#6
彼らはここへ来る前、昨日のうちに恋人らしく見える仕草の練習をしてきたのだ。
恋人役を要請し、朝一番に部屋を訪れた樹理。
「おまえの頼みなら、ぼくはなんでもやるよ」
「ありがとう。オミなら、そう言ってくれると思ってた」
快諾に樹理は満足げだ。
「でもな、樹理。すぐにばれると思うんだ。ほかの子たちは恋愛経験者なんだろ」
彼らは仲のよい姉弟のようなもので、小見尋の恋愛感情は一方通行な上に、彼自身も従姉に向けるこの感情の正体がなにものなのか計りかねている部分もある。
「オミはさ、わたしのこと、どう思ってる?」
ちゃんと彼氏役が務まるかという意味の質問なのはわかっている。
「べつに? ただのイトコだろ。それ以上でも、それ以下でもないよ」
「わたしのこと、ちゃんと女の子として扱える?」
「さあね、努力はするけど、急にいまさら女として見れるかなんて……」
彼は大うそつきだった。自分でも嫌になるような言葉が口をついていた。
樹理の顔がうつむいた。
(傷つけたかな?)
たとえ、なんとも思ってない相手から言われたことでも、このセリフは女の子のプライドを傷つけるだろう。
「あっ、ゴメン……」
そう言いかけたとき、彼女の指が手に触れた。そのまま、ぎゅっと彼の指と指の間に彼女の指が滑り込む。
(こ、これは……)
「嘘つくな、小見尋」
キッ、と顔を上げた樹理の目がにらんでいる。ぎょっとした次の瞬間、左手に激痛が走る。
「グァァァア」
樹理が使った技は、『骨経術』だった。
この術は人体の神経路や血管を、支点力点作用点、つまり「てこの原理」を利用して攻撃する技だ。
指の間接を極められ、小見尋は動きを封じられた。
護身術として、彼女にこの技を教えたのは、実は彼自身だったりする。
「小見尋、あんたさぁ、むかしわたしに変なことしようとしたよねぇ」
「うぐっ、まだ覚えていたのか、樹理」
小見尋が樹理に魅かれる点がもうひとつある。それは、彼女のおとこらしいところだ。
ふだんは水滴がいっぱいついているような潤いのある声音。なのに、怒りんぼモードになると口調がぞんざいになることもあった。
「なにが女として見れない、よ」
小見尋の手のひらは釘でも打たれたように、床に縫い付けられている。
樹理の五本指が、彼の中指をガッチリと締め付けている。
「だーかーらー、あれは誤解だって言ってるだろ」
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