジパング内で紛争が耐えない時期であり、国境警備は敵の襲撃に備えることよりも、隣国の内戦監視という意味が大きかった。
このような国境に接する村が、この地方には数多くあった。
国境とはいえ山と川を挟んで、向こうが隣国領土というような緩やかな境界線であるために、村人同士の交流や通商は存在した。
内戦が激しくなると、ジパングを逃れてくる難民が国境近くに住み着くのも黙認する情けが警備隊にはあった。また、彼らはジパング領内の様子を知るための貴重な情報源でもある。
戦乱により、孤児も増える。難民同士で面倒を見切れなくなった子どもが国境を渡ってくるようになった。その何人かを、キリアは新しい家族として向かえた。
若すぎる母親は、言葉も話せぬ幼子の手を引き山で薪をあつめた。井戸で洗濯をした。目を離すと、子どもはすぐにどこかへ姿を隠すので気が気ではない。
キリアに少女時代はなかったのである。
成長とともに輝きを放つ自分の美しさに気付くのは、自身よりも村の少年たちが先だった。
村の少年たちの色を帯びた視線や欲求、悪意に無頓着なキリアだったので、彼女を護るようにエミリオや新しい弟妹が彼女の後をついて歩いていた。
キリアは守備隊のマスコット的存在であり、美しい少女が無防備に山に入っても、村の男たちは易々と手を出すことが出来ないでいた。
そんなある日、砦の兵士がキリアを呼び止める。
「キリア、毎日ご苦労さん」
「あ、エンジュさん。おはようございます」
洗濯物を集めに来たキリアに、隊士はすこし浮かない顔でこう言った。
「前隊長がリーベラーポリスに帰都してしばらくたつな」
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