三人揃って解決する
「どういうことかな?」
「わからないんです。自分でも何が引っ掛かっているのか…」
言葉が見つからなくて戸惑う柴田の方へと椅子を回転させた。
「第一印象に拘るのはよくないよ。直感は時に必要だからね。今持っている不安は第一印象をどうにかしないと消えないよ」
呉は意地の悪い笑みを浮かべた。柴田はその顔を見て少し怯んだが、年齢より幼く見える顔を顰めた。
「どういう意味ですか?」
「まあ、わかるよ。で、被害者の周辺状況と容疑者は?」
柴田は資料をめくり、よく通る声ではっきりと言う。
「被害者は高田孝治、四十八歳。大手企業の部長で人望は厚かったようです。しかし最近、よくない噂があったようですね。部長の右腕とも言える同僚の永山隆司が事故で死んだのは、高田がミスの責任を永山に押し付けたからだ、と。今事実を調べているところです。容疑者は、妻の高田理恵、部下の小山進一、永山の娘、萌です」
「ふーん、そこまで捜査は進んでいるんだね…まあ、とりあえず水野の所に行こうか。さっき連絡があったんだよ」
意味有り気な笑みを浮かべ、スタスタと歩いて行く。柴田は、水野さんですか…と弱く呟いて渋々呉の後についていった。
「呉! 耕、遅いですよ」
水野医院と書かれた病院の中に入ると、警官二人と話している男が呉達に気付き、呼んだ。
医院長、水野圭は内科・小児科・外科を専門に経営していた。飽くまでも個人医院なので、本人に加え、看護師は六人という少人数だった。それでもなんとかやっていける。そして副業として、司法解剖を指名があったときにだけ行っていた。様々な資格を持つ、呉の親友。
水野は、診察にくる老若男女にとても人気があった。愛想は良いし、腕も確かだ。それは呉が保証する。そして容姿も良かった。色素の薄い髪に茶色がかった瞳で、まるで西洋人形のように整った顔立ちで。
「耕、君なら聞いてくれますよね? 僕の死体記録」
しかし、少し変だった。いや、かなり変だった。呼ばれた柴田は呉の背中に隠れるように移動したが遅かった。左腕をがっしりと掴まれて、診察室へと連れて行かれてしまった。
柴田は水野のお気に入りだった。呉が信頼している部下だったので自然とそうなるだろうと思っていたが、思いの外それ以上に気に入ってしまったのだった。打てば響く玩具、と言えば言葉は悪いがそれに近い。呉にとって柴田は弟のような存在であると共に、水野にとっても弟だった。それを知っているので柴田は水野に逆らえなかった。
「呉さーん!」
ドアが閉まる直前まで柴田は呉に助けを呼ぶが、その声を無視し、呉は呆然と立っている警官に声を掛けた。
「ここは俺達にまかせて」
にっこりと笑って言う呉に警官達は好意を持ち、はいっと元気よく返事をして去っていった。呉は溜息を吐き、回れ右をして、診察室と書かれた部屋を見た。
そして、ゆっくりと水野と柴田の待つ部屋へと入って行った。
「耕、呉の勘は当たるよ」
警官に対してとは打って変わり、口調を和らげた水野は机の前に置かれた椅子に座り、おもむろに足を組んだ。柴田はというと、恐る恐る患者用の椅子に座り、肯定の意味を込めて頷いた。
「ええ、わかっています。それで、どうだったんですか?」
「そう! それね、面白かったよ」
楽しそうに満面に笑顔を浮かべ、柴田に近寄る。柴田は立ち上がって逃げようとしたが、上から肩を押さえられた。
「呉さん!」
「頑張れ、耕。話はまとめて後で教えてくれればいいから。俺は外にいるよ」
優しく言い、すぐに部屋を出ていこうとする。柴田は深く溜息を吐き、水野の方へと向き直った。
水野は足の上に肘を乗せ、組んだ手の上に顎を乗せた。ドアが閉まる前に、ぽつりと呉に呟いた。
「呉、この事件は君にしかわからないと思うよ」 |