二人はわかっている
「呉さーん…終わりましたよ」
柴田は明らかに疲れきった顔をして部屋を出てきた。呉は待合室のソファーで柴田が座るのを待ち、腰を下ろすのを見届けてから、缶コーヒーを差し出した。
「で、どうだった? はい、コーヒー」
「あっどうも有難う御座います。えっと…掻い摘みますよ? まず頚動脈をスパッと切られてますね。それが原因で死亡。出血多量です。犯行時刻は午前二時から半までの三十分。胃の内容物で特定されました。そして死後、数分後に同じ凶器でもう一度首を切り、次に胸部二箇所、腹部に一箇所刺されています。凶器は鋭利な刃物。ちょうど果物ナイフのようなものだと水野さんは考えているようです。最初の切り傷の方が二回目より深かったようですね。二回目のは頚動脈がギリギリ切れた、というところです。刺し傷はどれも半分くらいまでしか刺さっていません。しかし血が吹き出るほどです。今回は、一回目の傷からの出血で、二回目以降はあまり血が出なかったみたいですけど」
「水野が喜びそうだね…」
そう言ってから、呉は考え込んだ。前屈みになって、合わせた膝の上に肘をついた。目が真剣で、柴田は声をかけなかった。この状態の呉こそ本当の呉だと、柴田はそう思う。もう呉はこの事件に入り込んでしまった。警部補として、一つの役をこなす名役者として。そして柴田も彼を補佐する一刑事として。
柴田は喉を潤すため、コーヒーに口を付けた。砂糖抜きのミルクコーヒー。銘柄も好みのものだった。呉の気遣いが嬉しく、顔が緩んでしまう。
柴田は暫く様子を見ていると、突然呉は立ち上がり、玄関へと向かって歩き出した。
「耕、容疑者は集まっているって言ったね?」
「え、ええ。高田理恵、小山進一、永山萌の三人は今聴取を受けているはずです」
手帳を見、はっきりと答える柴田の方へと呉は振り返った。そして、いつの間にいたのか、診察室のドアの前にいる水野の方へと視線を向けた。
「水野…君は大体の真相がわかっているね?」
「それはお互いさまじゃないのかな?」
呉は不敵に笑う水野の言葉を、肯定しているのか否定しているのかわからない複雑な笑みで答えた。 |