#2
「本陣までの距離は、およそ一二〇〇メートルです」
測量を終えた技師の報告を聞くと黒騎士は、vx=v〇cosθ、vy=_gt+v〇sinθ、x = v〇tcosθ、y=−\frac{一}{二}gt^二+v_〇t\sin\theta+y_〇といった幾つかの数式を白紙に書き込み、この地方にはない竹串と珠を用いた手製の計算器による計算を始めた。
「弾道計算において、空気の抵抗無しの条件でもって計算するのならば学校で習う程度の知識で求められるが、空気の抵抗込みとなるとコンピューターが必要になるな」
やがて、彼は方眼紙にゆるやかな放物線を描き出した。
「テスト射撃のデータによると、、一番ライフルは五〇〇メートルで五センチの弾道下方誤差が生じる」
彼は鉛筆を口にくわえながら、さらに計算補助器具の珠をつま弾き続ける。
「もともとコンピューターもミサイルの弾道計算のために開発されたものだって言うからなー」
ぶつぶつ独り言を言いながら計算を続ける義兄を、キリアは声をかけずに見守っていた。
カチカチとそろばんを指ではじく音が響く。
「重力を考慮すると、一二〇〇メートルで発射角度は五度の修正を要する」
黒騎士は敵の指揮官を狙撃しようとしているのだ。
直接に相手を狙った射撃では、距離が遠くなると弾丸が地球の重力によって高度を下げてしまい命中しない。そのため遠距離の目標に弾丸を命中させるためには、弾丸を上方向に発射して仰角を持たせる必要がある。キャッチボールで、遠くの相手に投げるときには山なりに投げるのと同じこと。
方眼紙と関数、そろばんを用いて仰角度を割り出したが、ライフルの設置にまだ時間がかかるようである。
「将軍、ご指示の人物を連れて参りました」
副官が数人の男を連れて来た。軍服は着ていない市民である。
「諸君は、このリーベラーでもっとも弓術に長けた人間と聞いたが確かか?」
男たちがうなずく。彼らはリーベラーの森の奥深く狩猟を営むものたちだった。
「将軍、その鉄の筒はいったいなんなのですか?」
「これはわたしの国で、弓の代わりに用いられる鉄の矢だ」
「鉄の矢……」
「間もなくこのリーベラーを陥落させるべく、ジパングの侵攻が始まる。諸君にはこの銃の威力を目にした上で、その術を自分のものとしてもらいたい」
長尺の銃身は、油絵を描く三脚の上に金属具をもって固定されていた。銃身のマウント部には、占星術士と天文学者に作らせた精度の高い遠眼鏡を照準用スコープとしてしつらえている。
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