#4
「そ、それは?」
わらにもすがる思いの少年だった。
「どんな力でもいいよ。ぼくの家族を助けて、村のみんなも」
老師が近づいて来るに連れ、その姿、シルエットがはっきりとしてくる。
白髪の総髪、ひげは生やさずに、眉毛が異様に長い。まるで年老いた洋犬のような容貌だった。
「ただし、その方法には対価が必要だ。それでもよいか」
「姉ちゃんを助けてくれるなら、なんでもするよ」
「よい覚悟だ。だがな、わたしの得た魔法の理を用いるためにはこの世において魂の居所が必要なのだ。つまり、わたしの魂がそなたの体に宿ることになる」
「ぼくの体を乗っ取るの?」
「そうではない。そなたの意思が失われることはない。だが、そなたの魂はわたしの魂と融合し、新たな人格となるのだ。そのことにより、そなたの意思でわたしの魔法知識を用いることができるようになるのだ」
「ぼくが、魔法使いになれるの?」
「そういうことだ」
迷うことなどなにもない。エミリオは即答した。
「やるよ。ぼくが自分の力でみんなを守るんだろ?」
「ただし、そなた自身が魔法で軍隊と戦うということではない。魔法使いは万能ではない。敵兵たちの頭上に落雷を落とすとか、そういうことで戦争に加担しても、その役割は一人の強力な兵士であるにすぎない」
「じゃあ、どうすればいいのさ?」
「探すのだ。人の世の理を正すことは、人にしか出来ぬ。この戦乱の世を治めることのできる人間が遠い地の果てにいる。その者を探すのだ」
「探す。どうやって?」
「わたしは命尽きる日の前日、二度、魔法の儀式を行った。ひとつは水晶を用いた千里眼」
フー・ディーニが取り出した水晶の中に映ったのは、このジアースとは異なる世界。高層ビルが立ち並ぶ、曇天の夜空。
一組の夫婦が、家路を急いでいた。交差点を曲がったところで妻は、生暖かい風がびょうっと後方から吹き付けるのを感じた。
妻は突風に乱れる髪をおさえながら、振り返った。
「きゃっつ」
「どうした、おまえ」
短い妻の悲鳴に夫が驚く。
彼女は、目を大きく開け、ぽかんと口をあけて立ちすくんでいた。
「い、いま……」
「なんだって?」
「わたし、妊娠したかもしれない」
彼女は見たのだった。空から一頭の龍が舞い降りて、自分の体を通り抜けていくのを。
そして、その際に自分の体に霊的なものが残されたことを、直感的に悟った。
「どの国、どの世界にも一つの時代に一人、奇跡を起こして伝説となる人物がいる。古き世に名君や騎士、哲学者が名を残した。悟りを開き宇宙の真理を解き明かした者は、それを人々に伝えて宗教の開祖となった」
エミリオは眼前に置かれた水晶の中の人々を、食い入るように見つめた。
夫婦の姿の後に映ったのは、いにしえの戦争で指揮を執る高名な騎士の姿。弾圧を受けながら、なおも民衆に神の教えを説く宗教家たち。どれもおとぎ話でエミリオもよく知る英雄たちの物語だった。
「あの夫婦に、子どもが授かった。その子どもが成長して、やがてこの国を救う英雄となる。そなたは、子どもの成長を見守り、時が満ちたらこのジアースへ戦士を導くのだ」
気の遠くなるような話だ。
「どの英雄も大人になって使命に目覚めるまでは、ほかの子どもと変わることのない一人の人間。だがそのものが霊的支柱となって世界は存在の証をたもっている。不幸にして英雄が死することがあれば、その支えを失ったときに国は滅ぶと言われている」
英雄が大人になるまで、誰かが見守る必要があるというのだ。
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