生徒会長補佐日誌(37/62)PDFで表示縦書き表示RDF


生徒会長補佐日誌
作:新木吾妻



037 第一章刹那25 不測




 午前10時30分。

 ようやく入場する事が出来た。

 まるで某ベイエリアにあるあのテーマパークを彷彿させるように園内は騒がしい喧騒とわらわらと人で溢れ返っていた。この様子だとどの乗り物も行列が出来ているに違いない。

「さあさあさあさあっ!! シオっ! まずは何から行くっ? 何から行くっ?」

「いでででででっ!!」

 園内の様子に感嘆の声を漏らそうとすると、渉が凄まじい勢いで俺の腕を引っ張って来た。
この上なくウザイし痛い!

 どうして女の子がいるのにこのようなキモい状況になっているかというと……。


 少し前、みんなで入場口に並んでいた時。

「生徒会長さぁ〜んっ! 俺さっ! 山崎渉っていうんだっ! 瞬とシオの大親友さっ! ちなみに彼女は大募集中さっ! よろしくよろしくぅっ!!」

 瞬と一緒に先頭を並んでいた刹那にいきなり自己紹介をしだした渉。

「…………」

 微妙に後退りしながらとてつもなく嫌そうな表情をする刹那。そしてその嫌そうな表情を渉ではなく何故だか俺に向けて来た。

「いっやーっ! 生徒会ちょ、刹那ちゃんとお出かけ出来るなんてさぁっ! 夢みたいだよっ!」

 なっ! 渉のヤツ、何を言い直してやがる。初対面でしかも刹那ちゃんなんて、呼んだ、ら……。心の中で渉にツッコミを入れていると言いようの無い殺気を感じる。

 刹那、嫌そうな表情というか不機嫌そうな表情というか、それすら通り越した表情というか、何というか怖い! っていうかどうして俺がロックオン?

「わたっ渉? やめておいた方が……」

「なんだよ、シオっ。俺だって刹那ちゃんとお近付きになってもいいじゃんさっ」

 渉の為を思って阻止を試みようとする俺を不機嫌そうに遮る渉。ヤバいって、ヤバいって!

「…………!」

 おたおたする俺にグサグサと突き刺さる刹那の視線。

「あ、いや……」

 見てるだけだけど怖いよ! 刹那怒ってるよ! しかも矛先が渉じゃなくて俺だよ! 早く何とかしろ的な表情だよ!

「刹那ちゃんっ? どしたのっ?」

 気付けよ渉っ! 明らかに不機嫌じゃん! しかも原因はお前しか無い感じじゃん!

「帰るか消えるかいなくなるか遠くに行くか黙るかさせなさい。十八」

「お、おっけぇ」

 何故俺に言うか。

「その男を私の半径2メートル以内に近付けさせないようにしなさい。十八」

「お、お、おっけぇ」

 あまりに恐ろしい刹那の威圧感に為すがままに従う俺。

「あ、あの……。刹那ちゃん?」

 流石の渉もたじろぎながら軽く狼狽えている。自分の置かれている状況をようやく理解してきたみたいだ。

「今の呼び方もやめさせなさい。十八」

「……おっけぇ」

 渉を見ないで終始俺を睨み付けながら言う刹那。

「…………」

 おとなしくなる渉。俺が言わなくても理解したようだが、ちょっと不憫だ。

「まっいいやっ。海っ老っ原っちゃーんっ!」

 刹那の口撃に項垂れてしまったか、と思っていたらパッと顔を上げてくるっとこっちを向く。そのまま俺の隣にいる海老原さんをヘラヘラしながら呼ぶ。

 刹那が駄目なら海老原さんかよ。前言撤回、少しでも渉を気遣おうとした俺が馬鹿だった。

「俺は山崎(以下略)よろしくねっ!」

 二カッと爽やかそうな笑顔でさっき刹那にやった様な自己紹介をしだした渉。なんだろ、イラッとした。

「…………」

 渉の爽やか風の自己紹介に対して海老原さんは、って、えっ? ササッと俺の後ろに隠れてしまったぞ。

「え、海老原さん?」

 俺の上着をギュッとしている海老原さんに尋ねる。しかし黙り込んだままで俺の背中に顔を埋めてしまう。

「ちょっとっ? 海老原ちゃんっ? 聞いてるっ?」

 俺をそこら辺に生えてる木のように回り込みながら海老原さんの顔を伺おうとする渉。対して海老原さん。上着をギュッとする力を強めながらカタカタと震え出す。

 ムカッとした!

「渉! やめろよ!」

 渉から庇うように体をずらして海老原さんを隠す。俺の中に無意識に湧き上がる衝動、海老原さんを非常に守ってあげたい! が発動した。

「えっ? シオっ?」

 鳩が豆鉄砲食らったみたいにぽかんとする渉。

「嫌がってんだろ!」

 少々突っ走り気味の俺。渉、ゴメンね。

「い、いや。いいよ、俺が悪かったよ……怒んないでよ」

 納得いかなそうな表情だが、降参降参みたいに両手を上げながら離れる渉。

「大丈夫?」

 目の前のアホが不憫でかわいそうだったがとりあえず無視。後ろの海老原さんを気遣う。

「……うん……大丈夫……ありがと……」

 言いながら俺から体を離す海老原さん。見てみると顔が真っ赤だった。当然俺も照れた。

「まっどっかっちゃ〜んっ!」

 あんのボケ……無視しておいて正解すぎる。ダメージ0の渉の爽やかそうな声に俺のイライラはぶり返す。

「お(以下略)」

 最後尾に一人佇む進藤さんにまたもや爽やか風の自己紹介をやってやがる。何とも子供っぽい笑顔付きの渉の自己紹介。三回目ともなると爽やかレベルがマイナス方向に振り切っている。

「……巴でなくて正解だったな。絶対殴っていただろうな」

 目の前で自己紹介している渉をガン無視しながら呟く進藤さん。

「ちょっと聞いてるの〜円ちゃんっ! 先輩が自己紹介してるんだよっ!」

 先輩風吹かすな! ドアホ!

「黙って頂けませんか塩田先輩と副会長の友人の方。はっきり言わせて頂くと迷惑です。付け加えさせて頂くと不快です」

 ギラッと眼鏡を光らせながら渉を一蹴する進藤さん。

 えっえっ、とキョロキョロした後、シュンとする渉……。わかる、わかるぞ渉。如何に勘違いでアホなお前でもわかるだろう? あの娘の言葉はなんか辛いんだ。いつものノリだと辛いだろう。辛いだろうさ。

「し、瞬っ! 話が違うじゃんさっ!」

 挫けない渉。顔を上げると刹那と一緒に先頭に並ぶ瞬に文句を言い出す。

「意味不明すぎるぞ渉。これ以上変な事言うと本当に帰るか別行動になっちゃうぞ?」

「…………」

 瞬の真顔の言葉に黙り込む渉。

 不憫すぎるっ!! 初対面からアホな行動を取り続ける渉にも落ち度があるかもしれないが、楽しい日曜日なんだから大目に見てあげようよ!

 気が付いたら俺は両手を広げて駆けていた。

「渉! さっきは悪かった! みんなの気持ちはわかるが俺は渉がいて嬉しいんだ!!」

 意味不明フォローをしながら渉に抱き付く俺。

「シ、シオっ!!」

 抱き付き返してくる渉。

 もちろん周りのみんなは生ぬるい視線の真顔だった。


 ……と、そんな感じで女の子達や瞬に相手にされなかった渉。

「ほらっ! 早く早くぅっ!」

 ぐいぐいと俺の手を引く。

 さっきは思わず渉に抱き付いたりしてフォローしたが、ぶっちゃけ俺にじゃれつくのは勘弁してほしい。

「最初は絶叫系かぁっ!? シオっ!! ねぇっ! シオってばっ!!」

 テンションすごっ!!目ぇ血走っとるわ!!

「やっぱり『神風』から行くっ? 行っちゃう!? 行っちゃうの!?」

 最早一人舞台の渉。


 〜神風〜
 この遊園地の三大絶叫マシンの一つ。国内で三番目か四番目の最高速を誇るジェットコースター。何とも微妙な位置へのランクインではあるがかなり怖いらしい。どうでもいいが、こういう乗り物にこんな突撃系の名前でいいのだろうか?



 そんな訳で神風に並ぶ事になった。

 目の前の大袈裟で物騒な建造物。それに続く長蛇の列。そしてたびたび聞こえてくる悲鳴。

「…………」

 オートで出てくる脂汗。高鳴る鼓動。落ち着かない挙動。

 そう、はっきり言って俺は絶叫系の乗り物が大の苦手だった。

 ゆっくりゆっくりと進む列。それに応じて加速する鼓動。

「……十八? もしかしたら怖いの?」

 ぼそっと呟く隣の刹那。実はこの列に並ぶ前、瞬の巧みな誘導により俺の隣には刹那が固定されていた。

「コッ、コワクナイヨ」

 あっ、強がろうとしたら声が上擦って、というか片言になってしまった。

「ふふっ、十八は苦手だったわよね、こういうの」

 バレバレだった。楽しそうにからかう刹那の声に思わず嬉しくなった俺は視線を彼女に移す。

「えっ?」

「なに、どうしたの? 十八」

「いや、何でもないよ。怖くもないよ」

 誤魔化しながら視線を列の先に戻す。楽しそうに笑ってくれていたと思って見た刹那の笑顔。違った……明らかに無理をしたような笑顔だった。

 俺の気のせいだろうか……刹那、朝から元気が無い……。

 せっかくみんなで、いや、それもあるけどせっかく久し振りに一緒に遊びに来れたんだ。見た感じだと神風はペアシート、このまま列が進めば刹那と一緒に乗る事になるだろう。俺でどうにか出来るかはわからないが、刹那に楽しくなってもらおう。

「……なんだ先輩。さては怖いのか?」

 これから乗る乗り物へのドキドキと何やら刹那に対するドキドキ、いやハラハラに考え込んでいると声が掛かる。

 進藤さんである。

「い、いや。怖くないよ多分」

 片言にはならなかったが上擦る俺の声。刹那に続き進藤さんにまで指摘された。どうやら俺の状態はかなりガクブルしているらしい。

「くくくっ。情けない先輩か……なかなか面白い話を持ち帰る事が出来るかもしれないな。いいだろう、私が先輩と一緒に乗ってあげよう」

「はっ?」

 含み笑いの進藤さん。ぶつぶつ呟いた後、変な事を言う。

 そして俺と刹那の間に入ると俺の腕を取る。まるでルナちゃんがやるように俺の腕を抱き締める進藤さん。

「「えっ?」」

 呆気に取られたような声で驚く俺……にハモる刹那。

「くっくっくっ、なかなか恥ずかしいな、これは」

 ちっともそうは見えない不敵な笑いを混ぜて言う。というかとても近い。

「えっちょっなっしてっ」

 えっ、ちょっと何をしてるの、が混ざって変な事を言ってしまう。というかとても柔らかい。

「ルナの真似だ。先輩を安心させてやろうと思ってな。……もしや嫌だったか?」

 ルナちゃんよりはずっと背が高い進藤さんだが、俺よりはずっと低い身長。必然的に上目遣いの構図で言われて嫌なヤツは男じゃない。というかとてもいい匂いだ。

「い、嫌な筈ば絶対ににゃーが……」

 激しく嫌では無い、むしろ半端じゃなく嬉しい。がしかし、元々高鳴っていた鼓動が一瞬でレッドゾーンに達した。というか理性のメーターもレッドゾーン。

「ならばいいだろう。よろしく頼む、塩田先輩」

 そう言って上目遣いのまま微笑む進藤さん。よく見ると顔が赤い、恥ずかしいというのは本当みたいだ。というか何だかかわいい。

 ジェットコースター、密着する進藤さん、周りのイタイ視線。それを受けてやかましいアメリカンバイクのフルスロットル並にうるさい俺の鼓動。

 急展開した状況に頭の中がパニック状態だった。

「…………」

 押し黙る刹那だけがとても気になったが……。



 俺と進藤さん。渉とは嫌だ的流れから、刹那と海老原さん。必然的に瞬と渉。
そのペアで乗る事になった。

 俺を恨めしそうに見てくる渉にも悪いと思ったが、意外そうな表情をしながらも何故だか親指を立ててくれた瞬には凄い申し訳ない。


 俺達の順番になり、案内係のお姉さんが誘導してくれた。

「こちらへどうぞ〜」

 百点満点を付けたくなる爽やか営業スマイルの係員さん。

「カップルの方はこちらへどうぞ〜」

 俺と進藤さんとみんなの間にチョップをしながら言う係員さん。チョップで仕切った俺達は前の方、刹那達は後ろの方へ誘導された。

 カ、カップル? 爽やかスマイルで死語のような事を言わないでくれ、とかツッコミたいが、それ以前に……。

「カップルって?」

 俺の腕に埋まっている進藤さんに訊いてみる。

「当然、私と塩田先輩の事だろうな」

 そんな事も分からないのか? みたいな顔で見上げながら言う進藤さん。俺の腕はギュッとしたまま。

「えっ、あっ、うん。そっか」

 ちょっと冷静になれたよ、ありがとう進藤さん。

 ――なんて思わない思わないっ! どうしようも無い位恥ずかしいよ! 俺のメーターとっくにレブってるよ!

「何故男女ペアとそれ以外を分けたのだろうな? 興味深いな」

 いつものような淡々とした口調だが、何やら楽しそうな進藤さん。真顔ばかりの娘だと思っていたからか、微笑みだけでクラッと来た。

「わ、わ、わがんねぇよ……ギュッとし過ぎ、ギュッとし過ぎ」

 と、必死の抵抗も、くくくっ、と流す進藤さん。



「これは驚いたな」

 案内された物々しくて物騒な乗り物。

 なんだろ? 名前だけじゃなくて見た目も日本軍の零式艦上戦闘機(零戦)っぽいのは気のせいか?

 そんなに不安を仰ぐなりをしているくせに最前列のシートは馬鹿丸出しだった。

「何かさ、近くない?」

 言われるがままに乗り込んだ零戦。

「かなりな」

 俺と進藤さんとの距離はゼロ(シャレじゃない)。

「これって、ちょっと危なくない?」

 シートに取り付けられたベルトは一本、二人で一本。すっぽ抜けそう。

「同感だ」

 他のシートは隣としっかり間隔があるし、いい感じのバケットタイプ。頼り無さそうなベルトではなく頑丈で安全そうなバーが下りている。

 何とも嫌な予感が拭えないが、まぁ待て。確か最前列は前が見える分予測しやすいから、かえって怖くないと何処かで聞いた覚えがあるぞ。

『間も無く発進しま〜す。……あっ、説明が遅れましたが、最前列の機体は壁や地面に大変接近します。というかかすります。ご注意下さい』

「――ちょい待てぇーーーっ!!!」

 ジリリリ!! ガコン!!

『発進しました〜』

 オペレータールームっぽい所の係員さん! しましたじゃねぇよ! 敬礼してんじゃねぇよ!!

「って、ああああああああああああああああーーーー」

















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