第三章 従姉のジュリエット
キリアが暮らすジアースとは、次元をひと跨ぎした平行世界・地球。
七つの大陸と無数の島々、地表の七〇%を海に囲まれた星。
その極東の島国を人々は日本と呼んだ。
東京都武蔵野市に、古めかしい剣術道場があった。
その屋根にひとりの少年が腰掛けている。
姿こそ小学生ほどの背丈だったが、実際の年齢は二五才になろうとしていた。その人生をかけて、ずっと一人の少年の成長を見守っていた。
「器は整いつつある。そろそろ頃合いか」
迷いもあった。
「彼はこの世界に欠けてはならないエレメンツ。精霊の五大元素にも比する因果を持つ存在」
彼を連れ去ることで、この国に災いがもたらされることがないだろうか。それが気がかりだった。
「だが、わたし自身もこの世界に長居し過ぎたようだ。自然科学が発達し、人間のあらゆる動作に利便性を与える世界で、人間が本来持つ野生や精神世界とのリンクも日々途切れていく」
一五年前に着の身着のままに日本を訪れた頃は、自分が生まれたジアースとあまりに文明が違うことに驚愕した。
なにもかもが便利な世界。
生きるために魔法を使い、食べ物を盗むようなこともあった。コンビにで売られている弁当の調理に至るまで、現代科学力は及んでいた。それを口にすることだけでも、日々魔力は衰える。
「もう、時間がない。急がなければ」
肩口の傷がうずく。
「ストロエスニルめ、現代文明を使いこなしてよくもわたしを見つけ出したものだ」
魔法剣を奪い出奔した魔法使いに追っ手がかけられた。それも国宝を盗み出された国主自身が刺客となったのだった。
国主・ストロエスニルはさすが暴君だっただけあって、単身追放された異世界でも圧倒的な悪のカリスマ性で犯罪組織をまとめあげた。
そして先日、一五年ぶりに再会した魔術師、正確にはその化身であるエミリオに組織を挙げて襲い掛かった。
ファーストアタックはなんとかかわしたものの、いずれ再度の攻撃があることは間違いない。
「その前に、彼を覚醒させなければ……」
そんな独り言を呟いている人間が頭上にいるとは知らず、道場は稽古の真っ最中だった。
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