#10
「そろそろ、お寺へ行きましょう。あら、どうしたの? 樹理」
母も室内がなにか変な空気になっているのを感じたようで、娘に尋ねた。
樹理はちらりと小見尋を見たが、首を横に振った。
「オミが、おなか痛いって」
鳩尾に手を当てている甥を、おばは心配した。
「あら、だいじょうぶ? 初詣行ける?」
冷や汗が流れていた。とりあえず、樹理は彼を訴追することを見送ったらしい。
「ああ、すんません。もう大丈夫です。痛みは引きました。初詣行きましょう」
腹部から手をはなす。
「そう。じゃあ、寒くないように、みんな厚着してきなさいね」
パタパタと、おばの足音が遠ざかる。
「樹理……」
ほっと息をついたところで樹理に近づくと、彼女はびくっと体を震わせ、近づいた分だけ彼から遠ざかった。
小見尋の心が痛んだのは、彼女はいま唇ではなく、自分の肩を抱くように腕で胸をガードしていることだ。
救いもある。彼女は取り乱しているようにも見えない。その表情は強張っているが、不機嫌極まりない様子に見えた。
しばらく間があって、彼女はこう通告した。
「オミ、半年間わたしにさわるの禁止ね」
それが彼への判決だった。
その後、一同はコートを着込んで菩提寺に初詣に出かけた。
微妙に距離をあけて歩く二人に、樹理の父は言った。
「なんだ、またケンカしたのか?」
「そんなんじゃないよ」
二人の間に樹梨亜が入ってきた。彼女は左手で小見尋と、右手で姉と手をつないで歩き出した。樹理はそっぽを向いたまま。
ようやく彼女と目を合わせたのは、寺の境内でだった。三人で除夜の鐘を突き、本堂の前で手を合わせる。
そのとき、やっと目が合った樹理は、舌を出して「アッカンベー」した。
小見尋は、樹理との仲直りを祈願するべきだったのかもしれない。
でも、彼が願うのは、毎年同じこと。
(この年が樹理と樹梨亜にとって幸せな一年になりますように)
そして、もうひとつ。
(世界が平和でありますように)
なぜだろう。この願いは、自動的に頭の中で唱えられる。
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