#3
どこから? 体の外からではない。
体のずっと奥、どこからかわからない内奥から、直接その声は聞こえていた。
『ダイレクトボイス』は高等魔法のひとつだが、エミリオにはそのような魔法の知識はなかった。
「……だれ?」
「わたしの名は、フー・ディーニ。ジパング領西のはずれの塔に住んでおった魔術師だ」
『住んでいた』と過去形で、フー・ディーニは答えた。
「一〇〇と数年この世にとどまり、いまは肉体から魂が解き放たれた状態で在る」
「おじいさん、死んだの? じゃあ、幽霊?」
光の中にシルエットが浮かぶだけだが、エミリオにはそれが老人であることを認識できた。
「まあ、似たようなものだの」
「魔法使いのおじいさん、ジパングの軍隊が攻めてきて、ぼくの村がいま大変なんだよ」
「それは承知しておる」
「おじいさん、魔法使いなんだろ? 魔法で助けてよ」
「申し訳ないが、それはできぬ」
「どうして!?」
「見ての通り、肉体を失った身なれば、現俗で起こる事象に霊魂体だけのわが身が影響を及ぼすことももはやかなわぬ」
「いまだって、魔法で話してるじゃないか!」
「これは、そなた自身が生と死の狭間にある状態だからこそのこと。魔術を操ることの出来ぬ身であっても、一時的に霊感の強まる刹那が存在する」
「助けてくれないなら、なんだってぼくに話しかけるんだよ? 魔法使いなのに、困っている人を助けてくれないなんて!」
エミリオは口を尖らせて、老魔術師に抗議した。
「そなたが憤るのももっともな話だ。本来の肉体は死を迎え、往時には強大な魔力を誇ったわたしも、そなたたちの不幸にはあまりにも無力だ」
このまま悔恨を残しつつ世を去り、神の国の門をくぐろうとする手前で、老師は瀕死の少年を発見するに至り、いまほんのひと時、その立ち位置をかろうじて現世に残しているに過ぎない。
霊魂だけの存在では、この世に働きかける力はあまりにも小さい。
「だがな、エミリオよ。ひとつだけ、そなたに力を貸す方法があるのじゃ」
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